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垂直少年と水平少女の変奏曲〜加納円の大いなるお節介と後宮の魔女達~

第16話 あきれたガールズ爆誕 16

 面接権のことを佐那子から聞かされ自分が動揺したのはなぜか。
繰り返しそう自問してみて分かることがある。
佐那子の言うことに動揺した晶子は、自分の心の内に見えた光景に驚く晶子だったのだ。
晶子の心の内には、実の母親に対して何の関心も持っていない冷やかな自分が居た。
母親を自分の人生からパージする。
晶子は既に成していた損切をこの時明確に自覚した。
 『母親を煩わしいな』と言う気持ちばかりが強く意識された。
そうして『母親と関りを持ちたくないな』と言う正直な思いで晶子の頭はいっぱいになったのだ。
実の母親を無用物と感じる自分の情緒はどこかおかしいのでは?
そう疑うほどに、晶子は自身の意識の何処を探しても母を乞い求める心情を見出すことが出来ない。
 それでも惻隠の情と言うのだろうか。
母親の人生に止めを刺すことだけはやめてもらいたいと思う。
同時に、母親の人格が変わって別人のようになることまでは望みはしない。
自分や父親の目線が及ぶ範囲の外でさえあれば何をか言わんやだ。
母親が母親なりの幸せを掴むことに晶子としては格別、否定的な思いはない。
詰まるところ、自分にとってはどうでも良いことだ。
 本音を言えば晶子は母親の声を聞くどころか、今となっては顔を見るのも億劫だった。
面接権の話を聞いた時には驚きのあまり「子供にそれを拒否する権利はないのですか?」と、真顔で佐那子に聞き返してしまうほどだった。
 実の娘にあそこまでの仕打ちをした母親なのだ。
自分の為に卵を産むつもりのなくなったガチョウに何の未練もないとは思う。
だがもしそれでも母親が晶子と会うことを望むとしたら、今更どんな顔をして彼女と向き合えば良いのだろう。
どうにもこうにも見当がつかなかない。
何か交わすべき話題があるのだろうか。
今の晶子にはもう、母親を責めたり罵倒することを可能にする心の傾斜すらないのだ。
 母親の呪縛から解放された晶子の身の置き場はどうするか。
ルーシーと雪美と佐那子。
この場に居た三人娘の誰も指摘しなかったことではある。
だがこの時点での晶子と言えばどうだろう。
今朝学校へ行く為に出て来た母親と暮らす家にさえ、帰るつもりがまったく無くなっていたのだ。
晶子は将来の面接権を思い煩うより先に、今日これからですら母親と接点を持ちたくない。
そう思い定めていた。

 「お父様も本来なら名誉の回復も含めて、お母様に慰謝料の請求ができるのですが捨ておくとのお考えでした。
谷崎弁護士についても関わり合いになりたくないとのお考えをお持ちでした。
ですがそこは高木先生が説得されました。
後難を避ける為にも、為された悪事を明らかにして書面に残す必要があります。
そこで谷崎氏に対して弁護士会への懲戒請求と、名誉棄損や不貞行為に対する慰謝料の支払いは求めていくことになりました。
お母様にも法律に適ったやり方で最低限の償いをして頂きます。
さっきも少し触れましたが、敵方も存亡をかけて必死で抵抗してくるでしょう。
・・・確かに雪美さんが言う通りかもしれません。
まどかさんにお願いして晶子さんの洗脳力をアシストしてもらっちゃうのが吉かもです。
ちゃっちゃっと済ませてしまう方が、煩わしさがないしお手軽ですもんね」
 雪美の差し水もあり、さすがにクールダウンした佐那子ではある。
より穏便にことが決しそうな円の介入には、今になって内心不満を感じる佐那子ではある。
それでも円の力の見せどころであることは何気に誇らしい。
苦労して集めた証拠を元に裁判で決着をつける。
佐那子はそれを密かに望んではいたが、雪美やルーシーの『手早く店仕舞い』と言う考えに反対はしない。
佐那子も円の雄姿を思い、最後には目を輝かせながら大輪の花の様ににっこりと笑った。

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