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命のたいせつさを学ぶ

たった一つの命だから、苦しみのトゲも、悲しみの皮も、全部捨てて、太陽みたいに元気なトマトになりたい。

 西尾誉佳(えいか)さんは、小さい頃から風邪も引いたことがない元気な女の子だった。中学校では軟式テニス部に入り、中学1年生の終わりにレギュラーに選ばれた。しかし、その直後、「右手に力が入らず、ラケットが握れない」と訴えた。最初は、筋肉痛かな…と軽い気持ちで近所の病院に行ったのだが、詳しく検査をした結果、右腕に骨肉腫という骨のガンが見付かった。病気はどんどん進んでいて悪くなっており、このままでは、ガンが体全体に転移して死んでしまう。生きるためには、右腕を切り落とさなくてはなならなくなった。当時13歳の誉佳さんにとっては、とてもつらいことだった。でも、「もっと生きたい」と思い、誉佳さんは中学2年生の秋に、右腕を切る手術を受ける。手術の前日、病院の庭でお母さんとテニスをしたのが右腕を使った最後になった。
 その年の12月、誉佳さんは、左手で初めて年賀状を書いた。書いた言葉はただ一言、「たった一つの命だから」…。しかし、誉佳さんにはさらなる試練に直面することになる。ガンが肺に転移してしまい、再度病院に入院してつらい治療を受けることになったのだ。さらに医師から「あと1年の命」と宣告されてしまう。  
 そんなとき、誉佳さんはお父さんから嬉しい話を聞く。「学校でいじめられていた女の子が、つらくて自殺したい…と思っていたときに、誉佳が書いた『たった一つの命だから』という言葉を聞いて、自殺をするのをやめたんだって…。」 誉佳さんは「すごい。自分の言葉が人の役にたったんだね。」と言って、涙を流して喜んだという。そして、病院のベッドでノートにこんな言葉を書いた。
  『たった一つの命だから、苦しみのトゲも、悲しみの皮も、全部捨て
  て、太陽みたいに元気なトマトになりたい。』
 高校1年生になった16歳の8月、誉佳さんは突然、「虹の絵が描きたい」と言い、模造紙からはみ出るほど大きな虹を描きあげる。そして、「虹は願いをかなえてくれるから」と笑ったという。しかし、その1週間後の8月15日、その大きな虹の絵に見守られ、誉佳さんは、静かに息を引き取り、天国に旅立った。

 コロナ禍がすべての原因とは言えないが、2022年に自殺した小中学生と高校生は512人となり、初めて500人を超えて統計のある1980年以来、過去最多になった。近年、子どもの自殺は増加傾向にあり、問題が深刻化している。原因や動機は、本人が残したものや遺族からの聞き取りなどをもとに分析されている。最も多かったのは「学業不振」(83人)。次が「進路に関する悩み」(60人)だった。それ以外は、「病気の悩み・影響(その他の精神疾患)」(56人)、「学友との不和(いじめ以外)」(49人)、「うつ病の悩み・影響」(44人)、「親子関係の不和」(40人)と続いた。
 2009~21年の長い期間の統計を見ると、小学生は「家庭問題」の割合が高く、小学生は、「家庭からの叱責(しっせき)・しつけ」が全体の2割を超えていた。中高生は「学校問題」の割合が高い傾向があり、学業不振や進路の悩みが上位に来ていた。

 子どもたちは生きづらい社会の中で様々な悩みを抱えて生きている。しかしながら、自殺を企図する前に、生きたくても生きられない子どもたちもたくさんいること、生きているだけで幸せだということを思い出してほしい。


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