読書感想文「工作艦明石の孤独」

林譲治先生の書く小説の政治体制や軍隊組織が主役かのように振る舞うスタイルが好きなので工作艦明石の孤独が出たときに購入するのは既定路線だった。

そして実際読んでみて最初に感じたのが「これは相当な意欲作だな」という点である。

僕は星系出雲兵站以降のSFシリーズしか読んでいないのだが、今回の工作艦明石の孤独はこれまでの作品よりギミックの作り込みが相当張り切っていた。

ワープひとつとってみても星系出雲では結果的に矛盾が起きていなければOKくらいの作り込みだったのが、今作では「これはストーリーの根幹に関わってくるな」というくらい作り込まれている。
詳しい仕組みは実際に本編を読んでいただくとして、どのくらいの熱量だったかというと体感で3分の1はワープ航法の説明に充てられていたのではないかというレベルだ。

社会制度に関しても、地球と十数程度の植民惑星からなる経済圏を良く考察していると思った。この経済圏の特徴も今後の展開に関わってくるはずなので2巻以降が楽しみだ。

一方で欠点というか不満というか、不安というか。マイナス要素もある。
作品に著者の理想を詰め込み、その箇所の考察が甘くなっているのではという点があった。

少し本編の内容に踏み込んでしまうのだが、科学技術が軽視され市場価値のある技術開発ばかり行われるという社会のはずなのに政府幹部や軍艦幹部が全員博士課程出身なのである。

もし、このような状態が実際に起きたら激しい身分間の対立が起きそうなものだがその点が深く考察された形跡はない。
とはいえ普通の小説であれば軽くスルーされる程度の綻びである。林譲治先生が他の点で緻密な掘り下げをしているから目立っているに過ぎない。
それに今後の展開で掘り下げられる可能性も十分ある。

いずれにしても1巻で広げた伏線をどう回収していくのかが楽しみな作品である。

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