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襤褸と刺し子|空間デザインの仕事紹介

デザインと名の付く仕事をしているひとり、あるいは小さな会社は、ちょっとしたきっかけが仕事につながります。
JunAleさんとのお仕事もそうでした。

きっかけを今ふりかえると「よくそんなことお願いできたな、、」と思います。いわゆる「才能のムダづかい」と言うやつで。

長年愛用しているトートバッグに、FREITAGみたいにストラップをつけて、自転車に乗るときはリュックみたいに背負えるようにしたい。
そんな思いつきを、スタッフと話していると「いい人いますよ」と紹介してくれたのがJunAleさんでした。

はじめてお会いして何をやっているかを聞き、実例としてInstagramのアカウントを見せてもらってびっくり。
既製品のスニーカーに刺し子の技法をつかい、見たことのないカスタムをされている。そしてフォロワーが1万人超。

JunAle|Instagramの投稿一部抜粋

こんな活動をしている人に「それでは、この使い古したカバンに安い布でいいのでストラップつけてください」と告げるのはなんとお門違なのか。

そう思いましたが、ご本人はニコニコされていて「いいですよ〜」と。
なんていい人なんや!と一瞬で心をもっていかれました。

スタッフに後日「どんなすごい人に誰でもできる仕事依頼してんねん」と伝えたのは言うまでもありません。

電光石火。展示会を開催することに


才能をムダづかいする失礼な依頼は早々に、そこからはお互いの仕事や将来の構想の話に。
聞くと、Junさんは(活動名の「JunAle」の由来はご本人に任せてJunさんと呼ばせていただく)スポーツアパレルのデザイナーであることがわかりました。

クライアントワークを日常とする日々に、自分自身のクリエイションとはどんなものか?と自問する過程で、襤褸と刺し子に出会ったそうです。
業種は違えども、デザインを生業にする人間として、とても共感を覚えました。

要件やお金に制約がなかったとしたら、いったい自分は何をつくるのか?
デザイナーなら誰しも考えたことがあると思います。
Junさんはこれに答えをだして、いや、厳密に言うと「これだろう」と自分を納得させて、まずは手を動かしてみた。
すると、思いのほか面白く、どんどんのめり込んでいった。そういう感覚だったと聞きました。

時間を忘れて没頭できるクリエイションを手に入れる。
どんなに幸せなことなんだろうと、うらやましく感じました。

一方、僕も、デザインに関連するイベントや展示会を企画し、開催するスペースをもちたい。という構想があり、その場所として倉庫とガレージにしている空間をつかいたいんだ。と伝えました。

するとJunさんから「これまでつくってきた作品のお披露目する展示会をしてみたかったんです!」と思いがけない返答が。

その空間は事務所から歩いて1分。
それなら!と二人で見に行き、その場で「ここでやってみましょうか」と話がまとまりました。

まさに電光石火。
そこから展示会に向けて様々な検討をし、ガレージと倉庫用途の空間にたらない、最低限の機能をつけくわえる工事をして展覧会を開催しました。

展覧会のキャプションを設置するJunさん
展示の様子
会場ではnanameさんによるワインとたべもの、ある日さんによる中国茶がふるまわれ、
訪れた人が談笑し作品を見る、とても豊かで楽しい時間が流れていた。

急ごしらえだったにもかかわらず、展覧会には多くの人に訪問いただき(Junさんの人脈があってことなのですが)とても実りある時間と空間を堪能できました。

アトリエ設計の依頼

展覧会のその後は、友人として食事をしたり遊んだりと、一緒に過ごすことがありました。
そんなあるとき、展示とアトリエを両立するような空間をもちたいので、設計をお願いしたい。とご依頼をいただきました。

場所は大阪の京橋にある鶴身印刷所内にあるテナント区画。

鶴身印刷所さんはとても素敵な空間で、こちらの紹介をするとまるまるひとつ記事ができそうなので、Webサイトの紹介にとどめておきます。
面白いイベントを定期的に開催されているので是非チェックしてみてください。

Junさんはすでに施設内に事務所をかまえていましたが、道路に面した区画が空いたと知り、先日開催した展覧会のイメージを日常的に運営したいと構想がふくらんでいたので建物内で移動することを決められとのことでした。

18平米ほどのこぢんまりした区画は、古い印刷所をリノベーションした木造建築の味わいが十分に感じられます。
なので内装に関してはほとんど手をくわえる必要ななさそうです。

RICOH THETA で撮影した区画の360°写真
モルタルと白い壁・天井そして構造用合板がいい味だしてる。

依頼内容は、ヒアリングして要約すると以下2点に整理される、とてもシンプルなものでした。

「ラボのような雰囲気」
「アトリエ、展示、SHOPの用途を同時に満たす」

「ラボなような雰囲気」は施設全体雰囲気や、刺し子や襤褸という手工業的な「あたたか味」とのコントラストを狙い、その掛け合いがもたらすモダンな空間を目指しているのだと認識しました。

「アトリエ、展示、SHOPの用途を同時に満たす」に関しては、可変性を許容する造作、あるいは家具による空間構成を突き詰めることで実現できると考えました。

ラボの雰囲気をつくるいちばんの要素は照明とその色温度です。
「ラボ」と聞いてあたたかみのある暖色系の照明をイメージする人は少ないと思いますが、そのイメージ通り、寒色系の色温度で空間を均一に、影が出ないような照明計画にすると空間イメージをがらりと変えることができます。

むずかしかったのは、可変性を担保した造作や家具の設計でした。
あらゆる可能性を考え、さまざまなカタチの造作や什器をデザインし、その都度Junさんと打合せをしました。

什器デザインの検討の様子

あーでもない、こうでもない。
こういう使い方も面白いな、でもこんな状況では邪魔になるのか、、
といった議論を時間をかけておこなって、最終的にできたのはキャスターがついた収納付きテーブル什器。これひとつでした。

一見するとなんの変哲もないテーブルなのですが、各所の寸法や使い勝手が厳密に検証された、Junさんのこの空間にしかあてはまらない、オリジナルのものです。

結果、実際につくったものの値段よりデザイン料の方が高くなるというプロジェクトになりました。
検証した工数や期間が長くなったゆえなのですが、一般常識にあてはめると疑問を感じる人もいるかもしれません。

しかし、Junさんもデザイナーであり、考えることや検討の大切さを理解してくださっていて、デザイン料に関しては特段コメントなく気持ちよく受け入れていただきました。

こうして完成した空間がこちらです。

キャスター付きの作業台兼展示台を中央に配置したカタチ
展示が際立つ背景になるように、シンプルかつ手の跡を感じられる天板の素材


オープニングレセプションの模様

こうして完成した空間は、2023年11月11日にレセプションが開催され、オープンしました。

鶴身印刷所に今も残る石版印刷を活用してショップカードをつくられていました。
写真は石の原板
石版印刷をした上に活版でグラフィックを入れる手のこみよう。
カード1枚の原価を考えるとおいそれともらえない(笑)
テーブル什器に展示された作品を手にとる人たち
襤褸でしつらえた羽織
襤褸と刺し子、藍染を駆使したスニーカーたち。
いったいどれがけの手間がかかっているのか。。脱帽。
ちなみに右に写っている人はJunさんではありません(笑)
シャツ・ジャケット・帽子
購入できます!

最終的にクライアントになったJunさんとの出会いから空間のオープンまでをふりかえってきました。

うまくいく仕事というものはどこまでいっても人と人の感性や想いに対する共感があるのかどうか、ということにつきると改めて感じました。

これからも自分との仕事を楽しんでくれるクライアントと出会えるように、発信や遊びをわすれないようにしていきたいと思います。

謝辞|関わってくださった皆さん

施工・什器製作:株式会社キクスイ
いつもつくりたいものに真摯に向き合ってくださるつくり手。

照明計画のアドバイス:NEW LIGHT POTTERY
素敵な照明器具の数々。店舗、住宅を問わずいろんな空間で使われている。

テーブル什器の天板素材:MORTEX
意匠性・ひび割れ特性・防水性をもつ素材。好きで使う人多いのでは。

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私の作品紹介

建築・インテリアなど空間デザインに関わる人へ有用な記事を提供できるように努めます。特に小さな組織やそういった組織に飛び込む新社会人の役に立ちたいと思っております。 この活動に共感いただける方にサポートいただけますと、とても嬉しいです。