僕の好きな漫画3「つげ義春」

「僕の好きな漫画」第3回目です。

これまで特定の作品について書いてきましたが、今回は作家さんにスポットを当ててみます。
僕の大好きな作家さん「つげ義春」さんについて。

つげさんと言えば、マイナーなのにメジャー、知る人はよく知っているけど、知らない人はまったく知らないサブカルのチャンピオン、ガロ系の王様、一部に熱狂的なファンを持つカルトな作家さんです。竹中直人さんや佐野史郎さんなど芸能人にもファンが多いそうで、作品の映像化も盛んです。

皆さんはつげ義春さんをご存知でしたか?

「ねじ式」「ゲンセンカン主人」「紅い花」「李さん一家」「無能の人」「旅シリーズ」などなど、短編を中心に「シュール」とか「アート」と呼ばれる漫画を多く描かれています。1955年に貸本漫画で作家活動を開始し、65年に「ガロ」デビュー、学生運動が活発だった1970年代には学生たちにカリスマ的な人気を誇った作家さんでもあります。作家性の塊のような方ですね。「夢日記」などのエッセイも面白いです。

ネットで検索してみましたが、1987年を最後に漫画作品は発表していないようです。寡作で有名な方でもあります。検索ついでにいろいろ調べてみると、幼い頃から対人恐怖症があり、成人してからは不安神経症(ここまでは知ってた)や視力の悪化、不整脈や腰痛、耳鳴り、リウマチなど心身の不調が多く、また、漫画を描くことに苦痛を感じて他に職を求めようとしたり、1人山奥で住んだり、乞食になることを夢想するようになったりと、繊細な一面も持っていらっしゃる印象。
しかしながら、それを上回る才気で消えることを許されない漫画家というか。きっと若い頃は女性にモテたんじゃないかなぁ…?太宰治みたいに母性本能をくすぐるタイプな気がします。

僕がつげ義春さんの作品を初めて読んだのは高校生の時でした。
漫画好きを自認していた高校生としては、通らねばならぬ道だと読んでみましたが、最初はさっぱり意味が分かりませんでした。「不条理系の元祖みたいなものなのかなぁ」と思いつつ、「この良さが分からないと漫画マニア的にダメなんじゃないか」と強迫観念に駆られ、「結構深いよ」などと適当なことを言って友人に本を薦めていました。内容はよく分からなかったのですが、絵が魅力的で特にベタ(黒)の表現にとても惹き付けられました。

僕は原稿中のベタの面積が比較的大きい(画面が黒っぽい)漫画家なのですが、これは間違いなくつげさんの影響です。それまで、漫画は線画が基本であると思っていた僕にとって、線じゃなく白と黒という色で表現する漫画があることに驚き、強烈にカッコイイと思いました。絵を眺めるだけでも飽きず、繰り返し読みました。もちろん(?)模写もしまくりましたよ。

↑これは最近模写したヤツ。

これまでの漫画は印刷の制約上、基本的にモノクロの表現が主体となっていましたが、モノクロであることの特性を積極的に利用した作品というのは実はあまり多くないような気がします。
無自覚に線画を選択している作品がどれだけ多いことか。

個人的にベタがカッコイイ作家を何人か挙げると…、楳図かずおさん、水木しげるさん(つげ義春さんは一時期、水木しげるさんの仕事を手伝ってもいます)、高橋ツトムさん(師匠です)などなど…。ベタの多い作家というのは、実は白をすごく大事にしている気がします。どこを黒く塗るかじゃなくて、どこを白く残すかを意識してベタを入れているのを感じます。

ベタと言えば、石井隆さんのベタも好きだったな。

石井隆さんは今では映画監督として有名ですが、昔は超カリスマな漫画家でした。。繊細さとコピーをそのまま貼付けたような雑さが同居した不思議な絵で、能條純一さんとかは多分、石井隆さんの影響を色濃く受けているんじゃないかなぁ…?カテゴリ的にはアダルトに属し、登場するヒロインの名前は作品が変わってもなぜかいつも「名美」。バイオレンスとエロが渦巻く強烈な世界観は映画でも共通ですね。

この本とか凄まじい内容ですよ。快楽殺人の物語です。モラルもクソもありません。20歳くらいの時に購入して、読んだ後怖くて押し入れに封印しました…。

じゃなくて、今回はつげ義春作品のお話。

つげ義春さんの作品は今読んでも意味はやっぱりよく分からなかったりするのですが、コマとセリフのリズムだけで心地良いというか、音楽みたいなものなのかな?と思っています。音楽の意味を考えたって無意味でしょう?楽しいとか気持ちいいとかでいいのかなぁと。そんな漫画です。

それと、独特のエロスが作品全体に溢れていまして、これも僕のお気に入りポイントです。日常という皮を1枚めくった裏にある生々しいエロスとでもいうのでしょうか。直接的じゃない日本的な。「陰翳礼賛」という谷崎潤一郎のエッセイがあって、内容的にはまだ電灯がなかった時代の美の感覚を論じたものです。僕はこれをやはり高校生の頃に読んだのですが、それに通じるエロスというのでしょうか。谷崎曰く、電気のない時代、西洋では可能な限り部屋を明るくし陰の部分を消す事に執着したそうですが、日本ではむしろ陰翳を認め、その中でこそ生える芸術を作り上げたのだそうで。

谷崎潤一郎と言えば、「痴人の愛」「春琴抄」「卍」「刺青」などSM要素満載のエロティックな小説を書く人です。今時のテレビじゃ放送できないないような内容の物も多く、「昔の文豪はド変態だよな!」と大好きです。谷崎作品をつげさんが漫画化した図を夢想したり。

昔、そんな話を某メジャー誌の編集さんにした所、その方はつげ義春を知らないばかりか、「そんなマイナー指向じゃダメですよ」と説教し出しました。知ってる人には有名すぎる漫画家、知らない人はまったく知らない漫画家。

大好きです。

つづく

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