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相対的貧困率が先進国で最悪な日本

 子どもの貧困対策法が成立して10年が経った。2019年の法改正では「国連子どもの権利条約」の理念に据えられ、子どもの意見を尊重しながら対策を推進していくことが明記された。また、2023年4月には、こども基本法が施行され、こども家庭庁も発足した。子どもの貧困対策は年を追うごとに前進している面もあるが、対策が実現して子どもに届くスピードよりも、子どもの貧困状況が速く深刻化し、長期化していることが懸念されている。

 新型コロナウイルス感染症の拡大や、ロシアのウクライナ侵攻に伴う物価高騰が、子どもたちにも深刻な影響を及ぼしている。2023年6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」や、その中で今後3年間の優先度の高い政策をまとめた「こども・子育て支援加速化プラン」でも、児童手当の所得制限撤廃や支給対象の高校卒業までの延長、支給額の見直しなどの言及はありつつも、子どもの貧困対策に関する記述は限定的なものだった。政府の議論では少子化対策、子育て支援のみが重点的に検討されており、社会の中で特に取り残されている子どもたちが置き去りにされてしまうことを危惧する。

 2023年7月4日、国は、最新の子どもの相対的貧困率が11.5%と公表した。前回2018年調査(約14.0%)と比較して子どもの貧困が改善されたように思われるが、本当にそうなのかと疑いたくなってしまう。

 セーブ・ザ・チルドレン東京本部が実施した2023年の「夏休み 子どもの食 応援ボックス」の申し込み時の調査結果では、十分な量の食料を買うお金がないと回答した世帯が7割を超えるなど、 経済的に困難な状況にある子ども・子育て世帯が直面している困窮はきわめて深刻であることがわかっている。

 2016年の夏ごろであっただろうか。NHKで放送されたニュースが「貧困たたき」を生む事態になった。番組は、ある県の「子どもの貧困」に関する会議で発言した女子生徒を取材した内容だった。ひとり親家庭で育ったこと、自宅アパートには冷房がないこと、パソコンが購入できないので練習のためキーボードだけを母に買ってもらったこと、などの生活状況が伝えられた。    
 ところが放送後、ニュース映像に映った自室に高価な品があるなど批判の声があがった。さらに女子生徒のものとされるツイッターの過去の投稿から、1000円以上のランチを時に食べたり、コンサートに行ったりしていたことがわかったとして、「ぜいたくだ」「貧困ではない」などの書き込みがネット上にあふれる事態となった。一連の出来事について、まず冷静に考えなければならないのは、ネットに流れる断片情報だけで女子生徒と家族の暮らしぶりを判断することはできないということだ。また未成年である女子生徒の個人情報をネット上にさらして中傷する行為は人権侵害であり、絶対に許されない。それなのに、なぜ「貧困たたき」が起きてしまったのだろう。その背景にあったのは「相対的貧困」への理解が進んでいない現実だった。

 「絶対的貧困」は、その水準以下では生存に必要な栄養や衣類などが満たせくなる、ギリギリの生活水準を下回る人を貧困ととらえる考え方だ。世界銀行は現在、1日1.90ドル未満での生活を国際貧困ラインとしている。
 これに対して、英国のタウンゼントが提唱した「相対的貧困」と呼ばれる概念は、人間の最低限度の暮らしは必要なカロリー計算などだけではとらえられないとし、その社会の一員として普通に生きていくための費用に注目する考え方だ。その社会で広く認められている生活様式、例えば食事の内容や家財の保有、社会的活動への参加などが奪われる水準を貧困の境界線ととらえた。その時代の経済的・文化的な生活状況や社会通念によって貧困の線引きが変動するので、「相対的貧困」と呼ばれている。

 2023年7月4日、厚生労働省から『国民生活基礎調査』の最新値が公表された。2021年の相対的貧困率は15.4%。経済協力開発機構(OECD)が公表する各国の貧困率の最新値でみると、米国(15.1%)、韓国(15.3%)に抜かれ先進国最悪となった。なんと日本よりも貧困率が高いのは、メキシコ、ルーマニア、コスタリカなどを残すのみとなった。つまり、少なくとも現時点の最新値において、日本の相対的貧困率が先進国で最悪であることが確定したのである。

 相対的貧困の当事者の言葉が胸に突き刺さる。「むしろ外では明るくふるまっている、家がつらすぎるから。外では笑っていないと泣いてしまう。」「飢えるほどではないが、食事は質素でしかも孤食」「かわいそうという扱いがつらい」「頑張らないことを許されないのがつらい」「服は安く買えるので、むしろ貧困家庭だとバレないように見た目には気をつけてる」・・・貧困当事者は「極端な事例だけを取り上げないで欲しい」と語る。メディアには、世間の「理想通り」の、より悲惨な当事者を報じる傾向にある。たたく人、支援する人、報じる人…全員がその「理想」を離れ、現実をきちんと理解する必要がある。

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