【Mr.Bike復刻】みやもと春九堂通信 vol.09

 連載10回目を間近に控えた今になっていうことでもないのだが、ぼくはデブである。ものすごいデブである。どのくらいものすごいデブかといえば、身長173cmに対して体重は125kg。最近体重計に乗っていないので、ひょっとしたら更に重くなっているかも知れない。それくらいのデブなんでぶぁる。いや、発音までデブになる必要はなかった。デブなんである。

 なぜここまで太ったのかには諸説あるのだが、まぁ美味しいモノが好きで、なおかつそれを沢山食べたいという欲望を満たし続けてきた結果だと思われる。極めて当たり前の事だ。

 さて、最近ではそんなこともなくなってきたようだが、少なくとも少し前まではパソコンはオタクの持ち物で、オタクといえばネクラ(死語)でフケツでデブと相場が決まっていた(偏見です)。それは世間の持つ偏ったイメージ像ではあったが、ぼくはそのイメージに、これ以上ないくらいガッチリとあてはまっていた。

 ぼくはインターネットで自分のサイトを開設してから、実に様々な人と出会ってきた。しかし同族、つまりデブでオタクな人々のタマリ場だと思っていたインターネットという場所は、それまでの「パソコン通信」と違い、非常にオープンな場所で、出会う人もスリムで明るい普通の男性が多く、ぼくは物理的にも精神的にも肩身の狭い思いをしたものだった。逆にぼくが物理的にも精神的にもフィールドをデブ占領していて肩身の狭い思いをさせていた可能性もあるが。

 むしろ、オフ会でのデブ遭遇率は極めて低いといっても過言ではない。そもそもデブは、語呂合わせではないが出不精なので、そういう場所にも出てこないというのも一つの理由なのだろう。歩くのもめんどくせぇ! 息をするのもめんどくせぇ! だが食べることだけは別だ!

 さて、数年前のある日、そんな「デブとの遭遇」がない状況を打開すべく、僕は一つの計画を考えた。その名も『Over100kg CLUB』。文字通り体重100kg超のデブ管理人だけの集まりである。特定の趣味系サイトを相互にリンクして作る「Webリング」というシステムを利用してネット上での繋がりを強化し、オフ会なども開催する。開催地は本場所中の両国近郊がいい。木は森の中に隠せというヤツだ。

 もちろん会場は食べ放題のお店。それもデブは歩くのを嫌うので駅近郊がいい。周りがデブだらけならば出不精のデブでも気にせずに出て来られるだろう。そう、そこはまさにデブだけのパラダイス——。

 そんなデブのデブによるデブのためのデブデブしいイベントを考えたぼくは、技術を無駄に活かしたシンボルマークまで作り、自サイト上に掲載する募集記事を書き始めた。

 しかし、その最中に急激に冷めてしまったのだ。いや、急激に目が醒めたという方が正しいかも知れない。

 確かにそんな集まりをやったら内容的にも割と面白いとは思う。だが大量のデブが食べ放題の店に集まり、口々に「うまいデブー」「おかわりデブー」「足りないデブー」「おなか空いたデブー」などとやっている風景は想像しただけで酸素が薄くなりそうだ。大気中に体脂肪が充満しそうである。同席しただけで確実に5kgは太る。

 そもそも、たかだか(?)120kg超のぼくでさえ、代官山の洒落たカフェのイスを曲げたこともあれば、バーのカウンターストゥールを傾かせたこともある。友人所有の原チャリは、ぼくが乗って以来エンジンが変調を来したことさえあるのだ。それをこの広大なネットの世界に募集をかけたらどうなるか。225kgの太郎さん(仮名)や、284kgの八十吉さん(仮名)が大挙して「ごっつぁん×2」とガブリ寄って来たらどうなってしまうのか見当もつかないではないか。

 混乱する店の厨房、次々と粉砕される椅子、きしむ机に抜ける床、ひっくり返る土鍋、響き渡る店員の悲鳴と「ごっつぁん」の大合唱——そんな阿鼻叫喚の場面を想像して、ぼくはキーを叩くのをやめた。

 そしてしばらく考えた挙げ句、お蔵入りさせるのも勿体ないと考え、記事の最後に「もちろんネタです(実際にはやりません)」と書き、結局は掲載してしまった。

 それから既に3年以上が経つ。当時こそ「やらないんですか?」「ぜひ参加させて下さい!」「見学に行きたいです!」というメールが数多く届いたが、今ではすっかり過去の出来事だ。ちなみにその後も様々なネットの人々と出会ったが、ぼく以上のデブには未だに巡り会っていない。

 つまりあの日のぼくの心配は、とんだ「太らぬ狸のデブ算用」だったということなのだろう。デブー……(デブ息荒く溜め息吐息)。

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