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Interview8/面倒は御免。

れんちゃん(造園設計士)

面白い友達がいます。

この子のギャグとか言い回しを、
全然違う友達に言ってみせると、大体ウケる。
それで私が面白いとほめられてしまうと手柄を横取りした気分になるので、
「こないだやってたあれ、ウケたよ」と本人になるべく報告するようにしています。

同じ高校、同じ吹奏楽部だったれんちゃん。
創作ダンスの授業では、ポッケの裏地を外に出し魚を表現して踊っていたり、
バレンタインデーには、甘い物ばっかだと飽きちゃうからと
1人だけハート形の一口ハンバーグを作ってきたり、
裁縫が得意で、カーディガン、リュック、筆箱、自分の使う物は全部、
自分の好きなデザインにバージョンアップさせていたり、
自分に起きた出来事を漫画で描き下ろしたり、
会計時に小銭がないと「元でいい?」と
おもむろに中国紙幣を出してきたり。
そのうえ物知りで、植物のこと、哲学のこと、星のこと、
さらっとなんでも教えてくれます。
頭の中の引き出しがとにかく多く、
その引き出し全部建付けがよすぎる。そんな人です。

私はれんちゃんのようにウィットに富んだ人になりたくて、
どうすればなれるのか、ずっと聞いてみたいと思っていました。

(取材:2021年12月)

バチェラー見てない人へ。

れんちゃん
ねえバチェラー知ってる。

――知ってる。友達の家で、どこかの回を流し見したレベルだけど。

れんちゃん
え~~誰推し?

――「バチェラー知ってる?」の次にくる質問! 観てない人なりの、気の利いた返しってないかな。

れんちゃん
タカさんとか適当に言えばいそう。

――シゲさん。

れんちゃん
トメさん。

――年齢層(笑)。

れんちゃん
(笑)。私も最近「見た」って嘘ついちゃったから、今急いで見てんだけど、普通にハマった。
今シーズンなら「キュウちゃんが強い。針きゅう師のノンちゃんはまじで綺麗だけど、多分コウコウのこと好きじゃないよね」って言えば、それでもう見てることになる。(2021年12月現在)

――「キュウちゃんが強い。針きゅう師のノンちゃんはまじで綺麗だけど、多分コウコウのこと好きじゃないよね」。パスポートいただきました。

れんちゃん
そういうわけで最近バチェラーにハマってるから、今日はコウさんみたいに答えたい。

――コウさんって男の人だよね。OK。えっとじゃあ、何から聞こうかな。

れんちゃん
『全然いいよ自分のペースで。待ってるから。今は、きえと俺の時間だから。』

――コウさんそういう感じなんだ(笑)。ではまず、私からするとだいぶ面白いれんちゃんですが、れんちゃん自身は自分のことをどう思ってますか?

れんちゃん
『あ~……やっぱ、その質問をもらったときに、思ったんだよね。自分のことをどう思うかって、自分では分かんなくない?』。

――コウさんやりずれぇ~。


生まれてこの方面倒くさがり。

れんちゃん
ははは(笑)。でもほんとこういう感じ。

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自分のこと……。最近家を散らかしすぎて夫に「いい加減にして」って言われたんだけど、その時、夫とあたしは何が違うんだろうって考えた。で、私は極度のめんどくさがりだって。誰かが来ない限り掃除しなくてもいいじゃん、よく使う物をしまったらまた取り出すとき面倒じゃんってどんどん散らかってく。何をするにも、必要じゃないと思ったらやらなくなっちゃうんだよね。
物を、なんでしまうのか。

――物を、なんでしまうのか(笑)。年末の大掃除は?

れんちゃん
それはやる。気持ちをリフレッシュさせて新年を迎えるっていうのは腑に落ちるから。でも直前までは、「どうせ大掃除するし」ってとにかく片づけなくなるから、一年で一番部屋が汚くなる(笑)。

――自分の中で意味が見出せないと、やりたくないってことか。

れんちゃん
そう。会社のデスクとかも書類であふれてるよ。片付けする時間があったら1秒でも早く帰りたいから。

――デスクに好きな物とかは飾ってる?

れんちゃん
一切ない。だって家から持ってくのが面倒だから。

――ははは一貫してる。昔からそうだったっけ?

れんちゃん
うん。高校の時とかまじでロッカーも机の中もぐしゃぐしゃだったよ。やっぱりそれも、片付けする時間があったら早く帰りたいって思って。それに荷物重いのも嫌だから、教科書とかノートとか全部ロッカーに詰め込んでた。へへへ。

――え、宿題とかテスト勉強とかどうしてたの?

れんちゃん
やってなかったははは。だから順位はまじでいつも最下位らへん。

――そうだったっけ。私は周りに流されてやってた気がするよ…。れんちゃんは周りを見て焦ったりはしなかったの?

れんちゃん
うーん焦ったことはなかったと思う。
大学は受験するつもりだったから、「内申点はいらないな。じゃあ今、教科書毎回持って帰ったり、宿題とかテスト勉強頑張る意味ないな。全部置いとこ」みたいな。テスト期間中とか早く帰れたら、「自由な時間ができた~」って家でシュシュとか作ってたし(笑)。

――あはは、振り切っててカッコいい。偉人の伝記の序盤みたい。そんで最後はちゃんと志望大に合格してるんだから、ほんとカッコいいと思う。

れんちゃん
いや、でも冷静に、ちゃんとやり続ける方がカッコいいと思う……。私はまじで面倒くさがりだから、どうすれば楽に生きられるかを考えてるだけ……。
面倒くさがりだと、何かしなきゃいけないときに「これはなんでやんなきゃいけないんだっけ?」って否定的なとこから入るんだよね。だからやんなきゃいけないことは、やる理由を考えて、じゃあこうすればもっと楽しめるんじゃないかなって自分を奮い立たせる。

――ほう。例えばどういう風に?

れんちゃん
レポート課題ってさ、先生が答えを知っているのに、それを説明しなきゃいけないっていうのが多いじゃん。私はそれが気に食わなくて。先生が知らないことを自分で調べて説明するならやる意味があると思うんだけど、先生が答えを知っているのに、改めて解説するのは意味ないしつまんないなあって思ってた。「そのレポートの存在価値、なくない?」って。

――へええ、私言われるがままにやってたなあ。課題の存在価値なんて考えたことなかったよ……。それで、どうやって自分を奮い立たせてたの?

れんちゃん
少しでも楽しめるように、例えば高校の生物の授業でミドリムシについてレポートを書いた時は、文体を一人称にして、ミドリムシが自分のことを説明してるみたいなレポートにして提出した。「やあこんにちは、私はミドリムシ! 私のことを紹介するね!」って(笑)。それで先生には「面白かったけど、大学ではちゃんとしてね」って言われた。

――すごい生徒だ。それ読んでみたい(笑)。

れんちゃん
あとは大学でも哲学の授業で、哲学書の要約を全部漫画で描いて出したりした。

――ええすごい。それで先生は?

れんちゃん
「面白かったけど、次はちゃんとしてね」って(笑)。

――あはは! 高校でも大学でも、おんなじようなことを言われたのね。


聞いてないよ地球。

れんちゃん
そう。でもそういう考え方のおかげで、進みたい方向が決まったというか。大学2年生くらいの時に、その後の授業のコースを決めることがあって。研究系かデザイン系(造園設計)か。で、研究系はそういう、先生が知ってることを説明することが多いから、それはつまんないなと思って。反対にデザイン(造園設計)のコースは、先生が「デザインには正解がないから皆でどうあるべきか考えましょう」みたいなことを言ってて、だったらやろうかな、みたいな。

デザインのコースを選んでからは、どこかの敷地をお題に出されて、そこで何ができるかを自分で考えたり提案する授業が中心。卒業設計なんて、自分でやりたい敷地を見つけてくるところから考えたりして。今の仕事の入り口みたいなこと。楽しかった。

――卒業制作さ、宇宙ステーションに庭をつくる、みたいなのやってたよね。見に行かせてもらったけど、あれ本当に素敵だった。今の仕事(造園設計士)はどんな感じだっけ。

れんちゃん
今の私の仕事は、建物と一緒につくられた庭とか町の緑を、規定とか法律と照らし合わせながら、何をどう植えるかデザイン設計する仕事かな。

――れんちゃんはずっと植物が好きだったから、なんかぴったりな仕事だなって勝手に思ってた。街中であの木は?って聞くとすぐいろいろ教えてくれんだもん。針葉樹、広葉樹、花の咲き方とか育ち方の特長とか。あと地層とかも好きだよね。溶岩の名前とか。なんだろ、地球系に強い(笑)。

れんちゃん
うん、地球系は好き。中学校の「理科二分野(下)」っていう分野がめっちゃ好きだった。植物とか天文とか火山のことについて。だって、今まで普通に地球にいたのに、知らないことばっかでさ、「まじで? 言ってよ!」みたいな。

――地球に対して「聞いてないよ!?」って。あはは。

れんちゃん
そう。ははは。

――理科以外のこともすごいいろいろ知ってるよね。歴史系からサブカルまで引き出しがほんっと多い。語彙力もあるし、ほらそうやってストローのごみで星作ったり、おしぼりでアヒル作ったりもできる。

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れんちゃん
これは(笑)。(もうひとつ星を作りながら)でも記憶力はいい方かも。授業は基本寝てたけど、楽しいと思ったところはすごいよく覚えてる。ネタにされがちなんだけど、国語の教科書に載ってた『山月記』がすごい好きで、全然違う単元の時に勝手に読んでた(笑)。何って中島敦の文体が超かっこいい。「その声は、我が友、李徴子ではないか?」。

――ほらすぐ出てくる。本もいろんなのよく読んでるよね。どうやって選んでるの?

れんちゃん
読書は小さい頃から好き。本はタイトルで決めることが多くて、本屋よりブックオフの方がよく行く。いろんな本がずらーっと並んでるから、ぐるぐる回るといろんな本が見つけられるから。最近面白かったのは、『フォークの歯はなぜ四本になったか』っていう本なんだけど、これもタイトルを見て「そういやなんでだろ」って思って買っちゃった。

そう、その本に書いてあったんだけどさ。クリエイティビティは、結局は人間の怠惰から生まれたんだって。例えば雨が降るとさ、我慢ができる勤勉な人だったら、濡れないところを都度探して歩こうとするんだけど、めんどくさがる奴は「なんで濡れなきゃいけないんだ、なんで濡れないとこを自分が探さなきゃいけないんだ、じゃあ覆うやつ作ろ」みたいに思って傘を作るんだって。自分が我慢を強いられることが耐えられないみたいな。
フォークの歯も、別に2本でも刺せるけど、肉を切る時とかずりずり動いちゃうし、1本折れたら使えなくなっちゃうでしょ。ちゃんとしてる人は、ずれないように強く抑えようとか、折れたら取り換えようって考えるんだけど、「もっと楽したい」と思っためんどくさがりが、フォークを4本の歯にしたんだって。「ないものを作った人はみんなめんどくさがり」って書いてあって、なるほどなーって。

――おおーそれってれんちゃんじゃん。

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れんちゃん
そう。だから私はいろいろ作れるんだなって(笑)。ちゃんとしてる人とめんどくさがりな人が両方いて、社会が成り立ってんだなってなんか励まされた。
「どこにもないものならば~♪ 作りましょ~♪(ペペロンチーノにチーズかけたっていいだろー!)」ほんとそれなって。

――なつかしの「ミニモニ。テレフォン」(笑)。


面白くなるにはどうしたらいい?

――れんちゃん、知識の豊富さだけじゃなくて、頭の柔らかさもすごいなって思うの。花見の人ごみ見て「みんな桜見たことないのかな?」って切れ切れなこと言ったり、旅館とかで日本家屋の梁に手をかけて、「家、重」って言い出したり。そういうの、どうしたらできるようになるの?

れんちゃん
それは、人が大事な話をしてるときにそれを聞かず、違うことを考えたりすること。

――あははリスキー。

れんちゃん
そう。あとは仲間うちでなんか場所とか調べてる時に、一応スマホは出してみせるけど、実はTwitterとか開いたりすること。

――あははは! やるべきことを、やらないと(笑)。ちなみにれんちゃん自身は、どんな人に憧れるの?

れんちゃん
それはもう、勤勉な人(笑)。「ちゃんとしてる人」っていうのは自分とは対になる存在なので、憧れる。ちゃんとできる人になれたらいいのに、ってほんとよく思う。

――ふーん……でも本当は?

れんちゃん
何もしなくていい人。

――いただきました!
(おわり)



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