ホームレスに励まされる~日本編~

 1989年から数回にわたり、名古屋では「演劇遊戯祭」というイベントが行われました。小劇場系の劇団が中心になり、名古屋都心部の公園に特設テントを設営し、様々な公演が行われました。
 特設テントは長期間設営されたままです。夜間はテントと機材を守るために、演劇関係者が交代で宿直をしました。2人ひと組で、交代で睡眠をとっていました。
私が宿直当番の時、ホームレスの方が1人テントに入ってきました。最近は公園でホームレスの方を見かけませんが、当時は名古屋中心部の公園には、たくさんのホームレスの方がみえました。本来ならば、私の仕事は部外者をテントに入れないことなのですが、なんだか、その方と話し込んでしまいました。ホームレスの方はこんな質問をしてきました。
「こういうイベントは儲かるのか?」
私は正直に答えました。
「すごく赤字です。第一回の演劇遊戯祭は600万円の赤字が出たそうです」
ホームレスの方は、こう言いました。
「俺に任せろ! 今から俺が偉い奴の所へ行って、お前達のことを話してやる! お前達が見たこともないお金をもらってきてやる! 待ってろ!」
 そう言って、去って行きました。
 一瞬、私はこんな夢を見ました。実はホームレスは世を忍ぶ仮の姿、あの人には政界財界に太いパイプがあって、明日の朝には数千万のお金を持って現れるのではないか? 赤字だらけの名古屋の小劇場界がうるおうのではないか?
 結局、その人は二度と姿を見せませんでした。
 私はホームレスというのは、仕事のない人だと思っていましたが、実は、困っている人たちに一瞬の夢を見せるのが仕事なのかもしれませんね。
English

イラスト by anis & rove illustrations (rove image design office)

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