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ノームコア:スティーブ・ジョブズのストレス回避法

 私たちは、数ある中から何かを選択する際、多くのエネルギーを消費するため、知らず知らずのうちにストレスを感じている。そのようなストレスやエネルギー消費を減らすために、日常生活の中で「選択する」という労力を減らす工夫をしてシンプルな生活を送る人がいる。毎日、同じ服を着ることで有名だったのは、Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズだ。ジョブズ氏は生前、黒のタートルネックにジーンズ、スニーカーというシンプルなスタイルを貫いていた。その理由を「何を着るか決める時間やエネルギーを節約するため」と語ったジョブズ氏。自分の本来の仕事に全力を注ぐために、些細な決断から解放されたかったのだ。

 ジョブズ氏のファッションは、いたってシンプルかつ飾らない服装をしており、その一貫したスタイルはノームコア (normcore)という言葉を世間に広めることになる。ノームコアファッションとは、「究極の普通」を目指すスタイルのこと。「ノームコア」は、「normal(ノーマル。普通、標準)」と「hardcore(ハードコア。中核、中心となる部分)」という二つの言葉を足した造語だ。つまりノームコアファッションとは、時代やトレンドに流されることのない、普遍的なファッションアイテムを取り入れたスタイルのことだ。
 
 ジョブズ氏の黒のタートルネックにジーンズ、スニーカーというスタイルは、イッセイミヤケの黒いタートルネック、リーバイスのジーンズ、ニューバランスのスニーカーの3アイテムを常に着用する“究極の普通”を体現したファッションである。日本でも真似する人を多く生み出すほどのインパクトを与えてきた。

 驚いたことに、ジョブズスタイルの原点は日本にあるという。1980年代、ジョブズ氏はソニーの厚木工場に見学に行く機会があった。彼は、工場で働く従業員が同じ作業着を着て仕事をしていることに興味を持ち、案内していたソニー創業者の盛田昭夫氏に「なぜ同じ服装なのか?」と質問した。その問いに盛田昭夫氏は次のように答えた。

「第二次大戦後、日本人は着る服もなかった。だから会社が従業員に作業着を制服として配らなければならなかったのです。でも今では、この制服が従業員と会社をつなぐ存在になっている。制服を着ることで、ソニーの一員ということを実感することができるんですよ。」

 盛田氏の言葉に感銘を受けたジョブズは、Appleでも制服を取り入れようと画策した。しかしながら社内で猛反対を受け、断念せざるを得なかった。するとジョブズ氏は驚くべき行動に出た。

 Apple内で制服を取り入れることに反対を受けたジョブズ氏はあきらめず、自分だけでも制服を作ろうと考え、制服の特注を依頼する。相談相手は、ソニーの制服デザインに関わったファッションデザイナーの三宅一生氏だった。ジョブズ氏がイッセイミヤケのタートルネックを愛用していた理由ここにあったのだ。ソニーの盛田昭夫氏の考え方と三宅一生氏のデザインがジョブズ氏ののスタイルの原点だったのだ。

 気取らない、誰でも取り入れやすく、かつ奥深さもあるノームコアファッションは、ジョブズ氏の経営者としての哲学から世に広まった。ノームコアを理念としたファッションが、2024年にどれほどの人気を集めるのか注目したい。

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