日本の女子教育失敗の歴史

SYNODOSさんに掲載された「日本の女子教育の課題ははっきりしている」の追記Part2です。もう一度日本の女子教育の課題を要約すると、中等教育では質・量ともに優れているが、①教育段階が上がるほど女性が少なくなる、②女子大生がSTEM系の専攻を避けてしまっている、③そしてトップスクールの女子学生比率が低い、という3点になります。ところで、教育段階が上がるほど女性が少なくなるというのは一体いつ頃からの現象なのでしょうか?ユネスコ統計研究所の高等教育でのGPI(女子の就学率/男子の就学率。1だと男女均衡、1を超えると女子の方が・1を下回ると男子の方が就学している)を使って、他のOECD諸国と共に45年前から振り返ろうと思います。

まずは1970年ごろのデータです。日本は男子大学生が10人いたら女子大生はわずか4人と酷い状況ですが、まだこの時点ではどの国も男女均衡は達成していません。さらに0.4から0.8の間に大半の国が存在しており、確かに日本の状況は悪いものの、断トツに酷いわけではないことも分かります。つまり日本の高等教育での女子教育に課題があるというのは日本独自の物ではなく、50年前までさかのぼればどこの国でも女子教育に課題を抱えていたと言えると思います。

続いて1980年頃の話です。この頃には男子大生10人に対し、女子大生は5人となり状況は改善しています。しかし、この頃にはアメリカで女子大生の人数が男子大生の人数を上回ったのを始め、何カ国かで高等教育での量に関する女子教育の問題は解消されています。さらに、半数近くの国がGPIで0.8を超えてきています。

さらに時計の針を10年進めます。この頃の日本では男子大生10人に対し、女子大生は7人いる計算になります。この10年間で日本の高等教育での女子教育は大幅に改善したと言えるでしょう。しかし、半数近くの国で女子大生の数が男子大生の数を上回り、そろそろ日本の女子教育の改善のペースが他国と比べて随分遅い事が鮮明となってきます。

それでは21世紀に突入します。2000年頃、日本では男子大生10人に対し、女子大生9人という割合になっています。この10年でも大幅な改善をみせたと言えるでしょう。しかし、他のOECD諸国も同程度の女子教育の伸びを見せ、半数近くの国でGPIが1.2を超えています。

それでは一番最近のデータです。2000年のデータと比べてもらうと一目瞭然なのですが、日本は最近の15年間で高等教育での女子教育に全くと言っていいほど進展が見られませんでした。確かに2000年の時点でGPIが1.2を超えている国も変化があまり見られませんが、それ以下の国では幾分かの改善が見られます。特に、いつも日本の後ろにいたスイスにも追い抜かれ、トルコにも随分と差を縮められ、抜き去られるのも時間の問題となっています。韓国とドイツも相変わらずのようですが。。。

2000年以降進歩が見られない日本の女子の高等教育進学ですが、同様の事はSTEM系への進学にも言えるのでしょうか?それとも、高等教育進学は停滞したものの、進学の内訳は人文系からSTEM系へとシフトしたのでしょうか?これもUISのデータを使って検証したいと思います。

上の図はOECD諸国の2000年頃の工学系学部の卒業生に占める女子学生の割合です。日本はOECD諸国で下から2番目の10%台前半です。この時点で既に日本の女子教育の失敗は明白だったのですが、そこからどれぐらい挽回できたのでしょうか?

上の図は先ほどの図の最新のものです。日本の女子の高等教育進学率同様、女子の工学部進学もこの15年間全く進歩がなかったようです。しかも、この15年間で他のOECD諸国で女子がより工学部に進学するようになったため、日本の工学部での女子学生の割合はOECD最下位へと転落し、他国との差も随分と開きました。では次に科学技術系を見てみましょう。

上の図はOECD諸国の2000年頃の科学技術系学部の卒業生に占める女子学生の割合です。やはりこの時点ですでに日本の女子教育の失敗は明白…。

そして上の図は先ほどの図の最新のデータです。工学部における女子学生の割合と同様、日本の科学技術系学部における女子学生の割合はこの15年間で全く進歩が見られず、この期間で他のOECD諸国に伸びが見られる分、日本の相対的な位置づけはより悪くなっています。

まとめると、日本の女子大生の数は50年前から少なかったものの、他のOECD諸国以上にその改善のペースが遅く、さらにまだ均衡点にすら達していないにも関わらず2000年から全くと言っていいほど進捗が見られなくなってしまいました。同様の事はSTEM系の進学にも言え、この15年間で他のOECD諸国ではより多くの女子がSTEM系学部から卒業するようになったにもかかわらず、日本では全く進捗がありませんでした。「自分は現状維持しているつもりでも、周りが進歩している分だけ後退している」、とはよく聞くセリフですが、日本の女子教育の失敗にはまさにこのことが当てはまると言えるでしょう。

教育の成果が出るのには時間がかかるというのもよく言われますが、この15年間日本の女子教育が停滞したことを考えると、日本の女性はいつまでたっても他のOECD諸国の女性たちのようには活躍できないんだろうなと思います、残念なことですが。

サルタック・シクシャは、ネパールの不利な環境にある子供達にエビデンスに基づいた良質な教育を届けるために活動していて、現在は学校閉鎖中の子供達の学びを止めないよう支援を行っています。100円のサポートで1冊の本を子供達に届ける事ができます。どうぞよろしくお願いします。