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MTGで偽造カードを掴まされないために

1 重大事件

※この内容は、事実を基に一部脚色したもので、フィクションだと思ってください。

先日、某店において事件があった。

「今日が初めてのレガシーなので、いろいろと至らない点があると思います。よろしくお願いします。」と申し訳なさそうな目で丁寧に挨拶をしている人の良さそうな青年が1回戦目の対戦相手だった。人は良さそうだが、こちらが申し訳なるくらいペコペコと伏し目がちの低姿勢で、少し暗い印象を受けた。

「至らない点もあると思いますが」という彼に対して「至らないという点ではみんな同じですよ。俺もまだまだ。」と返した。
彼は少しおぼつかない手つきでシャッフルを始めた。その手つきや、ゲーム開始前の準備がルーティーン化されていない様を見るだけでも、彼がレガシーだけでなくMTG自体もそれほど長くプレイしているというわけではないのだろうというのが推察された。
『初心者でレガシー参入となると8CastやMR Prison、BG Depth、Death&Taxesなどの青いデュアルランドを使わない比較的安価なデッキだろうか。』そう頭の片隅で彼のデッキに想像を膨らませつつ、滅多にいないレガシーへの新規参入者を嬉しく思っていた。『丁寧に優しく接して、レガシーの楽しさや奥深さを教え込んで、底なしの沼に引きずり込んでやるぞ!』なんて嬉々として考えていた。

デッキをシャッフルし、先手後手をダイスで決定し、キープ・マリガンの宣言を確認し、もう一度「よろしくお願いします」と挨拶を交わし、対戦が始まった。先手は自分だ。≪島/Island≫から≪思案/Ponder≫を唱えてターン終了。さあ、相手は・・・?最初の動きは≪Bayou≫をセットランドしてから≪思考囲い/Thoughtseize≫だった。
『おお、白枠だがしっかりデュアルランドが入っているデッキだ。』2022年6月現在、NMで80,000円(晴れる屋参考価格)もするカードである。現在の価格でよく集めたものだなと感心する。そして、自分の視力は0.2~0.4の近視で、対面に座る対戦相手も手元に土地を置いているので少し遠目ではあるが、NMかなと思うほどには状態がよく見えた。なんなら少しテカっている。もう一度見てみるが、相当状態が良いのか白枠が強めにテカっている。小さな違和感を抱きつつも対戦は進行する。

次のターンの相手のセットランドは≪Tropical Island≫だった。BG Depthではない青いデッキだ。これはANTかAlurenか?と考える自分の思考の前に先ほどとはくらべものにならない大きな違和感が立ちはだかった。≪Bayou≫と違い、遠目でも見た瞬間に感じる色調の違い。いや、間違いといった方が正確だろうか。パッと見で2ED版のようにも見えなくはないが、2EDとも一致しない印刷の濃さだ。3EDのカードだとしたらその印刷は間違いなく、間違っている。
上腕三頭筋から僧帽筋にかけてすーっと霊気が通う様な嫌な予感が流れる。その予感に背中を押されながら「ちょっと見せてもらっても良いですか?」言うと、「あ、はい」という相手の返答を待ちきれずに相手のカードに手を伸ばしていた。

2重スリーブから少し頭を出したところで見えたカードの質感だけで、先ほどの予感は70%ほど確信に近づいた。「ちょっと、違和感が・・・後で店員さんにも見てもらった方がよさそうです。」
ルールに詳しいわけではないが、おそらく偽物を使用してイベントに参加してはいけない筈だ。この疑惑をすぐに解決しようとすると、この対戦が終わってしまうかもしれない。良いことではないと思いつつも、自分の中でもそれが偽物であるという確信には至っていないことを言い訳に、対戦相手の初めてのレガシーをもう少しだけ続けられるように、プレイを再開した。
彼の初めてのレガシーという経験をなるべく嫌なものにしたくないという思いと、自分の見る目が節穴でそれが本物のデュアルランドであることを願う気持ちと、本物か偽物か少しでも早く確認したいという焦りが交錯し、プレイに全く集中できなかったが、それでも、相手のプレイングの未熟さと運によって対戦自体は自分の勝利に終わった。
相手のデッキは自分が相棒としているANT(最近ほとんど使っていないことは、今は触れないでおこう)だったので、「ANTですか?俺も大好きなデッキなんですよ」と対戦後の会話を切り出した。だが、頭の中はもうそれどころじゃない。一秒でも早く疑惑を解決したかった。

ひとまずは落ち着いて、コンパニオンにより結果を報告し、改めて「さっきのカード、もう一度見せてもらえますか?」と言って相手の≪Bayou≫を見せてもらう。
許可を得て、インナースリーブからも出してみるが、自分が知っているデュアルランドとは質感が全く違う。テカりというか、全体的に艶があり触った感じもペタペタとしていて、少し厚く感じる。以前に駿河屋のショーケースに並んでいた≪血染めのぬかるみ/Bloodstained Mire≫や、Cardshop Serraに偽物の見本として置いてあった≪ライオンの瞳のダイアモンド/Lion’s Eye Diamond≫と同じような印刷だ。少なくとも自分の目では偽物にしか見えなかった。

≪Bayou≫をじっと眺める自分を前に「8万8千円したんですよ。」と震える声の対戦相手だが、それに返す言葉が思い当たらない。『その金額なら信頼できる店で買えたはずなのに何故?』とは思ったが彼の行動を咎めることは、今は重要ではなかったからだ。
「どこで買いました?ヤフオクですか?」という質問には力なく「はい」と回答があった。あまりに小さい声で一度聞き返してしまうほどだった。

まだ、自分の目が節穴である可能性もあるし、一人の言葉だけでは彼を次の行動に移させるには不十分だろうと思い、対戦中にジャッジを呼ぶかのような大声で店員の名前を呼んだ。顔馴染みで古いカードにも詳しくてある程度真贋の区別がつくであろう店員(B)だ。
「どうしたんスか?」とおどけた感じでやってきた店員に対して「コレ見て」とだけ伝えてカードを渡すと、「なんスか?・・・あっ」すぐに気づいた。
言葉もなくジッと疑惑のカードを眺めた後に「他のカードも見せてもらっていいですか?」と彼のデッキを借りて黙々と2つの束に分けだした。何を始めたか察した自分は、店員が瞬時に見分けていたために発生した数枚の間違いを「これはセーフでしょ」と横から修正した。完成した2つの束は、そう、偽物と本物の束だ。
デッキの中のうち、デュアルランド、フェッチランド、≪ライオンの瞳のダイアモンド/Lion‘s Eye Diamond≫などの高額なカードが1つの束に、それ以外のカードが別の束に綺麗に分けられた。
店員は、重く慎重に言葉を選びつつ、高額なカードがまとめられたカードの束を示して、それがMTGのカードとは言えないものであること、そして大会の運営者としてこのカードを使用して2回戦以降のプレイを続けることができないことを彼に説明した。少なくとも、この場での結論は確定した。おそらく彼にとっては最悪の形で。

「ヤフオクは、ダメです・・・」そう伝えると「MTGやってる人って民度高いから大丈夫かなって・・・」と絞り出されるが、「ヤフオクに出している人がここにいるプレイヤーと同じ(ように誠実である)とは限らないんですよ。」と返さざるを得ない。
一ヶ月ほど前に購入したということで、そこまで時間がたっていないことから、まずはキャンセルができるかどうかを確認し、できないということであれば警察に相談することを勧めた。ボーナスの査定が良く、「この機会にと思ってヤフオクで一括購入した」という彼の被害額は数十万円にも上るとのことだった。
※2022年6月現在、ANTを1から購入しようとすると約60万円は必要になる。

『もし彼がレガシーに慣れたプレイヤーだったら、カードが届いてすぐに偽物に気付けたかもしれない。いや、そもそも慣れた人ならそんなところから買うようなことはしない』とか『俺が指摘せずにそのままにしていたら彼は偽物に気付くことなく楽しくMTGを遊べていたのかもしれない』なんてどうしようもない思考が頭を巡る。
結局、自分の口から出てきた言葉は「必ず、お金を取り戻して、この場に戻ってきてください。今度は店舗で買って、本物で。一緒にレガシーをしましょう。」という願望だった。

『この状態から金を取り戻せたとしても再びレガシーを遊ぶところまでメンタルを戻せるとはとても思えない』と思ってはいたが、彼がその後にANTのプレイングについて、「相手がANTだとしたらどういうプレイをされたら嫌でした?あのターンは打ち消しは持ってましたか?」と聞いてきてくれたことで少し希望が持てた。気のせいかもしれないが、彼の眼には『デッキを上手く回したい。上手くなりたい。』という熱意が残っているように感じた。低姿勢なのは変わらないが、少なくとも顔を上げてプレイングについて考えている彼には最初の暗い印象はもうなかった。
こちらは『こんな事件になってはしまったが、少しはレガシーに興味を持ってもらえたかな。』と自分に言い聞かせて心を保つのに精いっぱいだったが。

普段自分がレガシーしかしないので、レガシーを初めてプレイする彼とは初対面だった。だから、彼の言っていることがすべて真実かどうかもわからないし、自分の言葉が彼にどの程度届いたかもわからない。だが、仕方がないこととはいえ、自分の手で少なくともその日は一人のプレイヤーをレガシーという土俵から排除しなければならなかったことが悲しくて、悔しくてならなかった。

2 購入方法

さて、今回は、今まで何度も書かれていることだとは思うが、この悲しい経験から、改めてカードの購入方法について初心者に向けて説明していきたいと思う。

(1)店で買え

ほとんどのMTGプレイヤーにとっては常識となっているが、カードはカードの専門店で購入すべきである。
近くに晴れる屋などの専門店があれば直接行って購入するのが最も良いと思う。行くのが難しい場合でも、現代ならネット通販が活用できる。10年前であれば、ネットショップの選択肢も少なく、ネットショップとヤフオク等の価格差も大きかったし、偽物がそれほど流通していなかったこともあってヤフオク等を利用することにまだメリットがあった。実際、自分が最初に購入したデュアルランド≪Underground Sea≫4枚は、2011年にヤフオクで1枚1万円で購入したものだった(※当時の相場で店売り約12,000円)。この4枚は、2018年にセラで≪Black Lotus≫を購入する際に買い取り出しているが、しっかりと本物として買い取ってもらうことができたし、自分で見ても本物であったと思う。実際に数年間ヤフオクを使っていて偽物に遭遇することはなかったが、2017年2月に≪Bayou≫の仏語黒枠を購入したのを最後に一切ヤフオクなどでカードを購入することをやめた。
「中国でプロキシが大量に作られている」なんてうわさが流れ、実際に偽物を買い取りに持ち込んだという情報が各所に出てくるようになったからだ。その後、2021年には、カードゲーム関係のYouTubeの広告にプロキシ作成業者の広告が流れてくるほど偽物の作成が一般化してしまっているという状態だ。
もはや、悪意を持って偽物を作って金銭を詐取しようとしているわけでなくても、素人が偽物と気付かずに入手し、販売している可能性も考えなければならない。もちろん、店舗での販売であってもそれと気づかずに販売してしまう可能性は否定できない。実際に業界最大手である晴れる屋で≪ガイアの揺籃の地/Gaea’s Cradle≫のFoil版という希少で目にする機会の少ないカードの偽物に気付かなかったという事件もあったほどである。
それでも、毎日仕事としてカードと向かい合い、本物のカードを見慣れている専門店と、誰かもわからない素人との信頼度の差はあまりにも大きい。
カードを購入する場合は店で買うべきだ。

(2)大手で買え

普段、自分はカードの価格を調べるのにWisdom Guildを利用させてもらっている。非常に便利なサイトではあるが、すべての販売店がここに掲載されているわけではない。そのため、以前、カードを購入するのに検索サイトでカード名を検索し、辿り着いた店舗で購入しようとしたことがあった。
青緑色の90年代みたいな簡易な作りのウェブページに、稼働し始めたばかりという記載。それに対して豊富な在庫。通常、新たに販売を開始する場合はスタンダード付近のカードが中心になるにもかかわらず、在庫が広く準備されている。わずかな矛盾を感じ取る。
注文フォームもから進んだ先のクレカ情報の入力画面も簡素すぎる。単純にセキュリティーの不安もあり、危険を察知して自分はここでUターンした。
数週間後、該当のウェブページは見当たらなくなっていたし、ほぼ間違いなく詐欺もしくはクレカ情報の抜き取りが目的だと思われる。店だから必ず信頼できるというわけではない。奴等も、金銭を詐取するためにアレコレと手段を使ってくる。フィッシング詐欺、ワンクリック詐欺、偽警告詐欺など様々な手口があるが、これは所謂「偽販売サイト詐欺」というものだと思われる。
様々な詐欺の手口から身を守るには、常に情報を入手し、警戒している必要がある。大事なのは自己防衛である。
念のため、以下に、過去に自分が使用して問題のなかった通販店の名称を記載しておくので参考にしてもらいたい。もちろんこれ以外でも安心して使えるお店はあるので、あくまで一例として。
※発送が遅いとか注文を間違えた等の過失は、どこを使っても発生し得るので考慮しない

<日本>
・晴れる屋
・BigWeb(Big Magic)
・Cardshop Serra
・東京MTG
・Endal Games
・シングルスター
・toyajushop
・Owl MTG(使ったことはない)
・カードラッシュ
・ドラゴンスター
・あきあき
・カーナベル(状態表記やカードの分類などはちょっと不安)
・ファミコンくん

<海外>
・Star City Games
・ABU
・Channel Fireball(日本発送不可の場合があるので要注意)
・TCG Player
・Card Kingdom(梱包が甘く、カードか傷ついていたことがあったがその後の対応は◎)
・MTGMintCard
・Magic Madhouse(英国)
・Icarus Magic(旧Cardhouse の時によく使っていた)

(3)個人取引は贈与だと思え

ここまで、お店での購入を全力で推奨してきたが、個人間取引の一切を否定するつもりはない。数年前まではグランプリでのトレードも盛んだったし、今でもTwitter等で知人からカードを購入することはある。
長くMTGを遊んでいれば、信頼できる友人はできるし、その人が生活を壊す危険を冒して金銭を詐取する人なのかもわかってくるはずだ。
実際、我が家にあるデュアルランドのうち1/3ほどは知人から購入したものである。引退する人、結婚する人、欲しいカードを買うための資金源とする人など様々な事情のもとで売りたいという人から、相場よりも安く購入した。最近では欲しいカードが希少なものに偏ってきているためそういった機会は減ってしまったが、需給が嚙み合えば積極的に買っていくだろう。
ただ、その時に気を付けなければならないのは、“騙される覚悟”を持つことだ。
どんなに信頼している友人でも、知らないところでお金に困って間違いを起こす可能性はあるし、偽物だと気付かずに売ってしまうことはある。それが企業の中の個人であれば企業そのものに求償できる可能性があるが、個人間ではそうもいかない。騙されても良いと思える友人か、騙される確率と相場より安く買える利益とを比較考量した結果として買うという選択に至るか、どちらにせよお金を失うだけになる可能性を考えておくべきである。
なお、詐取された場合は金額にもよるが、訴訟して取り返すくらいなら泣き寝入りした方がマシだということも少なくないだろう。
個人間取引をするのであれば、相手に金銭を贈与するくらいの覚悟でいた方が良い。

(4)競売は叩いて渡るな

友人同士の個人間取引であっても、危険は大きいのに、顔も見えず信頼も関係もない相手とのネットオークションでの取引なんて言語道断である。
「相手の評価は確認した」
「そうか。では、その評価はしっかりとMTGのカードを販売していたものか?評価は定型文句だけでなくしっかりと人が評価しているのが見て取れるものだったか?間違いを起こさない人はいないと思うのだが、いい評価だけでなく良くない評価はあったか?それに対して適切に対応できていたか?」
「そこまでは・・・」
単純に評価の高いアカウントを作りたいのであれば適当に複数のアカウントを作成して取引を行い完了させておくだけで良い。場合によってはアカウントそのものを転売している可能性もある。その評価に本当に取引が発生し、そこにしっかりと本物のカードを販売している人間が存在しているかどうか判断するのは非常に難しい。特に、ここ数年はヤフオクで落札後の評価に定型文が利用されるようになったことから、ほとんど同じ文言が評価に記載されている。そうなると、仮に日本語が話せなくても評価の高いアカウントが作れてしまう。
評価や取引履歴、出品内容を確認し、一見して問題がないことも多いだろう。しかし、問題がない=安全に取引ができるというわけではない。問題がないだけなら、おそらくそれは取引すべきではない。「確実にこの人は取引可能である」ということを読み取れる場合にようやく信号が黄色になったと考えるべきだ。
因みに、黄色信号は「注意して進め」ではなく「安全に停止できるなら止まれ」である。他に安全な取り得る手段があるのであれば、そちらを選択すべきということ。

3 自己防衛

個人間取引についてもある程度肯定的に記載したが、今もし少しでも自分は大丈夫だと思っている人がいたら、必ず騙されると思った方が良い。某漫画のセリフを借りるなら、「『ありえない』なんて事はありえない」。自分が騙されるコトも含め、様々な可能性を考慮に入れて行動すべきだと伝えなければならないだろう。
もちろん、騙される人が悪いのではなく、騙す人が悪い。それは間違いない。しかし、騙された時に損をするのは自分自身であり、損をしたくないのであればそのための自己防衛は必要である。
目の前にある情報すべてを信頼することなく、自らの頭で考え、何を信頼しどのリスクを受け入れるか自ら選択し、自分の選択に対して自分自身で責任を持つことが重要だ。
そして、いつの日か、ともに対戦テーブルを囲う日が来ることを願っている。

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