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ところで、デザイン料はおいくらですか?< 前編>

(仕事が始まってしばらく時間が経過したある日)
「ところで、デザイン料はおいくらですか?」
とクライアントから質問が出た。

あぁ、またやってしまった。

ご依頼の仕事の全体像が初回ヒアリングでは明確にならず、必要工数がわかりかねたために「ひとまず何度かやりとりを往復して、仕事の全容が明確になったらお見積りしますね」とお伝えして進めていたプロジェクト。

こういったプロジェクトは意外と多くあって、こちらはクライアントの意向を汲んで計画をすることに夢中になり、ついついデザイン料の提示を忘れてしまっているとき、冒頭の質問を急にいただく羽目になる。



なぜ最初からデザイン料を提示できないのか


デザイン料の後出しってどういうこと?
それって誠実じゃないのでは?
色々ご意見が出ると思います。

しかしながら、要件定義からはじまるモノ・コトづくりの現場では、ご依頼いただいたその時に、こちらが実施しなければならない作業の全容が100%明確になっているということはありえません。

あらゆる数字を検証した後に販売価格を決定した、自社で販売する製品であれば、消費者の目には最初から購入価格がしっかり提示されます。

しかし、モノ・コトづくりにおいては、価格決定に必要な工数や仕入れの内容は消費者側が決めることになります。
ゆえに、普遍的に提示できる定価はありませんし、デザイン料は全ての仕事において同額になることはありません。

飲食店設計の場合を例に挙げます。
これら作業を「誰がやるのか?」という視点でご覧ください。

・営業許可に関して、保健所との折衝や申請
・融資に関する概算見積りの作成
・厨房機材の選定やレイアウト
・家具の仕入れと納品
・広告に使用するためのハイクオリティなパース作成
・傘立てやトイレにおくハンドソープなどの備品の選定と手配
・Wi-Fi設備などネットワーク機材の設計と工事手配

リストを見て「全部デザイナーの仕事じゃないの?」と思った方もられるでしょうし、「いや、それは当然クライアント仕事でしょ」と感じる方もおられるでしょう。
そうなんです。人によって認識は全く違っているのです。

このような作業内容についてクライアントが最初から全てを把握して、「これこれの作業は御社に、こっちは私が」みたいにオーダーをすることは、何店舗も開発してこられたような、よほど慣れている方でないと不可能だと思います。

作業区分を明確にしないまま、請われるままに考えなしに見積り金額を提示したとします。
しかしプロジェクトを進めるにつれ後出しでどんどん仕事が増える。
それを理由にデザイン料の増額を伝えると「聞いていない。それも含まれていると思っていた。」と反応されることが非常に多い。

このような状況はお互いにとって歓迎すべき状況ではないと思いませんか?

後出しの増大は双方にとって不利益になる


「お店探しと予約をするくらいでいいから」と言われ、それならばと引き受けた同窓会の幹事。
フタを開けてみると、連絡先リストの作成や同窓生への連絡、SNSで情報収集までやる羽目になってしまった。
こんなことなら引き受けずに参加もしなかったのに、、

前述した「誰がやるべきか」の仕事リストを事前に明確にしておかなかったばっかりに、こんな状況になってしまいます。

この例は同窓会という楽しい行事を行うために気持ちで行うことですが、これでさえモヤモヤとした嫌な気持ちになります。

これが仕事となると、お金が絡むのだからことさら嫌な気持ちになってしまいますし、お互いに後出しであーだこーだと言わなければならない不毛な議論に終始することになり、時間が非常にもったいです。

そうならないために、デザイナー側はクライアントと対話を重ねて、提供すべきことが何なのかを顕在化していく必要があります。
「顕在化」と書いたのは、対話を重ねるうちに、クライアントが考えてもいなかった事象があらわれ、それが作業になる可能性があるからです。

なので提供するもの全てが顕在化され明確になった時に初めて工数が確定し、初めてお見積りができるようになるという考えです。

見積りはいつ提示するべきか


とはいえ金額の見当が全くつかない相手に仕事を依頼するクライアントはいないでしょう。それではどうするか。

初回ヒアリングとその後少しのやりとりを終えた段階で、概算見積りとして提示します。

デザイン料は案件によって千差万別とは言いましたが、これまでに実施してきた過去実績があるので、それらから類似案件を見つけて数字を推測することは可能です。

なので、プロジェクト全体の予算を考える段階では、この推測した数字を使っていただき、計画の最初のフェーズで作業の内容を明確にして、あらためて正式なお見積りを提出する、という段取りとしています。

プロジェクトの初期段階は、デザイン料のみならずあらゆることにかかる費用を「概算」する必要があるので、デザイナーにとっては「数字を推測する」ことも一つの重要なスキルだと思います。

無料でできる範囲を明確にしなければ・・・


記事の冒頭で「デザイン料はおいくらですか?」
とクライアントから聞かれた時は、初期に提出すべき「概算見積り」を忘れていて、プロジェクトが進んだ段階で「正式見積り」をポン、と出してしまったという状況でした。

その時は「お高いですわね(ニッコリ)」と反応がありました。
その(ニッコリ)の表情から色々と読み取り、僕も「そう思われますか(ニッコリ)」と応じました。
結果は、、お察しの通りです。


世の中には「見積り無料」といった仕事が多々あります。
それらのほとんどは受注をするための営業行為の一環であり、会社が販管費として見込んでいるので成立している背景があります。

自分の話で考えると、デザイン料の目安を提示するための概算見積りについては無料で出せますが、正式見積りを出すには無料は少々難しいと感じています。

理由は記事内で書いたように、様々な条件を聞いたり、時には手を動かして計画を進めたりする工数がかかるためです。

この工数を営業のための販管費と考えれば良いのかもしれませんが、僕の場合はこの工数がおそらく他社と比べて大きいのだと思います。

「見積り無料」が成立するのは、おそらく都度カスタムをする箇所が少なく、それに割く時間を短くできるルーティンが組める業種だからだと想像しています。

一方で、自分の場合は特定の個人(会社)のために、都度カスタムした見積りにするため、再現性が低く工数が多くかかってしまう業種なのでしょう。

とはいえ、、
「見積りするのにお金がかかるなんて!」といった感覚が世間一般にあると思うので、自分としても受注を増やそうとするならばその辺り考えていかなければならんな、と記事を書きながらあらためて感じています。

同業者の皆さん、どうしてます??(教えて欲しい)

見積り無料に関する話は色々思うところがあり、いつか書いてみたい話題です。


前編は以上です。
後編は「デザイン料はどうやって算出しているか」のお話になります。
↓こちらからお読みください。

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