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垂直少年と水平少女の変奏曲〜加納円の大いなるお節介と後宮の魔女達~

第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 42

 「鎮西のご隠居っていったい何様のつもりなんだろうね?」

会話が途絶えると話の継ぎ穂として、誰からともなくこのぼやきが投げかけられる。

今夜いったい何回目のセリフだろう。

 夜間飛行は順調だ。

サン・テグジュペリはパイロットとしての能力は今一だったらしいよ。

だから彼が操縦桿を握るよりは、よっぽどましな僕らのフライトだったろうさ。

OFUの息のかかった途上にある施設で小休止を取りながら、僕らはただひたすら九州をめがけて飛んでいる。

僕らが請け負わされた夏休み最初のミッションだった。

ボランティアのね。


あの日、僕は三島さんの描いた筋書きでまんまとロージナに誘導された。

そうして“あきれたがーるず”からハブられたシスター藤原から泣きを入れられたのだった。

 皆んなのご機嫌を取るために聖職者にあるまじき陰謀を企てて僕を陥れたくせしてさ。

今更どのツラ下げて頼みごとなんてできるんだろう?

千年かけて育ててきた厚顔無恥は伊達じゃないってか。

・・・僕にシスターを助ける義理なんぞこれっぽっちも無いし。

面倒くさくて嫌だなと心底思ったよ?

だけど結局のところ、僕はプロデューサー兼ディレクターたる三島さんの構想に従うしかなかった。

心を読まれながら交渉するなんて土台無理な話だよね。


 何処から見たって清楚で純心そうにしか見えない。

そんな修道女を泣かせている男子の横では、可愛い女の子がつまらなそうにケーキをつついてる。

こんな絵面をみて人は何を想像するだろう。

 一見して修羅場だけれども、舞台に上がる登場人物の年齢を鑑みれば、相当複雑な修羅場だよね。

カワイ子ちゃんと清らかなシスターと風采の上がらない男子だからね。

見物人の妄想がスタートする地点が何処であろうとさ。

そりゃもう僕ばかりが見てるだけで腹が立つ鬼畜に認定されちゃうのはお約束だよ?

秋吉の時だってだーれも僕の話なんか聞いちゃくれなかったしね。

 女の子の可愛いと綺麗の上に。

清楚とか純心なんて言うトッピングがてんこ盛りなら、もう向かう所敵無しだよ?

女の子の内面はどうあれもうそれは絶対不可侵の正義さ。

冴えない男子をとことん追い詰めていくに違い無い天下御免な葵の御紋だよ。

水戸黄門じゃないけどね。

「この美少女をどなたと心得る。

モブな小僧は控えおろう」

ってなもんさ。

 人は見えるまんまの上っ面にそれぞれの幻想をおっかぶせて、ありもしない夢を見たがるものなんだぜ。

僕はさ。

神聖冒涜(しんせいぼうとく)って言うのは、毛利ルーシー嬢が侮辱されるレベルで発動するものだとばかり思っていたよ。

つくづく甘ちゃんだった。

 僕は僕の中で駄々をこねるダイモーンをなだめすかしたもんさ。

そうしてモニターしてる三島さんの気分を害さない程度で指示に応えた。

打ちひしがれ涙に咽ぶシスターを慰め褒め称えヨイショしたってことさ。

だけど他所の娘さんに好意的な発言と態度を取るなんて自殺行為はさ。

例え三島さんの指示とは言え、匙加減を間違えると後で大変なことになるからね。

自慢じゃないけど僕はこの辺り機微を脊髄反射レベルで身体に叩き込んでるよ?

シスターには掌を返したようにおべんちゃらを並べ立て。

挙げ句の果てには「先輩への仲介役なら僕にお任せを!」と胸を叩いてみせたものさ。

“あきれたがーるず”の皆んなを相手に鍛え上げた僕の幇間芸はなかなかのものだよ?

ヨイショの達人と誉めてくれても良い。

なんたって、仕掛け人の三島さんが呆れかえっていたくらいだからね。

毒を食らわば皿までだぜ。

僕の至芸に目を見張りやがれってこった。


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