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星野源2nd Album「エピソード」から2曲をピックアップ

小学校5,6年生だっただろうか。真っ暗な自室のなかで偶然Youtubeで見つけた楽曲、それが星野源の「日常」という曲である。坂本九氏の「上を向いて歩こう」にも似た歌詞、メロディに引き込まれ、私の心に一筋の光が差し込んだ気がしたのを今でも鮮明に覚えている。

星野源のアルバム二作品目、「エピソード」。2011年9月28日発売であり、先日発売から12年目を迎えた。彼のアルバムは全て持っているが、私はこのアルバムが一番好きだ。今でこそマルチな才能を発揮し、本業の楽曲制作においても自分のやりたい音楽、遊び心を感じる音楽を世間に提供している。だが、このアルバムにおいては星野源の心の中に棲む「闇」、あるいは「心の叫び」が垣間見える曲がいくつか存在する。その中でも今回は2曲を取り上げて紹介したい。


星野源の幼少期、青年時代

今でこそ国民的アーティストかつ日本人男性のアイドル「ガッキー」こと新垣結衣と結婚し、自身の愛する音楽を生業とし、順風満帆な人生を送っているであろう星野源だが、幼少期から高校時代にかけてはそんな現在とは全くかけ離れていたというのはご存じだろうか。

彼は埼玉県蕨市(川口市かもしれません)で生を授かり、ジャズ好きな両親の下ですくすくと育っていった。ある事件を迎えるまでは。

小学校時代、彼は児童たちの目の前で我慢できず、漏らしてしまった事があったようだ。それが原因で虐められるようになった。それ以降、学校へ行くのが憚られ、次第に彼の性格も内向的なものになっていった。

その性格は中学、高校時代も治ることはなく、パニック障害を患うなど、むしろ悪化していったようである。精神安定剤を飲みながら何とか学校に通う日々を送っていった。

このことを前提として話を進めていきたい。

星野源「日常」

人が楽曲を好きになる理由は多々あると思うが、その中の一つに楽曲の歌詞に対して強い共感性やメッセージ性を得られたというのも理由に挙げられるはずだ。私はそのような理由でこの曲にものすごい愛着を抱くようになった。私はこの曲を聴いた当時、幼少期の彼の同じ境遇にいた。

きっかけはあまり覚えていない。どうせ取るに足らない言動が癪に障ったとか、そんなものだろう。初めは一人、それから二人と、どんどん私に嫌がらせをする人が増えていった。今まで友達だと思っていた人が私から離れていく。そして私が嫌がる様をただ傍観している。手を差し伸べてくれる児童は誰もいない。私はこの時、虐めにあっているという現実を初めて自覚し、そのことに対して酷い絶望感を抱いていた。

彼のように学校に行けないということは無かったものの、憂鬱な感情を心の奥底に押し込んで学校に行った。だが、昼休みは当然一人で過ごしていた。勇気を出して遊びの輪に入ろうとするが、仲間はずれ。

ため込んだ負の感情は自室で吐き出すのが私だ。部屋を真っ暗にして、自分を奮い立たせるために適当に曲を流していた。そんな時に初めて耳にしたのが、星野源の「日常」だ。

MVを見ると、暗いトンネルの中を汚れた作業着のお兄さんがただ歩いている。彼の力強い1フレーズ毎に、私はため込んだ感情が微かな希望へと昇華されていくのを感じた。

「日々は動き 君が生まれる
暗い道でも 進む進む
誰かそこで必ず聴いているさ
君の笑い声を」

「夜を越えて 朝が生まれる
暗い部屋にも 光る何か
僕はそこでずっと歌っているさ
でかい声を上げて
へたな声を上げて」

どんなに辛いことを経験して、生きるのが嫌になった、このまま時間が止まったままでいてほしい…そう願ってもまた太陽は上り、淡々と日常は続いていく。そんな中でも一筋の希望や救いの手を追い求めて泥臭く生きてきた彼の信条が垣間見えるこのフレーズに私は救われた。毎日学校に生き続けた結果、教員たちの協力もあり、虐めはなくなった。

これ以降、私のヒーロー、私が最も尊敬する人物は星野源となった。この曲には、星野源にしか書けない言い回しや歌詞が沢山散りばめられている。辛い状況に陥ったとき、自分が周囲の人間とかけ離れていると悩んでいるときはイヤホンを手に取り、是非ともこの曲を聴いてほしい。きっと彼が貴方の全てを肯定してくれるはずだ。

星野源「変わらないまま」

続いてはこのアルバムの三曲目、「変わらないまま」。この曲は星野源自身の幼少期から高校時代までの、決して日の当たらない人生とそのことに対しての葛藤が描かれている。この曲を聴くと、彼がどのような人生を歩んできたかが分かるだろう。重要なフレーズを切り取って解説していきたい。

「さらば人気者の群れよ 僕は一人で行く 
冷えた風があの校舎で 音を鳴らす 遠ざかる」

学校という共同体の中で上手く馴染むことができず、少し強がりながらも寂寥感を感じながら一人家路につく彼が思い浮かぶ。

「雨の日も 風の日も 変わらないまま 過ぎた 輝く日々が」

貴重な青春時代は平凡かつ孤独な日常で終わってしまった様子。さらに、

「耳を塞いだ音楽と 本の中で暮らす これでいい訳はないけど
前は見ずとも歩けるの」

彼は現実逃避からか、音楽と本で何とか自我を保っているかのよう。引きこもっている自分に対して葛藤しつつも正当化する、そんな一節。そして

「昨夜のラジオが鳴り響く 笑いを押し殺す いつか役に立つ日が来る
零れ落ちたものたちが」

彼はラジオを聴くことに没頭しているよう。実際、星野源はラジオネームでコーナーに何度も応募するほどのラジオ好きだったそう。今まで様々なものを失ってきて、そんな人生でも決して無為なものではないと、彼は断言する。苦しみや熱中してきたものがいずれ自身の糧になるはずだと信じて生きき続けた。  

この曲を初めて聞いたとき、この苦労は決して無駄じゃないと思えるほど彼には幸せな人生を歩んでほしいと願うようになった。

そして現在、彼は日本の音楽史に残る程の立派なミュージシャンとなった。更には「そして生活は続く」、「働く男」、「蘇る変態」、「いのちの車窓から」の4つのエッセイを販売、そして人気ラジオ番組「オールナイトニッポン」のパーソナリティーを長らく務めている。極め付きは「逃げ恥」をはじめとする俳優業での成功、共演がきっかけとなりガッキーとゴールイン。自分の熱中していたありとあらゆるコンテンツで、成功を収めた。

幼少期の影は何処にも無く、今や日本で一番充実した人生を送っているタレントではないか。

「もし、この世にタイムマシンがあったら何がしたい?」みたいな質問、誰もが一回くらいはされたり、考えたことがあるかもしれない。私は間違いなくこう答えるだろう。

青年時代の星野源に会いに行って、「君は間違いなく将来幸せな人生を送っているよ。この苦しい時期を乗り越えた先にね。」と最大限の賛辞を込めて伝えてやりたい。かつて彼が私を励ましてくれたように…

最後に 

冒頭でも述べたとおり、この「エピソード」というアルバムは星野源という人物の闇、言うなればダークサイド的な一面を垣間見ることができると私は考えている。

星野源黎明期の代表曲「くせのうた」等収録の「ばかのうた」、星野源ファンからの人気が根強い「Strenger」、「SUN」や「Week End」等の人気曲を多数収録し、星野源大ヒットの要因にもなった「YELLOW DANCER」、STUTS氏を起用し、更に自身の音楽の幅を広めた「Pop Virus」、どれも素晴らしいアルバムばかりだ。だが、私は敢えて「エピソード」を多くの人に聴いてほしい。

彼の人間的な本質を辿っていくと、このアルバムに行き着く。そして彼の喜怒哀楽様々な感情をこの一作品で体感できるはずだ。

この投稿がいつか星野源本人の目に届いてくれれば本望である。







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