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地球温暖化がもたらす大規模火災

 記録破りの猛暑が3年続いたから、今は誰もが気候の危機を肌で感じている。アメリ力だけでも、2015年以降に20万平方キロ以上の森林が山火事で失われた。国連環境計画(UNEP)によれば、2100年までに猛烈な山火事の発生件数が世界全体で5割も増えると言われている。気温が上がり、強い日照りで乾燥が進むせいだ。山火事が恐ろしいのは、木も人も殺すところだ。

 人気俳優のレオナルド・ディカプリオも製作に関わったドキュメンタリー映像『悪魔の息吹(From Devil's Breath)』という動画を観てしまった。本作は、ヨーロッパ史上最大級の山火事に遭いながらも、自然の回復力を倍じて懸命に立ち上がろうとするポルトガルの人々の姿を描いている。記録的な暑さが続いた2017年6月、ポルトガルの田舎町ペドローガン・グランデで4つの山火事が発生し、死者66人、負傷者253人を出す大惨事となり、ポルトガル史上最悪の山火事とされる。実はこの年にはポルトガル全土で山火事が起き、5000平万キロ近い土地が焼けた。火が広がったのは、オーストラリア原産のユーカリの木が多かったせいだと考えられている。ユーカリは成長が速いが、燃えやすい。そういえば、数年前、オーストラリアでも大規模な森林火災が起き、たくさんのコアラが犠牲になった。

 このドキュメンタリーを監督したボン・アインシーデルは、「あれから何年もたつのに、まだあちこちに地獄の業火の痕跡が残っていた」と語った。監督は、「みんな意気消沈しているだろうと思っていたが、違った」と言う。「仲間の死を無駄にすまいと、みんなが支え合ってこの集団トラウマを癒やし、二度と同じ悲劇が起こらないよう懸命に努力していた」

 気候変動の専門家として制作に関わったトム・クラウザーも、人々の回復力に感銘を受け、「希望がみなぎっていた」と言っている。「とにかく自分たちの町の自然を回復させよう。そうすれば少しは、世界中で生物多様性の喪失や気候変動と闘う人々の役に立てる。みんな、そう考えていた」
 そこで地域住民は、焦土と化した土地に在来種のコルクガシやオークを新しく植えることにした。これらの木は周囲の空気や土壌を冷やし、土中の水分を保持することが知られている。昔ながらの多様な生態系に戻せば、森は火災に強くなり、人間の居住地を守る壁にもなり得るのだ。
 ボン・アインシーデルは、「土地がやられてしまっても、適切な種類の在来種が育つようにしてやれば莫大な利益が期待できる。生物多様性を回復し、二酸化炭素を吸収し、より肥沃な土地に戻せる」と語る。

 在来種の多様な生態系を取り戻せば土中に水分を蓄えられ、火災に強い森になる。しかし大事なのは、それが地元の人々にとって経済的に持続可能な選択肢となるかどうかだ。在来種のコルクガシやオークは成長が遅いから、お金になるまでには時間がかかる。このドキュメンタリー動画『悪魔の息吹』が描いたのはポルトガルの片田舎の事例だが、そこから得られる教訓には普遍性がある。
 「この猛烈な山火事で焼かれたのはポルトガルの片田舎だが、それを招いたのは気候の危機で、それは地球上の全ての人に影響する。アメリカやオーストラリア、ブラジルやトルコ、ロシア。多くの国で山火事は起きていて、その悲惨さは誰もが身に染みているはずだ。私たちが撮ったのは、ポルトガルのどこかで起きた火災ではない。世界中のどこで起きてもおかしくない事態、このままだと避け難い未来の前触れだ」とボン・アインシーデルは言う。確かに昨年はカナダで大規模な山火事が発生し、ハワイのマウイ島も島全体が焦土と化した。

 小さな火花が1つあれば森は燃える。太陽の熱だけでも火種になる。干ばつと高温が続けば乾き切った木は燃えやすくなり、炎は時速20キロ以上で燃え広がる。アメリカだけでも、2022年だけで6万1390件の山火事が発生し、3万平方キロ以上の土地が焼けたとされる。

 世界中で起きている山火事に気候変動が大きく関わっているのは間違いない。「アメリカでも同様に、山火事との闘いはますます困難なものになるだろう。」と英エディンバラ大学の専門家が語っている。実際、山火事が大規模化したせいで消火作業の経費は膨らんでおり、アメリカでは約44億ドルもの資金が投じられている。

 気温の上昇と山火事の発生件数の増加は続く。今回、この記事のタイトルを「地球温暖化がもたらす大規模火災」としたが、「大規模火災がもたらす地球温暖化」でもあるのだ。これに、ロシアやイスラエルによる戦争という最悪の温暖化要因が加わり、人類はSDGsを逆行する方向に今、多くの課題に直面している。

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