見出し画像

ダークホースと三笘と久保

デザインされたサッカーの先



物語には密度が必要だ。
小説を結末から読む人がいる。これはある意味合理的だろう。
しかし、その読み方はただ「インプット」しているという意味しかないのではないか。
未知の物語を思考しながら読み進める作業は、ただのインプットにはなりえない。

スポーツも同じだ。
一瞬の間に濃密なドラマがある。
そしてドラマはダイジェストや早送りでは絶対に認識できない。
この真理があるから、面白いし興奮する。


イングランドサッカープレミアリーグ第20節
ブライトン対リヴァプール。

好調ブライトンが90分を通して優位に進めた試合は、3-0という最高の結果をもたらした。

自陣からのボール回しに自信を持っているブライトンのサッカーが躍動していた中で、選手の持ち味が存分に発揮されていた。
リヴァプールは前線のプレスがはまらず、後手に回ってしまっていた。
この試合でブライトンは、プレミアリーグでのダークホースの地位を確実にしたといえる。ヨーロッパリーグ等も視野に入ってきた。

三笘のドリブルが強豪チームをも翻弄している。


 
そしてもうひと試合。
スペインサッカー、リーガエスパニョーラ。
レアルソシエダ対アスレティックのバスクダービーの一戦で久保選手が大活躍した。
試合は3-1でレアルソシエダの快勝。久保選手もファンタスティックな1得点を記録し勝利に貢献。マンオブザマッチに選出された。
 
ここで取り上げるのは三笘選手と久保選手なのだが、この両チームには共通する重要なコンセプトがある。それはセンターフォワードだ。
このポジションも切り取りたい。

今シーズン高いパフォーマンスを見せつける久保選手。


 

チームプレイとシステム


 
まず三笘選手はこの試合、オフザボールの動きが秀逸だった。
ポイントは攻撃時のスタートのポジショニング。

いつもは左サイドに張りながら攻撃をスタートさせるのだが、この試合は少し内側に位置することが何度もあった。
彼のタスクの一つは、縦への抜け出しを増やして相手のディフェンスラインを押し下げ、前半からスルーパスを引き出すこと。
ポジションをいつもより内側にすることで、ゴールへ直結したランニングを可能にし、コンビを組むサイドバック、エストゥピニャンのオーバーラップを効果的に演出することに成功。
リヴァプールのディフェンダーを翻弄した。
 
次にレアルソシエダの久保選手。
彼はフォワードとして前線からの積極的な守備を仕掛け、攻撃時には裏への飛び出しの動きが多い。 
これも三笘選手と同様に相手ディフェンスラインを押し下げることが狙いだが、久保選手の場合、裏への飛び出しは必ずしもパスを受けなくていい。
狙いは中盤のダビド・シルバ選手あたりがフリーでボールを動かすための起点作りなのだ。
労をいとわずチーム戦術を遂行し続けることで、得点が少なくても監督からの信頼を勝ち取っている。
 
この二つのチームに共通するのは守備陣からパスをつなぐパスサッカーだ。
 
さらに注目したいのは現在プレミアリーグ首位をひた走るアーセナルだ。
ではなぜアーセナルなのか。それは、このチームに20年以上前からスペインサッカーの血が入っているからだ。
かつてチームを率いたベンゲルという監督が、当時の保守的なプレミアリーグの中では珍しく、積極的な外国人選手の起用に成功したことから始まる。
イングランドのフィジカルなサッカーの中でパスサッカーを標榜して戦い続けた歴史が、ここから受け継がれている。
 

攻防の駆け引きの妙

ブライトンのFWファーガソンは18歳にして、冷静なオフザボールの動きを披露する。

この両チームで重要なのが、センターフォワードだ。
ポゼッション、ポジショナルプレー、カウンターと戦術のトレンドが変遷してきた中で、このセンターフォワードが再び重要になっている。

 サイドアタッカーの三笘選手や久保選手が活きるには、縦と横の幅広い突破が必要になってくる。その中でセンターフォワードがどう関わるか。
極端なことを言えば、ゴールより大事なタスクが増え、ドリブルやパス、そしてパスを出してからのランニングの高い質が求められている。

 例えばサイドアタッカーが攻撃時に、自分一人に対してディフェンダー二人で守られている状況においても、勝負を仕掛けられるように近くにいるサイドバックないしはセンターフォワードがフリーランニングでディフェンダーを一人引きつける動きをする。
バスケットやハンドボールでよくあるような動きのセオリーだ。
このようにフィニッシャーではなくチャンスメイキングとしてのフォワードの重要性が増している。

力強いキープ力と機動力のあるレアルソシエダのFWセルロート。



 日本人はフィジカルが弱いからセンターフォワードが育たないというような認識がまだある。
もちろんフィジカルは必要なのだが、プラスアルファがより求められている。
屈強な選手が多いプレミアリーグにおいても単純なフィジカルだけではだめなのだ。 

このセンターフォワードのレベルアップがないと日本代表は強豪国に対等に立ち向かえない。
そうなると押し込まれて後手に回り、カウンターサッカーしか選択肢がなくなる。
そしてサイドアタッカーはストレスを抱え続けることになる。 

レフティはスペシャルティ


もう一つ重要な潮流は、左利きの選手だ。
右サイドから中央にかけて左利きの選手起用が増えている。
 
ポジショナルプレイに付随した流動性から、縦ではなく横のスライドの動きが増えたことも要因だが、単純に左利きはボールキープ能力が高い選手が多い。マイノリティゆえの特異性ともいえる。
もしかすると今後は、左利きの選手の起用ポジションが増えてゆくかもしれない。
アーセナルは前線のスタメンに3人ものレフティを起用している。
メッシを筆頭に、あれだけ特徴的な選手が生まれる土壌を考えると、右足のメリットというものも見直されてゆくだろう。
左利きの選手の特徴を体系化し、右利きの選手に教え込むメゾットは一つ有効なのではないか。
 
日本代表で三笘選手と久保選手が同時に起用される形は十分に考えられるが、その場合、現在好調の堂安選手とのからみも考える必要がある。
全員起用ならゼロトップだが、良くてもセカンドプランだ。
考えるほどに、先のカタールワールド杯のようなカウンター戦術はあり得ない気がしてくる。
なぜなら日本人選手のレベルが確実に上がっているからだ。
フロント陣の考えと選手たちの要求の差が広がってゆくような流れに、今後進んでいく可能性がある。
それぐらい監督・コーチ陣のキャリアが不足している。
 
森保監督はカタールワールド杯の実績を引っさげて、高給な契約を他国で結ぶ選択が正解だったのではないか。
日本では選手もいまだに安く買いたたかれている。
この現状を打破するきっかけにもなりえた。そういう点では残念だ。
 
ともあれ絶好調のブライトンとレアルソシエダの試合は引き続き注目だ。
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?