父は難聴でした。
　私は舞台役者でした。
　この奇跡的な組み合わせにより、父は私の話だけは補聴器なしで聞くことができたのです。役者は発声練習をしていますからね。
　しかし、私がどんなに頑張っても、伝えられない音がありました。破裂音です。「ば、び、ぶ、べ、ぼ」「ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽ」などがどうやっても伝わらないのです。他にも唇を使って発音する音は難しかったです。「ふぁ」とかです。
　これは難聴全体にいえるの事なのか、父の場合だけなのかわかりません。
　どうしたかというと、筆談にしたのです。破裂音を使うときはその文字だけを紙に書いて、指さし、他の言葉は腹式発声で話しました。
　私も年を取ると破裂音が聞こえなくなるかもしれません。
　年を取って夢がかない、「ドクタースランプ　アラレちゃん」の世界に行くことができたとしても、ガッちゃんと話ができないかもしれません。ガッちゃんはパピプペポでしか話しません。

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イラスト by cooltree