桃太郎・改悪

あるところに、虚言癖お爺さんと虚言癖お婆さんがおりました。2人の口から出る言葉はほぼ虚言だから、集落の人々からは嘲笑されやんわり避けられていたけれど、似た者同士惹かれあったのか、2人は出会ってすぐに恋に落ち結婚しました。
なんでも虚言癖お爺さんが言うには、桜が降る季節、風が作った桜のカーテンの向こう側にいた虚言癖お婆さんと目が合ったのが、出会いのきっかけなんだそう。
ある日、虚言癖お爺さんは山へ芝刈りに、虚言癖お婆さんは川へ洗濯に行きました。虚言癖お婆さんが川で洗濯をしていると、ドンブラコ、ドンブラコと大きな桃が流れてきたではありませんか。「こりゃ、良いネタが出来たぞ。」虚言癖お婆さんは洗濯物を放り投げると、ハッと気合を入れて大きな桃を持ち上げ肩に担ぎ、アドレナリン全開で家まで駆け戻りました。
既に縁側で一休みしていた虚言癖お爺さんは足音を聞くと、
「いやあ、今日は5ヘクタール程の芝を刈ったぞ。東京ドームよりちょいデカだ。婆さんや、茶を入れて…なんだ!?」
そこには肩で息をしながら大きな桃を担いだ虚言癖お婆さんが立っていたのです。
「川で、、川で洗濯をしていましたら、、2つの梨が流れてきたではありませんか。スゥ確かその後ろにはさくらんぼや、、リンゴなんかも。そして川の流れでゆらゆら揺れた、、2つの梨がぶつかり合った途端、、スゥなんとまあそれがひとつの大きな桃となって私の、、足元に流れ着いたのです。」
なんとか言い終えると、
「これ、どうしましょう?家の前に飾ったら皆驚いて人が集まりそうですけど…」
そこまで言うと、大きな桃がいきなりカタッと揺れました。それを見た虚言癖お爺さんは、
「虫でも住み着いていたらすぐ腐ってしまうだろう。少し勿体ない気もするが、今割ってしまおう。」
と言いました。虚言癖お婆さんも渋々了承し、台所から1番大きな包丁を持ってくると、
「1発でいきます。ハッ」
と大きく包丁を振りかぶり見事1発でパッカーンと大きな桃を割ってみせました。すると、なんということでしょう、中からオギャーと大きな産声をあげて元気な男の子の赤子が飛び出してきました。2人で顎を外しながら大きな桃から出てきた赤子を抱き、顎を外したまましばらくの間赤子を見つめておりました。
大きな桃から生まれた男の子を、虚言癖お爺さんと虚言癖お婆さんは桃太郎と名付けました。周りから名前の由来を聞かれる度に、2人は鼻高々に大きな桃を拾った日の話をしました。今回のは虚言ではなく本当の話ですから、2人ともいつもの何倍も自慢げに話すのですが、2人の虚言になれてしまっている周りの人々は「まあ本当の名前は太郎とか、そんなとこやろ」と話半分に聞いておりました。
そんな複雑なご近所関係を他所に桃太郎はスクスクと育ち、やがて強くて勇敢な、たまに虚言を吐く男の子に成長しました。そんあある日、桃太郎は言いました。
「今日丘の上でイツメンと遊んでいたら、鬼ヶ島という悪い鬼がたくさん住んでる島のことを聞きました。僕の将来の夢は正義の味方、そこで僕は鬼ヶ島へ鬼を退治しに行きたいのです。」
それを聞いた虚言癖お爺さんと虚言癖お婆さんは、不安そうな表情を見せながらも、「こりゃ、桃太郎ヒストリーに新たな伝説が刻まれるぞ」と同じことを考え、鬼ヶ島へ行くことを認めました。
出発の朝、桃太郎は虚言癖お婆さんからきびだんごを受け取ると、若干緊張で震えながらも鬼ヶ島へ向かいました。
「お爺さんとお婆さんの手前強がって言ったものの、鬼ヶ島にはどれだけ鬼がいるんだ?デカいだろうな…もしかしたら帰って来られないかもしれぬ…あぁ、市子ちゃんにこの気持ちを伝えられぬまま…」そんな思いを抱えながら歩いていた桃太郎は、ふと思い付きました。「アニマルロードを通ろう。きびだんごをあげればきっとお供してくれるアニマルがいるはずだ。」そこで桃太郎は迂回して別の道に進みました。
その道中、桃太郎は犬に出会いました。
「これはこれは桃太郎さん、どこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ鬼を退治しに行くのです。そうだ犬さん、あなたもお供してくれませんか?」
「…えぇ?いやあちょっと予定が立て込んでて…」
「ここに美味しいきびだんごがあります。お供して頂けるならおひとつ差し上げましょう。」
「ハァハァハァハァワン!お供するワン!ハァハァハァハァきびだんごちょうだいワン!」
効果は絶大だ。
見事きびだんごで犬を手懐けた桃太郎は、次に猿に出会いました。
「おっ桃太郎じゃないか、どこへ行くんだい?」
「鬼ヶ島へ鬼を退治しに行くのです。そうだお猿さん、あなたもお供してくれませんか?」
「えぇ!?いやあ今日はボスの背中を流す日で…」
「ここに美味しいきびだんごがあります。お供して頂けるならおひとつ差し上げましょう。」
「ウッキー!ウキウキ-!お供するぜ!ウッキー!だからきびだんごくれよ!」
効果は絶大だ。
見事きびだんごで犬、猿を手懐けた桃太郎は、次にキジに出会いました。
「あらあら桃太郎さん、どこへ行くのです?」
「鬼ヶ島へ鬼を退治しに行くのです。そうだキジさん、あなたもお供してくれませんか?」
「ん〜、、そうねえ、今日は幹事を務めているタップダンスパーティー当日で…」
「ここに美味しいきびだんごがあります。お供して頂けるならおひとつ差し上げましょう。」
「バタバタッファサァ!お供致しますわァ!ファサァ!きびだんごおひとつ頂けます?」
効果は絶大だ。
見事きびだんごで犬、猿、キジを手懐けた桃太郎はついに鬼ヶ島へとたどり着きました。
「ビービービー シンニュウシャハッケン シンニュウシャハッケン」
鬼ヶ島へ1歩踏み入れた瞬間、大きな警報音とともに鬼の顔の形をした洞窟から大量の小鬼がこちらへと向かってきました。
「ん?意外と小さいな…いや、しかしこれは大変だ!全員、かかれー!」「オー!!」
アニマルズは一斉に小鬼たちに立ち向かい、次々と薙ぎ倒していきます。桃太郎はというと、「いけー!」「とりゃー!」「わー!」と一丁前に声を上げながらも特に彼自身は戦いに参加することもなくアニマルズの後について行きました。アニマルズが全ての小鬼を倒した頃、

ドスン ドスン ドスン

大きな鬼たちが気だるそうに洞窟から出てきたのです。
「なんということだ…さっきのは手下たちだったのか…」
桃太郎はそう呟くと、キリッとした表情を作って言いました。
「いよいよ鬼ヶ島のボスたちだ!身体の大きさなんて関係ない!行くぞ!全員、かかれー!」
アニマルズもまたキリッとした表情になり、「ヤーッ!!!」と鬼たちに立ち向かっていきました。
犬は鬼のお尻にガブッと噛み付き、猿は鬼の背中をシャッシャッと引っ掻き、キジは鬼の目をくちばしでグサッと突き刺しました。そして桃太郎はと言うと、これまた「いけー!」「とりゃー!」「舐めてんじゃねえ!」などと叫びながらも、彼自身は一切戦いに参加しませんでした。
「おーっ!俺たちが悪かった!許してくれぇ!」
鬼たちは観念して今まで集落の人々から奪ったお宝を桃太郎たちへ返しました。
鬼ヶ島からの帰り道、ちょうど集落の手前程で桃太郎は言いました。
「みんな、今日は本当にありがとう。今日の勝利は間違いなくみんなのおかげだよ。本当は集落の人達にもみんな紹介したいんだが、みんなが人間じゃなくて動物だというのでバカにされるようなことがあったら僕は嫌だ。だから、すまないがここで別れよう。みんなの偉業は僕が責任を持って集落の人達に伝えるさ!」
あまり腑に落ちていない表情のアニマルズに残りのきびだんごとある程度のお宝を渡すと、桃太郎は1人でそそくさと集落に帰っていきました。
無事集落に帰ってきた桃太郎を、虚言癖お爺さんと虚言癖お婆さん、そして数人のご近所さんは拍手で迎え入れました。しばらくして拍手が止むと、桃太郎は鼻高々に言いました。
「ただいま、鬼ヶ島よりお宝を取り戻して帰って参りました!屈強な鬼たちに私1人で立ち向かい、この身一つで全ての鬼を倒してみせました!皆さん、これで安心です。我々の集落は、この桃太郎が守ってみせたのです!」

おしまい


※この物語は、桃太郎一族によって代々語られている。桃太郎の育ての親が虚言癖お爺さんと虚言癖お婆さんであること、桃太郎夫妻が価値観の違いで離婚していること等から、多少の脚色が施されていると考えられている。

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