植田正明氏による損害賠償請求事件のご報告

「平成27年(ワ)第6362号、同第35481号 損害賠償請求事件」「平成29年(ネ)第914号 損害賠償・同反訴請求控訴事件」につきまして、ご報告いたします。

この事件は、植田正明氏(twitter: @udx)を原告とし、佐藤秀峰および有限会社 佐藤漫画製作所を被告として、植田氏に対する名誉毀損や信用毀損に対する慰謝料など200万円を求めたものです。(途中、植田氏は被告に対する請求を200万円から2億200万円に拡張)
それに対し、佐藤秀峰および有限会社 佐藤漫画製作所は、植田氏に400万円の損害賠償を求める反訴を提起いたしました。
裁判は二審まで行われ、一審、二審とも植田氏の主張は退けられました。
私の提起した反訴は、二審で認められ、植田氏に400万円の支払いが命じられました。
その後、植田氏が最高裁に上告することなく、2017.10.12に判決が確定いたしました。
詳しくは判決文、各訴状、拡張申立書を末尾に掲載いたしますので、そちらでご確認ください。

事件の経緯を簡単にご説明いたします。
植田氏の訴状によれば、「被告は被告が運営する業務用ホームページに於いて、故意に原告の名誉及び社会的信用を毀損する内容を掲示し全世界に向け発信した」とのことです。
「それにより原告の名誉を毀損し、社会的信用を失墜させ、執拗に精神的障害を続けている」とのこと。
このことについて、佐藤秀峰と佐藤漫画製作所に対し合計200万円の慰謝料を請求しました。

植田氏が「原告の名誉及び社会的信用を毀損する内容を掲示し全世界に向け発信した」と述べているのは、かつて私がニコニコ チャンネルで公開していた記事の一部記述を指しています。(ニコニコチャンネルページ閉鎖に伴い現在は非公開)

当該記事は「平成 24年 (ワ) 24571号 損害賠償等請求事件」の結果を報告したものでした。
「平成 24年 (ワ) 24571号 損害賠償等請求事件」とは、私が原告となり植田氏を著作権侵害や名誉毀損などで訴えた事件です。
植田氏の提唱する「天皇陛下プロジェクト」なる企画に、私からイラストの応募があったと宣伝し、植田氏が私のイラストを無断で使用した事件です。
私がそのような企画に応募した事実はなく、また、イラストの使用も許諾しておりませんでした。
訴訟では、当然のことながら私の主張が認められ、植田氏に50万円の支払いを命じる判決が出されました。
詳細は下記判決文をご覧ください。

http://tokkyo.hanrei.jp/hanrei/pt/10270.html

判決後、私は損なわれた名誉を回復するため、判決を伝える記事の公開に至りました。
そして、この記事の記述が植田氏の名誉を毀損するものだとして慰謝料などを請求したのが今回の「平成27年(ワ)第6362号、同第35481号 損害賠償請求事件」となります。
元を正せば、自らが他者の著作権を侵害、名誉を毀損したにも関わらず、その敗訴を伝える記事の一文に目をつけ、「名誉毀損だ」と主張する植田氏の行動は、私には理解しがたいものがあります。
訴訟の過程で、植田氏は私に対し「反省が見られない」などとして、請求を200万円から2億200万円に拡張しましたが、何を反省すれば良いのか皆目見当が つきませんでした。
一般に訴訟の代理人費用は、損害賠償の金額に応じて高くなります。
請求額が200万円から2億円になれば、代理人費用も相応のものになります。
この場合、私の負担する弁護士費用が非常に高額になってしまいましたので、反訴を提起し、植田氏に400万円の支払いを求めました。
そちらが平成29年(ネ)第914号 損害賠償・同反訴請求控訴事件」となります。

判決は冒頭で述べた通りです。
一審、二審とも植田氏の主張は退けられ、私の反訴は、二審で認められ、植田氏に400万円の支払いが命じられました。

これまでこの件をご報告しなかったことには、いくつか理由があります。

・多忙だったため
・この事件によって私の名誉が著しく毀損されたり、社会的評価が下がることはないと考えたため
・判決を公開することで植田氏がまた訴訟を提起することを想像すると面倒臭く、これ以上関わり合いたくなかったため

今回あえて報告に至ったのは、やはりいくつかの理由があります。
1つは、植田氏が支払わなければならない400万円について、その一部を含めて一切支払いがないため。(支払いを求める内容証明送達済み)
2つ目は、今後も訴訟全般に対して同様に対応していく意思を示しておくため。
そして、次が最も大きな理由ですが、今回の訴訟の中で植田氏は匿名twitterアカウントと植田正明という本名を紐づけることを「プライバシー件の侵害」と主張しました。
しかし、この主張は裁判官によって退けられました。
つまり、一定の手続きを満たせば、匿名twitterアカウントと個人名を結びつけても、プライバシー権の侵害にはならないということです。
このことは、匿名アカウントによる攻撃や誹謗中傷を受けている方々にとって、1つの希望となるのではないでしょうか。

それがインターネット社会における悪意の抑止力になるのであれば、報告すべきではないかと考えました。

以上です。


判決文



一審判決文



植田訴状



植田拡張申立書



佐藤反訴状

平成27年12月14日
東京地方裁判所 民事第48部 合議A係 御中
御庁 平成27年(ワ)第6362号 損害賠償請求事件
被告(反訴原告) 有限会社佐藤漫画製作所 外1名
原告(反訴被告) 植田正明

反訴状

反訴原告(本訴被告) 有限会社佐藤漫画製作所
同代表者代表取締役 佐藤秀峰

反訴原告(本訴被告) 佐藤秀峰
    
(送達場所)

上記訴訟代理人
弁護士 小倉秀夫

反訴被告(本訴原告) 植田正明

損害賠償請求反訴事件

訴訟物の価額 金400万0000円
ちょう用印紙額 金2万5000円

第一 反訴請求の趣旨
一 反訴被告は反訴原告有限会社佐藤漫画製作所に対し、金200万円及びこれに対する平成27年12月1日から支払い済みまで年5%の割合の金員を支払え
二 反訴被告は反訴原告佐藤秀峰に対し、金200万円及びこれに対する平成27年12月1日から支払い済みまで年5%の割合の金員を支払え
三 反訴費用は反訴被告の負担とする
との判決及び仮執行の宣言を求める。

第二 反訴請求の原因
一 本訴
反訴被告は、反訴原告佐藤秀峰(以下、「反訴原告佐藤」という。)が作成し、反訴被告有限会社佐藤漫画製作所(以下、「反訴原告会社」という。)の運営するウェブサイトに掲載された文章によりその名誉及び社会的信用が毀損されたとして、当初、反訴原告佐藤に対する損害賠償請求訴訟及び反訴原告会社に対する訴訟を提起した(後に、同訴訟は、併合されることとなった。)。その後、反訴被告は、平成27年9月30日付け「請求の拡張申立書」を提出し、反訴原告佐藤に対する請求額を1億6160万円に、反訴原告会社に対する請求額を4040万円に拡張した。

二 不当訴訟
1 不当訴訟に関する最高裁判例等
最判昭和63年1月26日民集42巻1号1頁は、「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる」と判示しており、「当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起した」との事情があれば、当該事件被告はこれにより生じた損害について当該事件原告に対して賠償請求することができる。そして、最判平成22年7月9日判タ1332号47頁によれば、このような不当訴訟に基づく損害賠償請求は、これを棄却する判決が確定するのを待たなくとも、当該訴訟において反訴という形で行いうるものとされている。
 既に訴訟が提起され被告が弁護士を訴訟代理人に任じていた場合に、原告が不当に請求を拡張する行為についても不法行為となり得るかは争点となり得るが、日本国内における通常訴訟においては、訴訟物の価額を基礎に着手金及び成功報酬を算定する「着手金・報酬方式」が広く採用されているところ、不当に請求額が拡張された場合、被告は、その拡張された請求額に応じた着手金及び成功報酬を支払うことを余儀なくされることになることに鑑みれば、不当な請求拡張についてこれを不法行為とはなしえないと解する合理的な理由はない。
2 本件訴訟における請求の拡張
反訴被告の反訴原告佐藤に対する拡張した請求の内容は、
① プライバシー権の侵害(に関する慰謝料) 100万円
② 名誉毀損(に関する慰謝料) 1500万円
③ 信用毀損 1500万円
④ 傷害 1億2000万円
⑤ 偽計業務妨害 500万円
⑥ 逸失利益 500万円
というものであり、反訴被告の反訴原告会社に対する拡張した請求の内容は、
① プライバシー権の侵害(に関する慰謝料) 100万円
② 名誉毀損(に関する慰謝料) 1100万円
③ 信用毀損 1100万円
④ 偽計業務妨害 1100万円
⑤ 逸失利益 500万円
というものである。
 しかし、このような巨額な賠償請求権については、事実的、法律的根拠を欠くものである上、反訴者はそのことを知っていたし、少なくとも通常人であれば容易にそのことを知りえた。以下、詳論する。
⑴ 名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟において、一人の原告について認容された慰謝料の最高額は、週刊現代対朝青龍事件の1100万円である。本件においては、これを上回る慰謝料額が認容される要素が何もないにも関わらず、反訴原告佐藤に対する請求分及び反訴原告会社に対する請求分を合わせると2600万円となる。このような巨額な慰謝料請求権が生ずる余地がないことは通常人であれば容易にそのことを知りえたものといえる。
⑵ 反訴被告は、上記名誉毀損とは別に、信用が毀損されたとして反訴原告佐藤に対して金1500万円、反訴原告会社に対して金1100万円、合計金2600万円を請求している。しかし、信用毀損という場合の「信用」とは、「経済的な側面における人の社会的な評価」をいうところ、反訴被告は、反訴被告のいかなる「経済的な側面における人の社会的な評価」が、反訴原告らのいかなる行為によって毀損されたというのかすら、具体的に主張しようとしない。そもそも、反訴原告らは、反訴被告の営業的行為に係る能力等に何ら言及をしていないのであるから、名誉毀損とは別に信用毀損が成立する余地はない。したがって、信用毀損に基づく慰謝料請求権が生ずる余地のないことは、通常人であれば容易に知りえたことである。
⑶ 反訴被告は、反訴原告佐藤に対して、「被告による約3年に及ぶ虚偽の風説の流布や殺害予告、虚偽告訴、名誉毀損、精神的障害、偽計業務妨害などで原告は人生を大きく狂わされた。これが原因で精神科への通院を余儀なくされ、障碍も発生した」として、「これは傷害罪に該当する」とした上で、傷害に対する慰謝料として、金1億2000万円を請求している。しかし、反訴被告が医療法人社団綾瀬病院への通院を開始したのは平成24年3月29日であって、反訴原告らが反訴被告との紛争の経過をそのウェブサイト上で報告するよりも前のことである。したがって、反訴原告らの行為と反訴被告の精神疾患との間に相当因果関係はもちろん、条件関係すらないことは明らかである。また、死亡慰謝料ですら2~3000万円が相場となっている現在において、仮に反訴被告が医療法人社団綾瀬病院による診断書に記載されたとおりの症状を有することになったとしても、これを超える慰謝料が認定される可能性はない。したがって、傷害による慰謝料として金1億2000万円の賠償請求権を反訴被告が反訴原告佐藤に対して取得する余地のないことは、通常人であれば容易に知りえたことである。
⑷ 反訴被告は、前記名誉毀損、信用毀損とは別に、偽計業務妨害に基づく慰謝料として、反訴原告佐藤に対して金500万円、反訴原告会社に対して金1100万円、合計金1600万円を請求している。偽計業務妨害とは、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の業務を妨害すること」をいうが、反訴被告は、反訴被告のいかなる業務が妨害されたというのかすら具体的に主張しようとしない。また、業務妨害の方法として反訴被告は、「被告佐藤はTwitterで 『サイン会、 刺されたら嫌なのでキャンセルしました』等と原告を凶悪な殺人鬼の様に喧伝し炎上マーエティングに利用した」との点を掲げるが、上記のツイートの内容が、反訴被告を凶悪な殺人鬼とするものでないことは、文面上明らかである。したがって、偽計業務妨害による慰謝料として金1600万円の賠償請求権を反訴被告が反訴原告らに対して取得する余地はなく、かつ、そのことは、通常人であれば容易に知りえたことである。
⑸ その他、反訴被告は、「逸失利益」として、反訴原告佐藤に対し金500万円、反訴原告会社に対し金500万円請求している。しかし、いかなる不法行為によってそのような「逸失利益」が生じたのかを具体的に主張していないし、そのような不法行為がなされるまでにいかなる収入を得ていて、それが当該不法行為によりいくらに減少してしまったのかについての具体的主張すらない。したがって、「逸失利益」として金1000万円の賠償請求権を反訴被告が反訴原告らに対して取得する余地はなく、かつ、そのことは、通常人であれば容易に知りえたことである。
⑹ 反訴被告は、Twitterにおける自己のアカウントのプロフィール欄に、「【近況】虚偽に基づき業務用HPで名誉毀損を3年弱続けた佐藤秀峰被告/佐藤漫画製作所両名を告訴2億」と表示している。このことに鑑みると、反訴被告は、対外的に、反訴原告らに対し合計2億円の規模の訴訟を提起していると言うことを示したいが故に、実際にはそのような巨額の賠償請求権を有していないことを知りながら、このような請求の拡張を行った可能性すらある。
⑺ 本件においては、プライバシー権侵害も成立する余地がないことは本訴において既に主張・立証済みであるが、本件事案に鑑み、プライバシー権侵害に基づく金200万円の慰謝料請求まで不当な請求拡張とすることは留保することとする。すると、不当に拡張された請求の価額は、反訴原告佐藤との関係で金1億6000万円であり、反訴原告会社との関係で金3800万円である。これにより、追加的に請求されうる弁護士報酬額は、反訴原告佐藤との関係で着手金549万円、成功報酬金1098万円であり、反訴原告会社との関係で着手金183万円、成功報酬金366万円である(現在も多くの弁護士が報酬額算定の基礎として使用している弁護士会の旧報酬規定に則った場合。)。したがって、反訴原告らは、反訴被告の上記不当な請求拡張により、上記金額相当の損害を被った。

3 まとめ
 よって、反訴原告佐藤は反訴被告に対し不法行為に基づく損害賠償請求権として金1648万円並びにこれに対し上記請求拡張の日から支払い済みの日まで年5%の割合の法定遅延損害金を、反訴原告会社は反訴被告に対し不法行為に基づく損害賠償請求権として金549万円並びにこれに対し上記請求拡張の日から支払い済みの日まで年5%の割合の法定遅延損害金を請求する権利を有しているところ、反訴原告佐藤及び反訴原告会社はそれぞれ、その一部金200万円並びに上記請求拡張の日の後である平成27年12月1日から支払い済みの日まで年5%の割合の法定遅延損害金の支払いを求めて、反訴を提起するものである。


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