見出し画像

悉皆屋さんとの付き合い方

悉皆やさんって、なに?


旧家の聞き取り調査の際に、「うちには当時、贔屓の悉皆屋さんがいて」というお話が出ることがあります。悉皆を「しっかい」と読める層も少なくなってきました。
まして、「悉皆屋さんって、どんなお仕事か知っていますか?」と聞いて答えられる方が少なくなっています。20代、30代の方は「わかりません」、40代近くのかたは「染み抜き屋さんのこと?」と答えられます。これは答の一部であって、正解ではありません。
悉皆屋さんとは、「ことごとく皆」の言葉通り、着物の制作に最初から最後までかかわるプロデューサーであり、コーディネーターです。正確には「呉服悉皆」というのだそうです。
お客様のご希望を聞き、下絵から染め、刺繍、仕立てまで一貫して着物作りにかかわります。染め替え、仕立て替えなどの相談にも乗ります。実は染み抜きは悉皆屋さんの業務のごく一部なのです。こうした過程で出来上がった着物には、特注品でなければ得られない豪華さがあります。今の時代にはなかなか出来ない贅沢です。

つまり、悉皆屋さんは染め替え、染み抜き、仕立て直しまで、着物に関すること全般を取り扱う仕事です。本来は白生地から「ブック見本」というデザイン帳をもとに、注文に応じて着物の制作をするのが仕事なのです。ただ、最近は新しく着物を誂えるという人が少なくなり、染め替え、しみ抜きの仕事の方が多くなっているのです。

こんな風になおします


悉皆屋さんに、しみを隠すための染めサンプルをいろいろ見せて頂きました。
一番一般的なのは、地色を変えてしまうことです。
例えばこんなシミがついたとします。

衣服についたシミ(矢印)

まず、「ふぶき」と言われる方法で、模様をふせて模様でしみをカムフラージュしたところです。

画像2

これは「しごき」と言われる方法で、模様をふせてから地色を変えカムフラージュしたところです。

画像3

更に「めひき」と言われる方法です。模様をふせないで地色を変えたところです。

画像4

最近では技術の進歩で、色を薄くすることも可能なのだそうです。他にしみを隠す方法として、小紋を上から染める、絵を足す、金・刺繍を入れるなどの方法もあるそうです。柄の描き足しは、染料でなく、顔料で行うということでした。
他に、紋を消すという仕事もあります。三つ紋を一つ紋に、などの注文にも応じるとか。もちろん本来の着物の誂えの相談にも乗ってもらえます。

いま、着物を誂えるのは贅沢なのか?

ところで、これは昭和きもの愛好会からの問題提起です。着物を大量に買う・大量に保管する、ということが少なくなっている現在、もっと悉皆屋さんを活用して、大切な着物を活用されてはいかがでしょうか?
ここで思い出すのは数年前、セミナーに来られた方からのご質問でした。その方は吉永小百合さんの着物姿が掲載されている本をお持ちでした。そして「私もこういう着物を着てみたい」と仰ったのです。
その着物は、青地にモクレンのような花が描かれていて、その着物にたいへん魅せられたそうです。「昔は注文ができたけれど、今となっては難しいですね」という返答をしましたが、本当にそうでしょうか?
それは、調査研究を進める上で、いろいろな職人さんと知り合いになって、「着物を誂えることは決して高いハードルではない」ということを知ったからです。いろいろな通信手段の発達で、職人さんと直接交渉するということもできるようになりました。呉服が目の飛び出るほど高いという意識ももはやなくなっています。数十年前よりずっと、着物は手の届くものになっています。
「やれなくはない」というのが、今の私どもの回答です。そのように作り手と消費者をつなぐ仕事も、一般社団法人として私どもが行う仕事であると思います。
似内惠子(一般社団法人昭和きもの愛好会理事)
一般社団法人昭和きもの愛好会HP

 一般社団法人昭和きもの愛好会 youyube チャンネル

昭和きもの愛好会FB


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?