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かみやすい、飲み込みやすい料理を外食で。横須賀の「創」で開催された試食会レポート

家族が高齢になって食べる力が低下しても、一緒に外食をしておいしい時間を過ごしたい。そんな願いを叶えるための試みが横須賀市で芽吹いています。
女子栄養大学出版部・監物南美さんからのお誘いで、「お洒落なお店で美味しく食べる嚥下食」の試食会へ。横須賀の創作和食ダイニング「創」に行ってきました。

ちなみに嚥下(えんげ)とは、のどにきた食べ物を食道にごっくんと送り込むこと。加齢や病気で、嚥下反射がうまくいかなかったり、速度が落ちたりすると、むせたり、食べ物が気管に入ったりして肺炎の引き金になります。
飲み込みやすく工夫をした介護食を嚥下調整食といいます。

料理を担当しているのは藤間誠司さんです。

●料理人なのに、がんの父親が食べられる食事が作れなかった
2年前、「創」のシェフ、藤間さんのお父様ががんになり、食欲が落ち、食べられるものが少なくなったとき、「20年も料理人としてやってきたのに、病気の親が食べられる食事を作れない」と愕然としたそう。

友人で薬剤師の白鳥さんに薬のことや、どんなものなら食べてもらえるのか?相談するうちに、「嚥下(えんげ)」という言葉に出会いました。
「嚥下って何?から始まり、喉の仕組みや飲み込み、噛むことなど、一つずつ勉強していきました」

●料理人としての使命感に燃える
藤間さんは白鳥さんの誘いで、神奈川県摂食・嚥下リハビリテーション研究会の勉強会にも参加。そのうち嚥下食メニューを提供する試食会をやることになり、横須賀エリアの管理栄養士、言語聴覚士、薬剤師らと一緒にメニューの検討を重ねていきました。

「今ではコンビニに行っても、これは嚥下食に使えるかな?と考えてしまいます」と、藤間さん。「とりつかれているんです。外食でのおいしい嚥下食づくりは、料理人として誰かがやっていかなくてはいけない」と藤間さん。

横須賀市の高齢化率は30.5%。神奈川県市内で4番目に65歳以上の割合が多い地域です。

●形はあり、押しつぶすしやすい
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013の「3」のレベルで調理された料理です。専門的には「形があるが、押しつぶしが容易。飲み込みやすさに配慮されたもの。多量の離水がない」というのが目安。

それでは料理を紹介します!

横須賀産菜の花と人参の和風テリーヌ(ゲル化剤使用)

鰆の塩焼き おろし餡(とろみ剤使用)

鰆の表面の焦げと塩気が美味でした。

蕎麦と合鴨ロースの燻製(だしにとろみ剤使用)


自家製ボロネーゼのラザニア風

コース料理の中で一番苦労したのが、ラザニアのパスタの調理だそう。
乾麺のパスタを水で戻し、ゆでてから裏ごします。
とろみ剤やゲル化剤は使わず、サラダ油で食べやすい形に仕立てています。
写真で見るよりもボリューム満点!

蛤のお吸い物

殻につぶしてかためた蛤が詰められていました。
とろみの具合が同じだと沈んで溶けてしまうので、ゆずと三つ葉は違うかたさに調整して浮かべています。技の結集!
だしの香りをしっかり感じます。
こぼしたりしないよう、持ち手付きの耐熱グラスによそわれています。

クレーマ・カタラーナ 桜ソース

スペイン・カタルーニャ地方のスイーツ、クレーマ・カタラーナは、半解凍のアイスケーキとして提供されました。お店の通常メニューにとろみ材でとろみをつけた桜ソースで春らしく。
スイーツは介護食として提供できるものがたくさんありそうです。

ランチコースはとろみ付きドリンクで3,000円です。

とろみづけされたウイスキーの水割りも飲みました。
薄いと感じるのですが、通常の水割りで作ると、濃くて飲めないそうです。
氷を入れると、とろみが分離して誤嚥につながるそう。
アルコールはカクテルの方が美味しくいただける気がします。

全体的にやわらかいのは確かですが、ぽってりした食感。
食感に変化をつけられないぶん、塩けやだしや香ばしさでメリハリをつけるのがコツでしょうか。塩気がきいたものは、よりおいしく感じます。
お腹いっぱい、おいしくいただきました。
家族も同じメニューで満足できると思います。
このメニューで何kcalとれるのかな。

●危険がともなうこととどう付き合っていくか
季節ごとに開かれているイベントは今回で5回目。毎回参加している高齢のご夫婦は、外食の日があることで床屋に行ったり、洋服を選んだりすることで日常のテンションが上がると喜んでいるそうです。

藤間さんは、とろみ調整食品やゲル化剤を使い分け、とろみの強さもイメージ通りに微調整できるようになりました。もう料理食材の一つです。

だからといって通常のメニューに加えて、嚥下食をいつも提供できるかといったら、そう簡単にはいきません。

その大きな理由は、飲み込む力によって適切なとろみのつけ方、食べやすい形状が異なること、間違って気管や肺に入ってしまう危険が伴うことです。
普及までにはいくつかの段階がありますが、料理を作る人が嚥下食の知識と調理技術を蓄積していくことは、これからの地域づくりの底力になるはずです。熱い想いではじめた活動に共感しました。
いい形で広まっていきますように。


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