少数派であることがなぜ重要なのか?

少し前に「クリティカル・ビジネスとソーシャル・ビジネスの違い」についてNOTEの記事を上げました。詳しくはこの記事を読んでもらいたいのですが、ポイントをあげれば

すでに多数派のコンセンサスの取れたアジェンダにアドレスするのがソーシャル・ビジネスであるのに対して、クリティカル・ビジネスは、事業開始時点では必ずしも多数派のコンセンサスが取れていないアジェンダにアドレスする

ということになります。

前回の記事では、さらりと「多数派のアジェンダにアドレスすれば必ず後発参入になる」と触れましたが、今回、あらためて「なぜ少数派のアジェンダにアドレスすることが重要なのか?」という点について、少し書いてみたいと思います。

なぜピーター・ティールは「少数派であること」を重視するのか?

PayPal創業者の一人であり、Facebookなどのスタートアップに最初期の投資をおこなった伝説の起業家・投資家のピーターティールは、面接の際によく次のような趣旨の質問をすることで知られています。

世界に関するアジェンダのうち、多くの人は認めていないが、君自身が重要と考えているアジェンダは何か?

ピーター・ティールはスタンフォード大学で哲学を学んでいますが、この質問はいかにも哲学科出身の人物だなと思わせられます。意図のよくわからない質問だと感じる向きもあるかもしれませんが、私の前回の記事を読んだ人であればピーター・ティールの質問の真意がよくわかるでしょう。これはまさにクリティカル・ビジネスのアジェンダに関する質問なのです。

しかしなぜ、ピーター・ティールは「少数派であること」を重視するのでしょうか。それが競争優位の形成において非常に重要なポイントだからです。少数派のアジェンダに取り組む、ということは「未開拓の市場に先行者として参入する」ことを意味します。

ここで重要な論点は「アジェンダが社会的かどうか?」ではなく、「そのアジェンダが少数派のものなのかどうか?」ということです。だからこそ、私は「ソーシャル・ビジネス」と「クリティカル・ビジネス」を分けて考えるのです。

先述した通り、多数派のコンセンサスの取れたアジェンダに取り組む、ということは「競合過多の市場に後発で参入する」ことを意味します。社会の多数派のコンセンサスが取れたアジェンダは、すでに解決に向けた取り組みが世界のあちこちで進められています。そのアジェンダに対して、後発のハンディをひっくり返せるような画期的でユニークな解決策があるのであればまだしも、ビジネス面からはあまり魅力的なオプションとは言えないでしょう。レッドオーシャンの市場に大した差別的優位性もなく後発で飛び込むというのは戦略として最悪というしかありません。

社会的成功とパフォーマンスの分布には非対称性がある

多数派のアジェンダに後乗りするというのはブランディングという観点からも問題があります。というのも、ブランディングとは「アジェンダの陣地の奪い合い」のことであり、奪っていくのは必ず「最初にそのアジェンダを掲げた人・組織」だからです。

例えばワークショップやカンファレンスで「電気自動車を作っている会社といえば?」と質問すると、大多数の人が「テスラ」と答えます。今日、電気自動車を作っている自動車会社は数多くありますが、その他の会社が上がることはまずありません。

同様に「環境問題に関して意識の高い会社といえば?」と質問すれば、大多数の人が「パタゴニア」と答えます。こちらも同様に、今日、環境問題に取り組んでいる企業は数多くありますが、その他の企業が挙がることはほとんどありません。

同様の事実は歴史を振り返っても確認できます。大西洋単独無着陸飛行に最初に成功したのがチャールズ・リンドバーグであることは誰でも知っていますが、二番目に成功した人物がバート・ヒンクラーであることは、彼の飛行が、リンドバーグよりも短時間で低燃費であったにも関わらず、まったく知られていません。

同様に、エベレストを最初に登頂したエドモンド・ヒラリー、南極点に最初に到達したロアール・アムンゼン、ペニシリンを発明したアレクサンダー・フレミング、DNAの構造を解明したワトソンとクリックといった人の名前は誰もが知っていますが、二番手としてこれらのアジェンダに関して大きな貢献をした人は、その貢献に見合うような社会的知名度が与えられていません。

社会的成功の分布とパフォーマンスの分布には著しい非対称性があります。一番手には大きな社会的成功と評価が与えられますが、たとえパフォーマンスが同等か、あるいは場合によっては優れていたとしても、二番手には極端に見劣りする成功や評価しか与えられません。

公正や公平といった是非の問題を云々しても仕方がありません。社会を実際に変革することを目指すアクティヴィストであれば、このような社会の特性を逆手にとって利用することを考えるべきでしょう。

後発でアジェンダを掲げることは先行者を応援するのと同じ

さらに指摘すれば、すでにコンセンサスの取れたアジェンダに後乗りして声高に叫ぶということは、自社の資源を浪費して、そのアジェンダを先行して掲げた企業の「意味的価値の資産」をどんどん増やしているのに他ならない、ということも意識しておいた方が良いでしょう。

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