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モルディブ:世界で最初の水没国となる可能性が…!

 2021年11月、イギリスのグラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)は、最終的に「石炭火力発電を段階的に廃止」という文言から「段階的に削減」へと薄められた。これには各国代表たちも落胆を隠せず、ツバルの気候大臣は孫の写真を見せ、涙ながらに「帰国して、君たちの未来を守ることができたよと言えたら一番素晴らしいクリスマスプレゼントになったが、それは叶わなかったよ」と発言、またマーシャル諸島の代表団も「国に戻っても子どもたちに胸を張れない」と遺憾な気持ちを表現した。

 インドの南西に位置する島国モルディブは、26の環礁とそこに浮かぶ1196の島々から成る。そのほとんどは、海面からやっと顔をのぞかせている程度の低く平たんな島々だが、人々はここで2500年前から海とともに生き、文化とアイデンティティーを築いてきた。
 モルディブと言えば美しいビーチリゾートで知られるが、この国は今、海面上昇により海に消える世界最初の国になるかもしれないという脅威に直面している。

 “1.01メートル”…これは国連のIPCC=気候変動に関する政府間パネルが2021年8月に公表した海面上昇の予測だ。化石燃料を大量に使い続けた場合、2100年までに最大で1メートル余りに達するおそれがあると指摘している。海面が1メートル上がるとどうなるのか、モルディブの島の8割は海抜1メートル以下なので、今世紀末には国の大部分が失われてしまうおそれがあるのだ。モルディブで気候変動問題を担当する閣僚のことばには、国がなくなってしまうかもしれないという危機感がこもっている。これまで海面上昇は2100年までに最大で1メートル弱と考えられてきたが、別のモデルを用いて予測した場合、最悪の場合2メートルを超える可能性があることが判明。
 温室効果ガスの排出が現在と同じ水準である場合、地球の気温は5度ほど上昇、これまで考慮されてこなかった南極氷床の溶解につながるためだという。1990年までまるで天国のような美しさの海岸が、1995年には上昇した海面に浸食され、ヤシの木が倒れ、白砂の砂浜が岩場に変わり、危険な場所になってしまっている。

 モルディブ政府は、首都マレと橋でつながるフルマーレ島は「シティ・オブ・ホープ=希望の都市」と呼ばれる、広さ400ヘクタール余りの、埋め立てられた人工の島を建設している。2022年から建設が始まったモルディブの浮かぶ島プロジェクトだ。現地の人々にとっても、世界の人々にとっても、モルディブが海に沈んでしまうことは是が非でも止めたいところ。しかし、この先どのようなことが起こるのか確実な予測ができない以上、リスクを分散することは必要だ。そんなモルディブでは、海面上昇に対応するため、浮かぶ島を建設する構想が持ち上がっているのだ。

 「The Maldives Floating City」と名付けられた政府主導のプロジェクトで、浮かぶ島の技術を専門とするオランダ企業Dutch Docklandsとの提携により進められている。海面上昇対策では通常埋め立てを行う国が多いが、サンゴ礁への影響を回避するために、モルディブは浮かぶ島をつくり、そこに居住区・学校・病院などを建設する計画だ。Dutch Docklandsによると、居住区不動産の価格は25万ドル(約2700万円)から。場所は、首都マレから10分のところにある環礁。地元民だけでなく、海外の居住者も誘致する狙いがあるという。2022年から建設が開始され、完成までおよそ5年ほど要するとのことだ。

 興味深いプロジェクトではあるが、浮かぶ島が必要ない状況を維持することのほうが優先課題ではないだろうか。モルディブを含め脆弱な島嶼諸国を海面上昇で消滅させないためにも、国連・政府・企業・個人の思考・行動の抜本的な変化が求められる。

 今年の夏の異常な暑さは気温上昇の激しさをすでに実感させてくれているが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)の「1.5℃特別報告書」には、地球温暖化が現在の程度で続けば、2030年から2052年の間に1.5度に達する可能性が高いとされている。しかしながら、2022年に開催されたCOP27では、1.5度目標の厳しい現状が浮き彫りになった。英国の公共放送BBCは2022年11月11日、新型コロナウイルス感染症の拡大後、再び飛行機を利用する人が増えたこと、石炭の利用が増えたことにより、2022年のCO2排出量は記録的な水準にとどまるとの予想をウェブサイトに示した。グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)の報告では、2022年の世界のCO2排出量が1%上昇すると推定されている。これは2030年までにCO2排出量を約45%削減することが必要とされる1.5度目標とは対照的な内容だ。IPCCの推計では、1.5度目標の実現には残り4,000億トンしかCO2を排出できないにもかかわらず、世界の年間排出量は約400億トンで、今のままでは10年の間で超過しかねないと、日本経済新聞社が2022年11月にウェブサイトにて紹介している。

 我が国日本も島国だけに決して他人事ではない。1.5℃気温が上昇すれば、日本人のうち1800万人もの人が、海面上昇により現在の住まいでは暮らせなくなるそうだ。


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