見出し画像

現代の死に至る病。

岡田尊司さんの『死に至る病あなたを蝕む”愛着障害”の脅威』という本をタイトルに惹かれて読んだ。

元ネタはキルケゴールの死に至る病からなのでしょうが、あまり関連性は高くないので読んだことがなくても問題はありません。この本は現代人が抱えている生きづらさや、他人と表面上は上手くやれてるが他者を信じることが苦手というひとは読んで損はないとおもったので、簡略にまとめてみます。

愛着障害とはなにか?

本書では、大人になっても「生きづらさ」を抱える主な原因は幼少期に、母親に愛されなかったことによる、愛着障害に拠るものだと医学的な見地や様々なエピソード、過去の実験を引用しつつ紹介されてます。

端的に言えば愛着障害とは、幼少期に愛情を充分に受けなかったことにより、生きる為に必要な自己肯定感が育まれなかったと考えればいいです。自分はこの主張は説得力があると思いました。自分の周囲を思い返しても、家族仲が不和だったシングルマザーやシングルファーザーの子供は、感情の発露の仕方が苦手だったり素行が良くない記憶があります。

つまり愛着障害とは、自分自身には価値があり、この世に存在しててもよい人間と信じて疑わない力が足りていないことと自分は解釈しました。

太宰治と三島由紀夫で分類する愛着障害

愛着障害と一口にいっても様々なタイプが存在するようです。ここでは太宰と三島も愛着障害だったきらいがあったと説明されてました。わかりやすい例だったので、簡単に紹介します。読書が好きなひとは知ってるとおもいますが、三島も太宰も幼少期に実母に愛情を注がれずに育ちました。この本では、太宰を「不安型」三島を「回避型」と紹介されていたので、それぞれ見ていきます。

太宰が患っていた「不安型」の愛着障害とは仕事やお金の欲求より、他者から愛されているかどうか?が大事であり、それに左右されることにより人生を歩むのが困難だったようです。僕自身、太宰の著書をしっかり読んだことがないですが、エピソードなどを見ると納得します。女性と心中しようと試みたり、酒や麻薬に溺れていたのをきくと、他人の顔色や評価を気にして不安で仕方がないひとだったんだろうなという推測が立つからです。

一方、三島が患っていた「回避型」は自分が愛着障害であるということをうっすらは知っているのですが、無視して仕事や自分の興味に打ち込むタイプです。このタイプは何も病状がないように見えますが、突如希死念慮が襲ったり、体に異常が出るらしく太宰同様、三島も知ってのとおり自死を選んでしまいます。

なので、三島と太宰は作風も違いますし、見た目もまったく違いますが幼少期に母親の愛情を充分に受けなかったという点は共通してるので、たしかに、ふたりとも愛着障害だったというのは、あながち間違いではないような気がします。もし十分な愛情を受けて育っていたらふたりとも作家にはなってなかったでしょうし、少なくとも作風は違っていたでしょう。

愛着障害がなぜ死に至る病なのか

愛着障害が自死しやすくなる傾向があることを詳しく紹介されてるので、本書を一読してもらうのが一番いいですが、自死について本質的なことが書かれていたので、紹介します。精神科医のヴィクトール・フランクルは、アウシュビッツの強制収容所に自らもおくられ、そこで死んでいくひとをたくさん目にします。

そこで得た結論は『人が生きのびるためには「意味」が必要だ』ということだったようです。ようは、ご飯を食べて睡眠してるだけでは生きのびるには不十分ということです。この例に倣えば、良かったことや愛された経験があるひとは不幸が重なり絶望に囚われたときに自死を選ばず辛抱がききやすいです。しかし、生きる意味がないと感じてるひとは、耐えられるでしょうか?おそらく不可能です。それが死に至る病と呼ばれる所以です。

死に至る病は克服できるのか

愛着障害とは幼少期に十分な愛情を受けずに育ったことで患うのが大きな要因と書いてきました。さて愛着障害とは大人になってから乗り越えられるのでしょうか?

どうやら研究が進んでおり治療や予防は可能になりつつあるようです。詳しくは自身でいろいろ調べたり本書を読んで頂ければとおもうのですが、筆者曰く本質的には社会がひとと積極的に関わろうとしたり親切にするのを避ける社会になったからでは?と疑問を呈しています。

ぼくがこれを聞いて、パッと思い浮かんだのは、男性が女性にAEDを使って心肺蘇生をしたとしたら、セクハラで訴えられる可能性があるから、やらないとスタジオにいたほとんどの男性が答えていたのをAbemaTVで見た記憶があり、人助けすることさえ憚られる社会はたしかに病みやすくなって当然だなと思いました。とはいえ、実際に訴えるひともいそうなのは事実なので、判断は任せますが。

まとめ

愛着障害とは、幼少期に十分に母親に愛情を注がれなかったことにより、自己肯定感が長い人生を歩んでいくのに、耐えきれるだけの自己愛が育たなかったことにより、精神が病んでいる状態である。

しかし、それは近年の医学や研究により克服できつつある。とはいえ、他人との距離感を常に気にしつつ人とのコミュニケーションに気を使いすぎる世の中は自身の精神状態を蝕みます。少しでも興味が出たひとは、覗いてたり買ってみてください。それでは、ありがとうございました。

この記事が参加している募集

新書が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?