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カギはカギ屋


 我が家の玄関の扉を新しくして、大きな問題が起こりました。
 父の手の力では玄関のカギが開かないのです。父は長年の人工透析で、指の力が弱くなっていたのです。カギを鍵穴に差し込む事はできるけど、回す力がないのです。玄関の扉もカギも新品。油をさせばどうにかなるという問題ではありません。自力でカギを開けられないのであれば、カギの意味がありません。いや、そもそも扉の意味もありません。
 大工さんにも相談しました。「ちょっと考えさせてくれ」と言われましたが、待ちきれませんでした。ネットで見つけた全国チェーンのカギのトラブル業者も相談しましたが「新品を開けられないなら、どうしようもない」と冷たい対応です。
 ダメもとで、家の近所のボロボロの小さなカギ屋さんに相談することにしました。高齢の店主が対応してくれましたが、頼りない感じです。ところが店主、「ああ」と言って、足元に転がっていた鉄の廃材を切り、カギの頭の部分に打ち付けて、持つところを大きくしたのです。なるほど。そうすれば、テコの原理で、小さな力でもカギが回るようになるのです。ついに父は玄関のカギを開けられるようになったのです。問題は解決しました。
 タッチの差で遅れて、大工さんも同じ発想のカギを持ってきました。しかし、大工さんの加工したほうは、持つところがソフトボール位の大きさでした。それではポケットに入りません。大工さんは日ごろ大きなものを扱っていますから、仕事が大きくなるんですね。
 カギはカギ屋ですね。
 最近は、こういう小さな商店が減ってしまって、大型店舗になったり、オンラインになったりしています。こういう細かな工夫ができる経験豊かな専門家が身近にいなくなるのは残念ですね。

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イラスト by patrimonio

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