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【出演者インタビューVol.2】フォルテピアノ奏者 平井千絵さん~演奏曲への想い~

引き続き、『時代を巡る3種の鍵盤』にご出演いただくフォルテピアノ奏者の平井千絵さんのインタビューをお届けします。第2弾は、今回演奏していただく楽曲について、どのような部分に魅力があるのか、演奏者ならではのイマジネーションも感じられるお話を伺いました!



―今回フォルテピアノによってメインで演奏していただくのは、ベートーヴェン作曲の「月光」です。全楽章演奏していただきますが、フォルテピアノならではの魅力があればぜひ教えてください。

「月光」ソナタに関しては、第1楽章の冒頭に「最初から最後まで、現代のピアノ奏法でいう右の足のダンパーペダルを踏みっぱなしにして弾いてください」との指示が書かれています。モダンピアノではやりにくい奏法で、特に小さいお部屋で1楽章全部踏みっぱなしにしながら弾くと、結構な濁りになってしまいます…。
ただ、大ホールだと意外と違和感がありません。よく私は、大ホールでモダンピアノとフォルテピアノを1楽章弾いて比較する企画を行うのですが、大ホールになればなるほどモダンピアノでダンパーペダルを踏みっぱなしで演奏しても意外と可能です。

それに対して、フォルテピアノでこの奏法を用いつつ演奏すると、ベートーヴェンがつけた正式なタイトルと言われる「幻想ソナタ」の名にふさわしいような、それぞれの人が思う幻想というような世界が自然に立ち現れてくるような気がします。
「月光」というタイトルはベートーヴェンがつけたものではないですが、本当にピッタリだなと思うような世界観が自然と広がります。かすかな濁りというのも、たなびいている雲なのかなとか、寒い冬の夜の満月にかかってくる薄いモヤのような雲なのかなとか。心象風景として、ちぎれ雲みたいなのが自分の心の中にフーっと浮かんでは消えていくようなことなのかなとか。毎回演奏するたびに、それが違った形で表れてくるような気がして、1楽章はそこを聴いていただきたいなと思ってます。

2楽章はその世界観が変化します。小さな舞曲を挟みますが、幻想的で、もしかしたら夢をみているようだった1楽章から少しだけ現実に戻されて…。

3楽章は嵐の中というか、当時自動車はなかったので馬車で走っていくような場面を思い浮かべながら演奏していますが、とにかく馬車のMAXのスピードでひた走るみたいな(笑)演奏していると、御者(馬を操る人)の気持ちになりますね。ちゃんと手綱を引き締めないと、馬車も壊れてしまいますし。でもMAXのエネルギーが欲しい。きっと何か急がなければいけない、命に関わるような緊急のことがあって、真剣に持てる力をすべて振り絞り、馬も御者も走ってるみたいな。命ぎりぎりのところとの戦いとうか、せめぎあいみたいなものなのかなと。自然対人間なのかもしれないですが、そういうものを感じさせる素晴らしい曲だなと感じます。

―なるほど!本当に情景が思い浮かびますね。

最近私は、長野県に引っ越ししたばかりです。1年くらい経ちましたが、自然の中で雪道や吹雪の中を走ると、これが馬車だったら本当に危険だなと(笑)。本当に自動車でよかった!と思ったりします。

―ちなみに、長野に引っ越しされたのは、楽器が関係しているんですか?

音楽とは関係ないのですが、結果的に良かったなと思っています。夏は日本の夏にしては乾燥しすぎるくらい乾燥しているから楽器には良いんです。神奈川にいたときは、ものすごく除湿をしなければいけなかったので。冬場の加湿は相変わらず気を使いますけれども、除湿はすごく楽で、夏もそんなに暑くないしそこが良かったですね!

―楽器にも良いし、音楽表現を高めていくなかでも色んな発見があるんですね

自然に囲まれているので、想像以上に良い影響を受けていますね。

―では、大自然に囲まれ、育まれた音楽を、また神奈川で演奏していただけるということですね!

上手いまとめですね!(笑)さすが!!

―ありがとうございます!
今回は「月光」の他に、第1部では楽器ごとの聴き比べを行います。今回演奏していただくバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻のプレリュードと、モーツァルトのきらきら星変奏曲において、フォルテピアノのこんなところに着目してほしい!というのはありますか?

まず、3台それぞれの魅力が違います。
チェンバロは、ピアノやフォルテピアノと違って、鍵を押し下げる指のスピードの増減で音量を付けられない構造を持っている分、大胆なテンポのゆれや間合いを作ったりして、ニュアンスをつけていきます。また、先ほど音量変化が付けられないと申しましたが、2段ある鍵盤を使い分けたり、2段鍵盤を連結させる仕掛けを使ったりして、音量・音質、ニュアンスをつけていきます。音をどのくらい伸ばしてどのくらいで切るのかというところに、チェンバリストはものすごくこだわって音作りをされるそうです。指の打鍵の強さでダイナミクス(強弱)を変えることが出来ないはずですが、一方で名手の演奏を聴いていると、ダイナミクスが自然に聴こえてきます。「これってどうなっているの?」と思いつつ聴いていただけたら、面白いかもしれません。

フォルテピアノに関しては、小さい音に注目してほしいんです。チェンバロでは構造上出せない、小さい音を当時の作曲家は求めていて。実はベートーヴェンは一般的に知られているよりずっと多くピアニッシモを譜面に書いています。それは、フォルテピアノという新しい楽器の登場と共に、意欲が高まりその指示を沢山書いたのだと思うんですよね。だからこそ、小さい音を楽しんでいただければと思います。

そしてモダンピアノは、すべていいとこどりだなと感じます!(笑)
今回の演奏会場であるユリホールは現代に作られた会場で、当然、現代の楽器がよく響くように設計されています。チェンバロやフォルテピアノにとっては大きすぎるくらいのサイズ感です。当時としてみれば大大大広間みたいな感じなんですね(笑)チェンバロやフォルテピアノで耳を研ぎ澄ませて聴いていただいたあと、モダンピアノでは背もたれに寄りかかりつつリラックスして豊かな音量をお聴きいただけるのではないかと思います。

―聴き所がよく分かりました。どれが良い!というより、全部良い!と強く思いますね!それぞれにある魅力をお客様には素直に感じてほしいなと思います。



次回、第3弾はプライベートなことついて伺いました。最近はどんなコンサートに行かれたのか、思い出に残る演奏の場所などもお聞きしました。平井さんの新たな一面を感じてください!


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