【俺の家の話02  変化する60歳の家】

2021年9月28日に、還暦をむかえる俺。そして、俺が生まれた時にできた同じ60歳の家。

オヤジの頃のサラリーマンだったら、定年を迎え、赤ちゃんにもどり赤いちゃんちゃんこを着て、第二の人生の旅立ちを祝う。孫が生まれ、すっかりおじいちゃんらしくなっていくような歳。

プロレスラーは、なぜか選手寿命が長く、還暦記念試合もあるらしい。どうやら、職業によって、いつまで現役なのかが違ってきそうだな。

デザイナーは、若いうちが花で、歳をとってくると、流行や感性についていけずに、一線から退いていく人もいるけど、中には、歳をとればとるほど円熟味を増して、素晴らしいデザインを手がける人もいる。

柳宗理さん、渡辺力さん、長大作さんなどは、90歳を過ぎて、死ぬまで現役だったのを知ると、俺も頑張ろうと思う。デザイナーじゃねえけど。

建築家なんかは、60歳を過ぎてから代表作をつくっていることもあるし、アーティストにいたっては、あたりまえのように生涯現役の人が多い。60歳になってから、絵を描きはじめたなんて人もいるぜ。

人生100年時代。どんな職業につくのかで大きく変わってくる。学ぶ。仕事する。余生をおくる。という3つの大きな人生のステップが混ざってあき、ひとつの仕事だけで、人生を過ごすには、退屈な時代になっているのだ。

で、俺は、どうなのか。そして、俺とともに、生まれた家の寿命があとどのくらい続くのか、気になるところだぜ。

家の寿命がどんどん短くなっているという話を聞く。同じ家を何世代にわたって住み継いでいくことは、減っているのだろうよ。都市化されて、住まいと仕事が切り離され、戦後の持ち家制度で、核家族の家が増えていく中で、家のあり方が変わってきたんだ。

そういう俺の家も、戦後に、田舎からでてきた両親がローンを組んで東京の郊外に建てた家だ。1961年に、国分寺にできた木造2階建ての家。この家で、オヤジとオフクロ、そして、アネキ、俺、オトートの家族5人が過ごしたわけだ。

なんだか書いていて、涙がでてきた。オヤジとオフクロの苦労と、家族の団欒の日々。走馬灯のように、こどもの頃の記憶が蘇ってくる。別に、死ぬわけじゃねえけどよ。

家族で過ごす期間は、考えてみるととても短い。こどもが生まれて20年程度。親にとっても、こどもにとっても、とても貴重な時間だ。もちろん、様々な家族のかたちがあるから、ずっといっしょに暮らす家族もいるし、離れたり、いっしょに暮らしたりを繰り返すこともある。

俺の家は、こどもの成長と、家族の変化、時代の変化にあわせて、増減改築を、繰り返してきた家だ。きっと、オヤジとオフクロの思いつきと、なりゆきと、行動力がそうさせたのだろうよ。

最初の大きな改築で言えば、2階に一間だったのが、二間となり、その時に、1階にも部屋が増えた。外のテラスに、いつのまにか壁がてきて、部屋になっていた。

最大の減築は、東側にあった玄関と、1階、2階の二間を取り壊して、西側に玄関を移動したこと。こうすることで、東側の土地をあけて、そこに、別棟として、弟家族の家をつくった。そして、ふたつの家の間をデッキでつなぎ、2階からも行き来できるようにした。

もともとの間取りを説明すると、この家は、典型的な中廊下型。戦後に普及した間取りで、北側に台所、お風呂、トイレといった水回りがあり、東西に伸びる廊下をはさんで、南側に居室が並ぶ。玄関の横には、客間があった。

同じように戦後に普及した間取りに、nDK、そして、その後に、nLDKというのがある、部屋数プラス、リビング、ダイニング、キッチン。最初は団地に採用され広まった。

日本の間取りの変遷は、面白くて、明治以降の和洋折衷のせめぎ合い、そして、核家族と都市化、さらに、構造や設備の進化による変化がある。

大きな流れで言えば、開放的で部屋が襖でゆるやかに仕切られていたのが、どんどん壁が増えて、個室化してきたことだ。その反動として、壁を壊して、大きな空間にするリノベーションなんかが流行った時期もある。

家の寿命に話を戻すと、家は、物理的な寿命だけじゃなくて、家族の変化に対応できなくなる寿命や、経済的な理由による寿命、周辺の開発による立退などかある。どんなに素晴らしい住宅でも、持ち主の判断で、簡単に壊される。

60年経った俺の家。正確には、俺の家じゃなくて、オヤジとオフクロの家。家族の家。同じ時期に建てられたまわりの家が次々と取り壊されて、建て替えるのを見ながら、変化し続けることで、生き延びてきた。

この家と俺。どちらが先に寿命をむかえるかは、わからない。大きな地震や台風に耐えるには、かなりガタがきている家。時代の大きな変化についていくには、かなりガタがきている俺の身体。

ボロボロになりながらも、リングにあがり、戦い続けるには、戦略と変化が必要なんだと思う。柔軟に、時代の波を読んで、次の手をうっていくぜ。

これまで、オヤジとオフクロがやってきたように、思いつきと、なりゆきを大事にしながら、何事にもとらわれない自由を手に入れたい。

まだまだ、可能性はあるはず、あきらめない。そう信じて、サラリーマンを卒業して、実家に戻ってきて、はやくも18年。

次は、どんな変化がまっているのか、過去を振り返ることで、未来を見つけたい。過去は、未来につながっている。あと、40年で、100年。変化していけば、未来は、もっと面白いはず。

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