2022年にたくさん聴いた曲(と、2022年に考えていたこと)のご紹介
毎年年末になると、この一年考えていたことをまとめておきたくなります。
でも、今年はほぼ仕事しかしていなかったので、書けることが何もないなと考えていました。
そんな折にApple Musicが、「Replay’22」という今年たくさん聴いた曲のリストをレコメンドしてくれました。
どんなに忙しくても、音楽は聴くものなんだなあと思いました。
積極的に発掘したりはしなかったですが、その分、自分の思考と直結しているリストのような気がしています。
今年は、この曲をとっかかりに、一年間考えていたことをまとめてみたいと思います。
たくさん聴いた順にご紹介
恣意的に編集するより無意識そのままの方が面白い気がしたので、単純に再生回数の多かったものから順に並べてみます。
なお、同じアーティストの曲は割愛しています。
SUPER MUSIC(集団行動)
相対性理論とか、最近だとあのちゃんの「ちゅ、多様性。」を作ったりなどしている真部脩一さんの組んでいたバンド、集団行動。
今年見つけたのでたくさん聴いています。
そして、見つけたときにはもう解散していました、悲しい。
この曲のすごいところは、何よりタイトル。
歌詞の中でも「スーパーミュージック」って歌いまくっています。
自分は物を考えるとき、頭の中でいろいろとこねくり回してしまう癖があります。
その癖を自覚してからは「シンプル、ストレート、ストロングという、3つのSがなんだかんだ大事なんだ」という合言葉を作って、考える上での指針にしてきました。
今年この曲をたくさん聴いたのも、シンプルであろう、ストレートであろう、そして強いものを届けよう、という想いと呼応したからなのかもしれません。
(あるいはボーカルの方の声が好きだというだけの理由だったのかもしれません)
自分もいつか、自ら「SUPER」って自称できるような何かを作りたい。
BADモード(宇多田ヒカル)
この曲は世界を救っていると思います。
この「BADモード」って言葉を発明したことがすごい。
「落ちてて」とか「しんどくて」とか「鬱で」とか、そういう状態を示す言葉はたくさんあります。
ただ、それらの言葉には、たくさんの意味が付随しすぎている。
ファッション鬱もあれば、病状としての深刻な鬱もあれば、とにかく言葉の意味が定まらない。
だからこそ、言葉を使ったときに誤解を受けやすいし、誤解を受けやすいからこそ使いにくい。
そんなときに新しい「BADモード」という言葉を発明し、そして「売れてるアーティスト」として歌う(=世の中に広まる)ということが、本当に素晴らしいことだなと思いました。
曲としても本当に素敵なところに溢れていて、イントロのピアノの、世代的にはたまらない「宇多田ヒカルっぽさ」にまず心を掴まれます。
(シンプルな和音をリズムに乗せて刻むだけで立ち現れてしまう作家性。創作物に自然と署名が入るということが、イコール才能だなと思う)
そして、特に好きなのがサビに突入する前の6小節。
ベースが不用意に動かないところが特に素敵。
だからこそサビが(そしてBADモードという言葉が)非常に立っている。
そして、これはもう、わかんない人にはわかんないと思って書くのですが、サビの歌詞は、本当に本当に慎重に選ばれた極上の言葉なんです。
こういうときって、大丈夫だよ、とか、元気出して、とかじゃないんだよ。
あなたは素敵ですとか、あなたには価値がありますでもないんだ。
BADモードのときに必要なのは「君に会いたい」だし
「好き度変わらない」なんです。
いつかまた良くなると知ってても、また悪くなることを想像してしまうからつらい。
その繰り返しに疲れて「祈るしかないか」と考えると、曲もまた不安定になっていく。
どこが出口かわからない中、リズムが消えた中で、アシストするかのように、各楽器が私を立ち上がらせてくれる、そんなアンサンブルも優しい。
私もね、少しずつ大人になっているよ。
だからあなたも、頼ってね、と。
Last Surprise(Lyn)
ペルソナ5というゲームのバトル曲です。
招待していただいたライブイベントが素晴らしくて、そのあとしばらくリピートして聴いていました。
幕張メッセで2Days、装飾から演奏まで凝りに凝ったステージと満員のお客さんを見て、IPを育てるというのはこういうことだなと目の当たりにしました。
めちゃめちゃお金をかけて、最高の体験をしてもらって、次に繋げていく。
ステージ装飾だけで軽く億は行ってますね、あれは(たぶん)
この曲のサビには最高の高揚感があって、でも全力でハッピーかというとそうではありません。
敵をやっつけてやるぜ、というイケイケな歌詞内容に反して、サウンドにはどこかセンチメンタルな、胸が締めつけられる感覚があります。
それはきっと、青春にいつか終わりが来るからなんじゃないかと思っています。
ジュブナイルの、その終わりがいつか来ることを、彼らは知っている。
ストリングスのコードもなかなか着地せず、次へ、次へと続いていくように選ばれています。
そのサウンドがなんだか「このときが終わらないでほしい」という、願いのようにも感じるのです。
織姫(水曜日のカンパネラ)
ボーカルが変わった新生水カン。
やっぱりヒットしちゃう…ケンモチヒデフミという人は本当にすごいです。
この歌を聴いていると、なんだか昔を思い出して恥ずかしい気持ちになります。
会社員やりながら「いつかジャンプ新人賞取ってやる」とか、ゲーム作りながら「芥川賞取ってやる」とか言いながら、結局そんな時間なかなか作らずに夢だけ語ってる奴の歌でしょ、これ。
発明の才能は全然ないのに、発明家気取って発信しちゃったりなんかして。
でも、得意になりたいことより、そうじゃないことの方に才能があるって、あるあるだったりしますよね。
新時代(Ado)
ワンピース、全然知らないんですが、なんかすごいっぽかったので劇場に見に行っちゃいました。すごかった。
中田ヤスタカが曲、MIKIKO先生が振り付けっていう、既視感あるライブシーンがすごかったってのもあるのですが、それよりもすごかったのがバトルシーンでした。
たぶんたくさんのバックストーリーを背負っているんだろうな、という技が、いくつもいくつも連続で放たれて、連載25年の重みを一気に見せつけられたような気がして、涙が滲んでしまいました。
長く続いたものには、シンプルに強い価値があるなと思います。
そして、この曲、歌がめちゃめちゃうまい。
仮にスペイン語だったとしても、歌の魅力で聴いちゃった気がします。言葉はローカルでも、感情はワールドワイド。
人類共通の価値ってあるよなあと気づかされました。
短いフレーズに多彩な声色、感情を詰め込んでジェットコースターのように歌うこれは、一体どうやって歌っているのだろう。
事前に綿密に計算して、ゆっくり練習してから一気に歌い切っているのか、あるいは何の前段もなく、いきなりであれができてしまうのか。
後者のような気がして怖い。
New Money(カルヴィン・ハリス & 21サヴェージ)
いま、カルヴィン・ハリスはどこかの島かなんかで野菜を作って暮らしている、という記事を見たような気がします。
前のアルバムに比べてキャッチーではないので、あまりどんな曲だったのかを覚えてはいないのですが、でもたくさん聴いたということなのでしょう。
きっと野菜を作りながら曲を作っている、その姿をイメージしながら聴いていたんだと思います。
Made for Mermaid(Orange Ocean & The fin.)
フリッパーズギターの未公開曲です、と言われたら信じてしまいそうな雰囲気の曲。
Orange Oceanの他の曲を聴くと、ときにたとえばBEAT CRUSADERSっぽかったりもして、懐かしい要素がたくさん感じ取れます。
中国の青島で結成されたバンドとのことです。
世界は広いようで狭い。
チャイコフスキー:交響曲第6番<悲愴>(テオドール・クルレンツィス & ムジカエテルナ)
クラシック、日常的には全然聴かなくなっちゃったのですが、テオドール・クルレンツィスという指揮者を見つけてから、久しぶりに聴いています。
これまで他の演奏だと聴こえなかった音が立っていたり、解釈がまるで違っていたりするのでとても楽しい。
録音技術も駆使されています。
小さい音がきちんと小さくて、大きい音がきちんと大きいのです。
特筆すべきは第一楽章展開部のスピード感。
このグルーブを持った悲愴はこれまでなかった。
そして、第一楽章の例のキラーフレーズ、3回繰り返されるあのフレーズの歌い分け方(さらに中でも駆け上がりのニュアンス)もまた絶妙。
聴きながら涙が滲みます。
シカゴ(Live)(クラムボン)
これはぜひ、このアルバムの、ライブバージョンを聴いてほしいです。
お客さんと原田郁子をはじめとするバンドメンバーのやり取りに、心がほっこりします。
ライブっていいなあと思います。
熱量を作りたい。
Never Again feat.青木カレン(菅野祐悟)
ドラマ「昼顔」のサントラ。
これまで見たことがなかったのですが、ふと何の気なしに再生してみたら引き込まれてしまいました。
このドラマの素晴らしいところは、画面全体の色のコントロールと曲のふたつで、何でもない出来事をとてもドラマチックに見せてしまっているところです。
こんなにドラマチックなママチャリシーンはこれまでなかった。
これまでなかったものの掛け算が斬新だからこそ、ヒットしたのかなと思いました。
ニーアオートマタを思い出しました。
同じ方法論で作られている気がする。
Panorama(パソコン音楽クラブ & 弓木英梨乃)
最近よく聴く、パソコン音楽クラブ。
古い機材を集めてきて曲を作っている、ということについて語っている記事が多いですが、エモーショナルな歌詞も、サウンドと同じくらいに素敵だと思います。
少ない言葉で、大切な瞬間を確実に切り取るセンス。
学びがあるわけでもないし、狂おしい想いが伝わるわけでもない。
ただ淡々と、写真を撮るように、時間を切り取っていく。
そんな歌詞もいいなと思います。
Nobody Like U(4*TOWN)
ピクサーの「私ときどきレッサーパンダ」という映画のサウンドトラックより。
ピクサーにはめずらしく、監督の自伝的要素が存分に注入されている作品。
この曲を歌うグループは、女の子たちに大人気。
BTSのような、あるいは世代的にバックストリートボーイズかもしれない、そんな感じのアーティスト。
この曲の映画の中での使われ方が本当に素晴らしいのです。
母親を象徴する民謡(?)と、友だちとの絆を象徴する4*TOWNの曲が融合し、圧倒的な絵力で描かれるクライマックスシーンは圧巻です。
作詞作曲は、ビリーアイリッシュとその兄。
BADモードと同じく、この映画もたくさんの人を救う作品だなと思います。
TURNING REDしちゃったとき、どうすればいいか。
自分の中のレッサーパンダと、どう共存していくか。
お仕事編
いろいろご紹介させていただきましたが、実は今年のイチオシバンドはこの中にはありません。
本当にイチオシなのは、仕事で関わっているゲーム内に出てくる劇中バンド「She is Legend」です。
※シナリオを書かれているゲームブランドKeyの麻枝 准さんという方が作詞作曲をしています。
ダブルボーカル&デスボイス入り(このデスボイスがやたらカッコイイ)
ゲームとは切り離して、曲だけでも楽しんでいただけるかと思いますのでぜひ。
2曲ほどご紹介させてください。
Judgement Day(She is Legend)
She is Ledendの歌詞には、ある一定の通奏低音があります。
基本的な「生きづらさ」と
そして「才能が枯れることへの恐れ」
だけど、生きていくのだと、
たとえ人生が壮大な暇つぶしにすぎなくて、この世は牢獄で、生きることが罰でも、
それでも、生きていくのだということが歌われているのが、She is Legendの曲なのです。
そんな歌詞に想いを馳せながら聴いていると、XAIさんの祈るような声につづき、
鈴木このみさんが「長い長い夢を見ていた」と歌い上げる瞬間、切なさが込み上げます。
「目覚めたら泣いてた」という言葉に、たまらなく胸が締めつけられるのです。
ちなみに↑のBreak the Sea!というのはデスボイスです。
どんなに感動的な歌詞の合間だろうが、ここなら叫べそうだと思った瞬間に叫んじゃう感じが、キャラクター性とも相まって微笑ましい。
そうした仕掛けや、曲調のポジディブさ、歌声のトーンが、絶妙なバランスで棘のある歌詞を包んでいる。
だからこそ、多くの人が勇気づけられているのかなと思います。
Goodbye Innocence (She is Legend)
ダブルボーカルの掛け合いが映える名曲。
同じ音形を、ときにひとりで、ときにダブルボーカルで、ときにリフレインで、繰り返し、繰り返し、繰り返しつづけながら、心の柔らかいところをノックしつづけるのは、麻枝さんの曲にしかない魅力です。
この「心の柔らかいところにチューニングを合わせて繰り返しノックする」というのは、曲だけでなく、シナリオにおいても同じだと、自分は感じています。
だからこそ、ピッタリとはまったときに感動が深い。
この曲も、ぜひゲームのシナリオと一緒に聴いてほしいなと思いつつ(でも今の時代にいきなりその手間を求めるのもエゴかなと思うので)
まずは曲だけでも聴いてみてください。
まとめ
音楽に限った話ではないのですが、世の中本当に素敵なコンテンツに満ちているなと思います。
その傾向は、年々上がっているようにも感じます。
人々の脳がネットで接続されて、その上機械学習も発達し、今後、平均点の感動が世の中に満ちていくような気がします。
そんな中で、ものを作って届ける仕事に携われているのはとても幸せなことですし、一方で、生半可な覚悟では年々太刀打ちできなくなっていくんだろうなと、強く思います。
中途半端に忘れ去られてしまう何かより、忘れられない何かを作りたいものです。
来年もお腹の痛い1年になりそうです。
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