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名前が付けば、社会が変わる


ふだん、あまり意識することがないのですが、あらゆる現象や状態に名前がつくことは、思考したり行動したり、生きる上で、実はすごく重要であると思っています。

何となく考えていることや、起こっていることに、名前が付いたとたんに、ああ、そうだったのか、とすとんと腑に落ちて、自分の行動に影響を与えた経験がありませんか?

【名前のない家事、という名前の家事たち】

例えば、「名前がない家事」ということば。
私はこれを見たときすごく衝撃を受けたんですね。
そう、文字通り名前がない家事ってたくさんあったのに、言葉がなかったからそれが「家事」としてとらえられていなかったのです。

かつては家事といえば、「掃除」「洗濯」「料理」という大分類しかありませんでした。
だから家事を分担する、といっても「料理は私、掃除は旦那」みたいなざっくりした分け方になりがちでした。

だけど本当の家事って、大きな3つ以外に山ほどあります。
家じゅうのごみ箱のゴミを集める、新聞をまとめる、テーブルの上を拭く、ペットボトルのラベルをはがす、回覧板を回す、、、、とにかく無数にあってこれら「名前のない家事」は気が付いた人がやる、みたいになるから、結局その多くが主婦の仕事になりがちです。

そこで主婦が「不公平感」を抱えてしまうんですね。

「名前のない家事」という言葉が現れたとき、たくさんの主婦が「それー!」って叫んだと思います。
主婦自身でさえ「そうだったのか!」ってこの言葉の出現によって気が付いたのです。

【モラハラという言葉】

これも、昭和の時代から現象としてはたくさんあったはずなのに、名前がなかった言葉です。
これに名前がなかったことで、主に家庭の中で夫から妻に対してこういうことが起こっていて、被害にあっている女性がたくさんいる、ということに社会が気づいていませんでした。
あるいは、気づいていたけど「夫婦喧嘩」とか「痴話げんか」のような平易な言葉の範疇に押し込められて、被害にあっている女性を守る制度も法律もなかったのです。

私自身についていえば、結婚生活の前半、嫌な思いはしていたけど、それに名前がついていなかったので、どう主張したらいいのかわかりませんでした。
友人や母に相談しても「いやあね」「困ったねえ」くらいの反応でした。

だから、「モラハラ」という言葉を聞いて、衝撃を受けました。
「これやん!うちの旦那、これやん!」って心の中で叫びました。

それで、私の中に新しい思考がどっと流れ込んできました。

私が悪いんじゃなかったんだ・・・・夫の言動が、異常なんだ。

【自分が悪いと思っていた妻たちの逆襲】

「モラハラ」夫の妻たちは、「自分が悪い」とか「自分にも至らないところがあった」と考えがちです。何度となく負の言葉を浴びているうちに、そう思い込まされてしまう。
そして、いつしか「反論する」ことが恐ろしくなったり面倒になったりする。
そうすると、相手はますます興に乗ってくるという具合です。
でも、妻側の心の中はけして納得していない。
幸せなはずはないんです。

こういう妻たちは「モラハラ」という言葉を知って、大いに勇気づけられたと思います。

つまり、「自分は不当な扱いを受けている」ということに気が付いたんです。
あれ?私が悪かったんじゃんないんじゃない?って。

そんな馬鹿なと思う方もいらっしゃるかもしれません。
反論すればいいのに、と思われるかもしれません。
でも、それが苦手な人もいて、モラハラ夫のようなタイプの人間は自分に都合のいいパートナーを見つけるのが素晴らしく上手なんです。

そして、気が付いた女性たちの中には、逃げることを決心する人が沢山出てきました。

いま、一方的にモラハラをするのは夫で被害者が妻、という形でお話ししていますが、世の中には逆のご夫婦もいるでしょう。
被害者の男性がいらしたらごめんなさい。

【言葉の力】

名前のない家事・モラハラ、のほかにもこういう現象はたくさんあります。
新しい言葉が、時代の変化とともに生まれ、意味を持ち、それによって行動を変える人も出てきて、社会のトレンドが変化する。。

何となく不調だったものに病名が付いたとたん安心する、なんていうこともありますよね。
「ああ、そうだったのか!」って納得できる。
同じような人が自分のほかにもたくさんいるんだって気が付く。
そして、どう対処するかたくさんのアドバイスも発信され、社会にも認知されていく。
認知されることで、患者自身も安心する。といういい循環が起きます。

新しい言葉の出現によって、今まで苦しんでいた人が救われるのは、ありがたいことです。
そして、私も新しい言葉の出現によって救われた一人だったと思います。


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