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垂直少年と水平少女の変奏曲〜加納円の大いなるお節介と後宮の魔女達~

第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 36

 異能を持つ人間達のドタバタなど意に介することなく季節は進んでいく。
先輩は最高学年に進級し僕と三島さんは二年生になった。
色々な力が働いて三島さんとは同じクラスになり今は僕の隣の席に座っている。
荒畑や上原、朝倉まで同じクラスだった。
やはり色々な力が働いたのだろう。
 先輩は僕の隣に座る三島さんを『けん制しなくちゃ!』と思っているのか。
毎日、一緒に昼食を食べる。
それだけのために、四限が終わると必ず僕らの教室までやって来る。
放課後は新入部員が誰もいない生物部で、僕と三島さんに日替わりのコーヒーをふるまってくれている。
 この頃になると橘さんや秋吉の存在も学校中に知れ渡っていたしね。
なぜたろう。
シスター藤原の事までバレかけている有様だった。
ふたを開けてみれば、新年度に転任してきた教師の内数名がシスターの手下だった。
そいつらは先生と言う立場を利用して、校内における僕の評判を落とす陰謀を巡らせている。
そんな笑えない仕掛けを操っている。
暗躍する教師の差配は勿論シスター藤原が自ら取り図らっていた。
“あきれたがーるず”にも呆れちゃう。
『加納円がこれ以上いたいけな乙女にちょっかいを出さないようにするにはどうしたら良いか』
なんて言う根も葉もない馬鹿話を、姦しく囀(さえず)り交わしているらしい。

そんなこたぁこちとらちっとも知らなかったけどよ。
はんちくな娘っ子どもの大べらぼうな与太話にはちげぇねえ。

別に見返りなんか求めちゃいないけどさ。
連中の恩知らずにもほどがあるってもんだよ?
夏目事案の失点を取り戻そうとおろおろしていたシスターが、どこかでそんなガールズトークを聞きつけたのだろうね。
シスターは「その案件はぜひ自分にやらせてくれ」と懇願したんですと。
『校内で女子が僕に寄り付かないようにする』
なんていう外道な作戦を提案して、その遂行を請け負ったのだとさ。
みんな“女房焼く程亭主もてやせず”って俚諺を知らないんだろうか。
・・・知らない内にモテ期が到来していた?
・・・ないなそれは。
 とにもかくにも本筋としては、僕らを保護下に置くためなんだろうけどさ。
シスターが手下を何人か教師として国府高校に送り込んだのは事実だよ?
まあ。
百歩譲ってそこまでは良しとしよう。
だがあろうことかシスター藤原は“あきれたがーるず”の理不尽極まりない与太話をだぜ。
あっという間に、オーセンティックなタクティクスにまとめあげやがった。
シスター藤原が有能であることは認めるよ?
そうしてガード役として送り込んだ手下の教師達を指揮して速やかに状況を開始した。
いやしくも教職や聖職に携わる者がしたりさせたりするこっちゃないよね。


僕を避けてる?
目を合わせようとしない?
なんだか態度が白々しい?

近頃こそこそと様子のおかしいシスターに、かまを掛けて脅し上げたらすぐにゲロったよ。
まさか国府高校の楽屋裏で、シスターがそんな謀りごとに手を染めていたとはね。
さすがに温厚な僕も怒っちゃった訳でさ。
「シスターがピンチになっても見殺しにしちゃいますから。
今この瞬間そう決めました。
みんなも大賛成だと思いますよ?」
ってね。
その場で面と向かって宣言してやったくらいだよ。

 夏目の件で“あきれたがーるず”から総スカンを食ったシスターは、なんとか皆んなに許して貰いたかったそうな。
「出禁がとてもショックだったんですぅ」
シスターは泣きじゃくりながら洗いざらい白状したものさ。
“あきれたがーるず”には平身低頭で謝ったけれど、秋吉以外はまともに相手をしてくれない。
そう嘆きながらシスターはしゃくりあげた。
それでもシスターが「どうかお許し下さいまし」と乞い願ったところ。
「罪滅ぼしがしたいのなら行動でお示し下さいな」とあしらわれたのだそうだよ。
僕には悪いと思った。
「然りけれど。
然りけれど」
シスターの言葉使いが古文みたいなったのには笑っちゃったな。
藁にも縋る思いで“あきれたがーるず”らの思いを忖度したのだとシスターは鼻水をすすった。
 僕の宣言でパニクったシスター藤原は、大泣きしながらしどろもどろでそんな言い訳してたけどさ。
どうなんだろうね。
ちっとも心に響かなかったよ。
 黒幕はどうせ橘さんだと思うけど、そこんところはシスターが黙秘を貫いた。
シスターを少し見直した?
おそらく橘さんをかばって完落ちはしなかったシスターだけれどもね。
とどのつまり。
みんなとよりを戻すことと引き換えに、僕を売ったってことに変わりはないさ。
僕がみんなには頭が上がらないことを見越しての判断だろうけどね。
直ぐにゲロったのがその証拠さ。
“あきれたがーるず”にせよシスター藤原にせよ。
僕も舐められたもんだよね。


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