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きょうの晩ごはんはカレー|基本設計と実施設計の違いを料理に例えて解説してみる

「今日の晩ごはん、何がたべたい?」
「カレー!」
「わかった、何カレーにする? Beef or Chicken?」
「ん〜、、カキフライ!」
「OK!(揚げ物面倒やな)じゃあ準備するね(ニコッ)」
・・・必要な材料やレシピ、つくるのにかかる時間をざっくり想定する。

ここまでが「基本設計」です。
そして、料理を作り始める直前までの準備期間が「実施設計」にあたります。実際に料理するのが「工事」と想像して以降お読みください。

設計業務には、大きく分けて4つのフェーズがあります。

  1. 基本設計

  2. 実施設計

  3. コスト調整(見積り取得と金額査定、減額などの調整)

  4. 工事監理(設計図通りに工事がされているかチェックする)

3と4は想像しやすいと思いますが、1と2の違いはわかりますか?
むずかしいですよね。
実際のところ、両者の線引きをどこでするか、若干あいまいなところもあり、設計者もクライアントに違いを説明することはあえてしない傾向にあるように思います。

それで何もなければ良いのですが、そうはならず、ときおり問題が発生してしまいます。
その原因である基本設計と実施設計の違いを解説することで、設計者とクライアントの意思疎通がすこしでもスムーズになると良いな、と思いこの記事を書いています。

いっこうにカレーをつくりがはじまらない。なぜ?


基本設計のフェーズでは、実施設計と比較してお客さんとのコミュニケーション量が多いです。

なぜなら、冒頭のやりとりのように、クライアントがいったい何を食べたいのか(どんな空間をつくりたいのか)、その料理につかうべき材料やつけ合わせなどをどうするか、アレルギーはないか、などをヒアリングするからです。

空間の話にすると、色々打合せをして間取りや使いたい素材は決める。ということになります。ある程度の基本的な図面も受け取っていることでしょう。

そうなると、あとはもうちょと専門的な手続きなんかがあったりして、そのあとはすぐに工事かな?と感じられるはず。

それなのに、その後は打ち合わせもあまりなく、ただ時間が過ぎていく。
いったいいつになったらカレーをつくりはじめてくれるのだろう?サボっているのかな?と疑問を抱きはじめます。
ここがいちばん大きな問題点になります。

こんな時に不信感をもたれぬよう、事前にしっかり説明をすることが肝要なのですが、設計者からすると何度もくりかえしている仕事の流れであるため、ついついフォローがおろそかになり問題に発展してしまいます。

「自分の常識は他人の非常識」という戒めをデスクトップに貼っておくべきですね。
果たして設計者はサボっているのでしょうか?

料理を始めるまでにすべきこと


答えが「サボっている」となる訳はないですね。
料理を作り始める直前までの準備期間(実施設計)ではこんなことをしています。

1. 材料を吟味している。
・どんなスパイスを入れるべきか考える。
・たまねぎは甘味が強いものがカキフライに合うのかどうか、過去のレシピなどを参照して調べる。
・メインの牡蠣はどこの産地のものが良いのか。いくつか取り寄せて試食してみる。

2. レシピを考える。
・スパイスの調合比はどうする?
・ルーはニンニクと生姜とスパイスのみのさらっとしたものか、小麦粉を加えてまったりさせるか。
・玉ねぎはみじん切りにして飴色に炒めたものと、食感を残すためのもの2種類用意するか。
・揚油はラードが良いのか、あっさりしたものにすべきか。

3. 調理方法を検討する。
・野菜などの材料の適切な切り方は?
・効率よく料理をするために、調理手順を考える。
・揃える材料とレシピでつくるために最適な調理道具を検討する。

いかがでしょうか?想像がつきましたか?
サボっている訳ではなさそうですよね。

1〜3の作業について、それぞれ空間デザインの内容に置き換えることはもちろんできますが、かなり長くなりそうなので割愛します。
※興味のある人はコメントで質問ください。

実施設計の段階で発生するこのような作業では、クライアントに質問をする項目が少なく、それゆえコミュニケーションが薄れる時期があるということなのです。

「こんなことをしています」と説明すればじっと待っていただけるかと言えば、そんなに単純なことでもないと思います。
それでも、伝えるかどうかで印象は変わってくるでしょう。

早く提供できるカレーはどんなもの?


そんなに手間暇をかけなくて良いので、早く料理を(工事を)食べたい。
という声が聞こえてきます。

もちろん可能です。
CoCo壱番屋へ行ってカキフライカレーを注文しましょう。(11月以降限定〜なくなり次第販売終了)

ココイチで提供される商品は、先に述べた1〜3の工程を何ヶ月も(何年も、かも)かけて吟味し、店舗スタッフのだれでもつくることができるようにマニュアル化しているからこそ、注文してすぐに食べることが可能です。

これを空間の話に置き換えると、ハウスメーカーに住宅の建築を依頼することになります。
使う材料や基本的な間取り、構法、生産ラインをあらかじめ決めているからこそ、間取りを決めてから工事着手までの時間が短いのです。構法もおおよそ決まっているので工事期間も短くすみます。

どこにもない、どこよりも(あなたにとって)おいしいカキフライカレーを提供したい。


この記事の主題は基本設計と実施設計の違いをわかっていただくことでした。それはご理解いただけたと思います。

しかし最終的に伝えたいのは、どこまでこだわったカレーが食べたいのか、つくり手も食べる方もお互いにしっかり認識しなければならない、ということです。

手早くカキフライカレーが食べたい人に、例に挙げたようなこだわりでつくったものを提供しても、確かに美味しいと言ってもらえるかもしれませんが満足度は決して高くないはずです。

空間デザイナーや建築家は、食材を吟味するにとどまらず、なんなら自分で野菜を育てて料理に使いたい、というこだわりをもった人がほとんどです。
そんな人に「スーパーで売っているカット野菜使ってもらっていいので」とリクエストをしても、話はそこから進まないでしょう。

おわりに


近年は「オリジナルのものをつくりたい」「どこにもない空間をつくってほしい」という要望は減少傾向にあると感じています。

ひと昔には一般的でなかったオシャレな空間がちまたに増え、そのような空間をつくるレシピが出回り、多くの人が一定の満足を得られる空間を手軽に手に入れられるようになったからでしょう。

どの時代でも商品やサービスは、少数派のものが一般化・大衆化していき、成熟期を迎えて衰退します。
そして成熟〜衰退の時期には、必ず新しいオリジナリティが発生します。
次の時代の波の起こりに飛び乗れるように、感性を常に磨いておきたいと思います。

建築・インテリアなど空間デザインに関わる人へ有用な記事を提供できるように努めます。特に小さな組織やそういった組織に飛び込む新社会人の役に立ちたいと思っております。 この活動に共感いただける方にサポートいただけますと、とても嬉しいです。