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爆発的な成長を遂げる中国アートトイ市場、日本でも勝機はあるのか?

皆さん、こんにちは。
現在、F Venturesでアソシエイトとしてインターンをしている辻と申します。今日は初めての投稿になり緊張している次第ですが頑張って書いてみましたのでご一読いただけますと幸いです。

さて、記念すべき初記事でのテーマは、ここ数年の中国での成長が著しい、アートトイ(デザイナーズトイ)市場についてです。

アートトイ(デザイナーズトイ )とは、アニメやゲームなどのキャラクターを元にしたものではなく、原作者、クリエイターが自らオリジナルで生み出したフィギュアなどの総称のことです。

F Venturesも日本でデザイナーズトイブランドtretoy(トレトイ)を運営するアダビトに投資しており、また個人的にもすごく興味深い領域です。本稿では、最近の中国アートトイスタートアップの動向と、今後日本でもアートトイは展開しうるのかという疑問について考察していこうと思います。

最近の中国スタートアップの動向を追う

国際市場調査会社のFrost & Sullivanによれば、中国のアートトイ の市場規模は、2015年の63億元(約1216億円)から2019年時点で207億元(約3,188億円)にまで成長しています。4年間で、約262%の成長を遂げているのです。中国のアートトイ市場は、最もホットな市場のうちの一つと言えるでしょう。
※2015年時点では、1元19.3円程/ 2019年時点では、1元15.4円程でした。

中国、2大アートトイスタートアップを紹介

さて、この爆発的な成長を遂げる中国アートトイ市場には、主に2つのスタートアップが存在します。1つずつ紹介していきます。

①「POP MART(泡泡瑪特)」

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1社目は、泡泡玛特(日本名:ポップマート・英語名:POP MART)です。POPMARTは、北京拠点のポップカルチャーをテーマとした中国の玩具メーカーで、2010年に現在33歳のワン・ニン(王寧)が創業しました。「Make Something Fun」をPOP MARTのブランド理念として、フィギュア開発やコンテンツ開発、IPライセンス、クリエイターマネージメント、イベント開催など、多方面に事業を展開しています。昨年の12月11日には、香港市場で待望のIPOを果たし、時価総額は1065億香港ドル(約1兆4200億円)にまで昇りました。POPMARTは、36Kr Japanが選ぶ2020年で今年最も注目された企業の1つとして選ばれています。
(ただ、POPMARTにとっては、これが一度目のIPOではありませんでした。2017年に一度、中国の店頭市場「新三板」に上場したことがあります。しかし、当時の時価総額は20億元程度(約320億円)に留まり、結果として上場廃止へと至ってしまいました。そこから3年、香港市場に挑戦した今回のIPOによる時価総額は、実に45倍に膨れ上がったことになります。)
ここまでのPOPMARTが成長した主要な要因を2つ取り上げます。

- 「Molly」のIP(知的財産)の独占

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一つ目は、「Molly」というアートトイブランドの独占ライセンスを取得したことです。香港の有名デザイナーKenny Wong(ケニー・ウォン)氏が担当した、アートトイの可愛らしくポップなキャラクターブランド「Molly」は圧倒的な人気を誇り、中国の玩具市場を熱狂させています。この人気ブランド「Molly」の中国大陸における独占権を2016年に取得し、自社IP(知的財産)にすることで、「Molly」への人気を「POPMART」への人気へと転換させることに成功したのです。

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▲2019年IP別の売上構成比(目論見書に基づきチャイトピ!が作成したものから引用:https://www.chaitopi.com/2020/12/11/popmart-ipo/

上記のグラフも見てもわかるように、「Molly」のIPによる売上は全体の27.1%を占めるほどにまで成長しています。POP MARTはバイヤーとして、デザイナーが制作したアートトイを集約して販売しているのです。POMARTガ所有するIPには2種類あり、「自社IP」と「独占IP」です。

「自社IP」=買収もしくは自社開発したもの
「Molly」・「Dimoo」・「BOBO&COCO」・「YUKI」など
「独占IP」=独占ライセンス契約をしたもの
「Pucky」・「The monster」など

自社IPには、Molly・Dimoo・BOBO&COCO・YUKIが有名なものとして存在していて、独占IPには Pucky・The monsterなどがあります。36krによれば、2020年6月30日時点で、POP MARTが運営するIP93件のうち自社IPが12件、独占IPが25件あるといいます。こうして人気IPを独占していくことで売り上げを伸ばし、アートトイ市場における存在感を強めているのです。

POPMARTの今後の課題としては、自社IPをいかに開発できるかという点があげられます。新たなIPを自社のデザイナーから生み出せるようにならない限り、独占ライセンスを取得するための費用を払い続けなければならないからです。(大抵の場合、ライセンスには1~4年の期限がついています。)その状況を踏まえ、現在、POP MARTでは自社IP商品の拡充を図っており、社内常勤の専属デザイナーの採用が始まっているそうです。

詳しくは、下記URLの記事を閲覧していただければと思います。
36kr|アートトイブランド「POP MART」が香港上場、時価総額は1兆円超え ブラインドボックスで消費者の心をつかむ(https://36kr.jp/110008/)

- 盲盒(ブラインドボックス)という手法

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二つ目は、香港での上場の成功要因になった「Pucky Pool Babies(盲盒)」というブラインドボックスでの特徴的な販売方法です。中身の見えないカプセルを1つ約8ドルで販売で売ることで、人々の収集本能を刺激します。「隠れキャラ」「限定キャラ」「レアキャラ」などの設定を活用し、絶えず購買意欲と購買行動を高めることに成功したのです。結果、毎シリーズごとに全種類集まるまで買い続ける熱狂的なファンが現れたり、59元(約950円)のレア商品や限定品は、フリマサイトなどの二次流通で2000元(32,000円)の高値がつくものもあります。

POPMARTの成長の経緯についてより詳しく知りたい方は、こちらのnoteを見ていただくと良いかと思います。「きっかけは1つのWeibo投稿。中国フィギュアメーカー「POP MART」、香港IPO申請までの軌跡」|佐藤宗高

②「HENIBOX(和你)」(「和你科技(HENI Technology)」)

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2社目は、「和你科技(HENI Technology)」です。HENIBOXに関する記事が中国語の記事を含めてもかなり少なかったです。まだまだ中堅といったところが妥当な評価だと思います。今回は、36Krのこちらの記事を中心にリサーチしました。(https://36kr.com/p/1723945385985

HENIBOXは、競合であるPOPMARTへの差別化として、HENIBOXは青島、淮揚、保定などの地方都市を主軸に展開しています。

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「HENIBOX」の特徴的かつ具体的な戦略を3つ紹介します。
1つ目は、自社でモールドを内製化している点です。
中国の玩具業界のコスト面において、モールド(フィギュア等の型版・鋳型のこと)の製造コストが高いことが苦戦する点としてあげられます。そのため、多くのメーカーは既成のモールドを流用し、加工を加える形で「新製品」を仕立て上げているため、安価で似たような商品が市場に多く流通している。しかし、HENIBOXはそれをせず、自社でモールドを製作し、外部に流用しないよう取り決めているといいます。

2つ目は、小型・軽量のコストパフォーマンスを意識した自動販売機である。泡泡瑪特などの自動販売機とは異なり、HENIBOXの自動販売機は小型・軽量で場所をとらず、商業施設だけでなくバーやカフェなどにも設置できます。また、導入・運搬コストも低いため、大都市に比べ人の往来が少ない地方の小都市でも十分な台数を設置することができるのです。

3つ目は、SNSを活用したプロモーションです。TikTok(抖音)やビリビリ動画(bilibili)、「快手(Kwai)」の動画配信系SNS、「小紅書(RED)」や「微信好物圏(WeChat Haowuquan)」などのSNS×ECのプラットフォームで、独自のブランディングを行っています。

「tretoy(トレトイ)」のアダビト、日本での挑戦

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こうした中国での高まりを受けて、日本でもデザイナーズ・トイの分野に挑戦しているスタートアップがいる。「tretoy(トレトイ)」を運営するアダビトだ。アダビトは、2016年に後藤颯太氏(CEO)と池野一樹氏(CTO)によって設立されました。『これからの自分にワクワクできる世の中をつくる』をVISIONに、音楽発掘アプリ「DigDig」や空いた時間に誰かに会えるアプリ「moonside(ムーンサイド)」を今まで運営してきました。そこから大きくピポットし、去年の11月26日に「tretoy(トレトイ)」をリリースしました。「ぜんぶかわいい」をコンセプトにSNSでのブランディングを進めており、既にInstagramのフォロワーは1.5万人を突破しています。弊社、F Venturesの投資先でもあるアダビトの今後の活躍に期待です。F Venturesとしても、最大限のサポートで事業のグロースに併走していきたい所存です。

日本のアートトイ市場での勝機はあるのか?

さて、実際こうしたデザイナーズトイは今後日本でも展開していくのでしょうか?

- 日本のおもちゃ・玩具市場規模、8,398億円

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一般社団法人 日本玩具協会によれば、2018年度の国内おもちゃ・玩具市場規模は、前年度比5.0%増の8,398億円です。成長市場とまではいかないが、ここ数年は8000億円台をキープしており十分大きい市場があるといえます。現時点で、日本のデザイナーズトイ市場は192億円と言われていますが、今後の伸び代はかなり大きいでしょう。

- POPMARTと、日本のガチャガチの強い関連性

デザイナーズトイスタートアップの勝機はあると思います。POPMARTの創業者、王寧も日本のガチャガチャから着想を得て、現在のプロダクトであるブラインドボックス(盲盒)での販売方法を考案しました。日本においてガチャガチャは衰退産業にように思われているかもしれませんが、実は今や約400億円規模の大きなビジネス市場であり、右肩上がりの成長を遂げています。また、1回100円の世界観は崩れ、200〜300が主流で高いものでは500円のものまであります。

- ユーチューバーの開封動画で「サプライズトイ」がおもちゃ市場の新たな流行に

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さらに、最近では、POPMARTのブラインドボックス(盲盒)と似たものとして、日本でもユーチューバーの開封動画から「サプライズトイ」への注目が集まっています。2018年には全世界で累計5億体以上を売り上げる人形シリーズ「L.O.L. サプライズ!」が日本にも上陸し、女児玩具分野の成長を牽引しています。トイジャーナルによれば、2018年度のサプライズトイ市場規模は85億円とまだ小さいものの、今後の成長の兆しを見せています。こうした「サプライズ」と「コレクション」の二つの要素を活用した仕組みは、エンタメのあらゆるシーンでみることができます。たとえば、ソーシャルゲームにおけるガチャガチャ(パズドラなど)トレーディングカードゲームのカードパック(遊戯王など)、はわかりやすい例かと思います。これらもPOPMARTと同様、限定キャラやレアキャラを設けることで、自社IPヘの熱狂を高めています。

元祖オタク大国、日本

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日本は元祖オタク大国です。中森明夫氏が「オタク」という言葉を発明してから35年余りが経ちました。アニメや漫画への熱狂がアートトイに向く可能性は十分にあると思います。ただ、現状では中国でいう「Molly」のような、日本のアートトイ市場を牽引するようなキャラクターブランドはない状況です。日本においては、アニメや漫画、ゲーム、ラノベなどのキャラクターへの熱狂が、フィギュアやグッズに向く形での人気はあると思います。最近で言えば、ここ半年〜1年で爆発的な人気を集めた「鬼滅の刃」は良い例です。永浜利広首席エコノミストの試算によれば、これまでに漫画を含む書籍販売が850億円、興行収入を柱に映画関連は500億円以上。そして、キャラクターグッズや企業とタイアップした商品などの販売は1300億円を上回ると見込まれるそうです。「Molly」の年間売り上げが60億円であることを考慮すると、鬼滅の刃というIPがもつ影響力は目を見張るものであることが分かると思います。こうした影響力のある人気ブランドをアートトイ業界から生み出せるかは定かではないですが、アニメや漫画の文脈に乗らずに日本での人気を高めるには独自の戦略が必要だと思います。

終わりに

以上、中国と日本、両国のデザイナーズ・トイ(アートトイ)市場について考察してきました。ここまで読んでいただいた方ありがとうございます。自分も子供の頃に「ムシキング」や「遊戯王」などのカードを集めるのにありったけのお小遣いを使った覚えがあります。今後は、投資先であるアダビトの日本での挑戦を強く支援していくことで、日本のアートトイ市場を盛り上げていきます!おもちゃ業界全体の成長に繋がり、人々の生活により多くのワクワクがある社会にしたいですね。

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参考記事:
https://forbesjapan.com/articles/detail/38810
https://36kr.jp/103790/?fbclid=IwAR2WLZbct9NSbDgBHUD_FxT01r72Pbj5DBPmOmBzC0H2rRXm2758F822PWw
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000035924.html
https://thebridge.jp/2020/11/adavito-pre-series-a-round-funding
https://statdb.jp/facts/48117
https://news.yahoo.co.jp/articles/ecc2483e222f90f76de5361ee3554ee42f91c53b
https://cbns.jp/articles/01dqa6dxytxwmp6hvgtk3hr42r
https://www.toys.or.jp/toukei_siryou_data.html
https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/tatsui10
https://36kr.jp/22745/
https://36kr.com/p/1723945385985
https://news.yahoo.co.jp/byline/yokoyamanobuhiro/20201219-00213306/


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