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逃げ水

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建築学科を卒業したが就職せずに数ヶ月が経った。ひょんなきっかけから空間デザイン事務所にインターンとして入ったのだが、果たして彼はこの仕事をやっていくことができるのか? 新入社員の… もっと読む
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記事一覧

逃げ水 #10 | 揺れる想いと、揺れすぎる棚。

内装管理室との打合せから戻ったあとは、粛々と内装設計指針を隅まで読み込み、図面を描き、社…

逃げ水 #9 | 円卓の設計士

トイレのデザインを隅々までチェックして席に戻ると、先輩はすでにビール飲み干していた。 「…

逃げ水 #8 | カンパリソーダは光る

「ぼん、そっちは上座やろ、オマエはこっちや」 片山先輩が片側の口角をわざとらしくあげて、…

逃げ水 #7 | オープンキッチン

事務所から地下鉄で一駅の四ツ橋駅で下車し、「堀江」という住所がつくのに、まだ賑わいの乏し…

逃げ水 #6 | キン消しとスケール

ガンプラのスケールは1/144 ミニ四駆のスケールは1/32 趣味の世界のスケールはなぜか…

逃げ水 #5 | 穴子の天ぷら

ブビンガ材の一枚板の天板には雄弁なスケッチが置かれていた。 その絵から立ち上がる空間につ…

逃げ水 #4| コピック

マグカップから立ち昇る、コーヒーの香りを含んだ蒸気を鼻から吸い込みながら、急勾配の階段を登ってデスクに戻る。 僕のデスクは、ビリジアン色の上に白い1cm間隔のグリッドが描かれたのカッターマットが机いっぱいに敷かれた、窓から一番遠く光の入らない暗い片隅にある。 こんなに大きなカッターマットの存在を知る人は、ファッション誌の街角スナップに掲載されることを夢見て、あらかじめ調べた取材現場のストリートを何往復することも厭わない人の数くらいではないかと思う。 僕はその両方を知って

逃げ水 #3|踊り場の窓

テナントビルの給湯室といえば、広く明るい貸室、気分の上がるエントランス、清潔感のあるトイ…

逃げ水 #2| 洋書店

事務所が入居するビルは、間口が2間ほどで奥行方向に長い、コンクリート造の4階建てだった。 …

逃げ水 #1| ソファの匂い

落ちかけた毛布をたぐり寄せる動きに合わせて、顔がベルベット生地に近づくと、すえるような匂…