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垂直少年と水平少女の変奏曲〜加納円の大いなるお節介と後宮の魔女達~

第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 43

 三島さんは古典部部長としてのシスター藤原に対するリスペクトはそれとして。

“あきれたがーるず”のメンバーとして持つ矜持とは完全に切り分けているらしい。

だからかな。

多分彼女は “あきれたがーるず”>>>>>>シスター藤原という本心とシスターに対する惻隠の情が煩わしくなったんだよ。

それで僕に丸投げと言う暴挙を思いついたのだろうね。

 「暴挙じゃないですよ?

所詮わたくしたちはまどか君の手込めにあってしまい、もう他所へはお嫁に行けない身。

マドカ君・・・ご主人様の御威光に逆らう事なんて永遠にできないことですもの。

わたくしたち、マドカ君のオダリスクが封じられた花園・・・。

マドカ君の後宮たる花園のよしなしごとは、案ずるより産むが易し。

マドカ君にご相談して。

マドカ君に自ら決していただきましょう。

わたくしどもは従容としてそれに従いましょう。

そう思っただけですよ?」

 勘弁してくれってこった。

わたくしって一人称を使う美少女が二人になっちまった。

それに、よりによって聞いてる者に漏れなく誤解を誘導する例の三島話法で・・・。

しかもギャラリー全員に届く程の妖精こぶしで囀りやがった。

三島さんは第三者が必ず誤った理解に及ぶいつもの迷調子で、しれっと言ってのけたのさ。

カワユイアニメ声でね。

誰が誰を手込めにしたって?

誰が誰のオダリスクだって?

シスター藤原がぎょっとした顔つきになり、怯え半分蔑み半分のきつい視線を向けてくる。

ほら見ろ。

やっぱりウソ泣きだ。

 「ミ・シ・マー!

いつもいつも・・・。

ホント、おまえいい加減にしろよな。

手込めは手篭めと違うだなんて詭弁は今更聞けねーな。

僕はいつからスルタンになったんだ?

僕がミシマや皆んなをいつ奴隷扱いした?」

「愛の奴隷?」

「ふざけんな!

奴隷扱いされてるのはいつだって僕の方だろうが。

今後のおまえの了見と外ヅラいかんによっちゃ。

しまいには名誉棄損の案件として高木先生に相談するぞ」

聞き耳を立てていたギャラリーの殺意が四方八方から飛来する。

だけどミシマの笑えない戯言をどう弁解すりゃ良いって言うんだ。

「いやねー。

洒落よ洒落。

割りない仲どうし、同衾の枕辺で交わす諧謔に満ちた睦言みたいなものよ!」

「ミ・シ・マー。

お前どうして何か一言口にする度。

構文に一々厄介なベクトルを付けては、事をややこしくして見せるんだ?

シスターを見て見ろよ。

どうひいき目で割り引いても。

おまえのユーモアと称する駄法螺を理解できてるとは思えないぜ!」

ギャラリーの誤解を解くためにも、ここは自分の無実を強調したいところだ。

「しょうがないわね。

今日の所は勘弁しといてあげるわ。

当たらずといえども遠からずな?

婉曲的表現を多用してごめんなさい!」

三島さんは飛び切りの笑顔を浮かべて謝罪と称するたわ言を口にする。

まったく謝罪にはなってないし。

ギャラリーの中に方向性が変わった敵意が芽生える気配を感じる。

だが刑法犯と誤解されるままでいるよりはましだろう。


 文学的素養とは全く関係ないと思う。

けれどもシスター藤原は、三島さんが朗詠する彼女の独特の過激な発言の行間にどうだろう。

ある種の狂気をはらむ“あきれたがーるず”の集合的意志を読み取った。

・・・のかもしれない。

引きどころを覚ったようだ。

シスターはさっきまでのウソ泣きが字義通り嘘みたいに、通常モードへと移行した。

 僕は正直ほっとした。

ところがウキウキと耳をそばだてていたのだろう。

ギャラリーの間に失望の気配が広がるのがありありと分かる。

『貴様ら何を期待してワクワクしてやがった』

そうきつく糾弾してやりたい気分だ。

『貴様らの都合に合わせた純情可憐な乙女なんざ世界中のどこを探したって居やしないんだよ。

現実を直視できないのなら、田淵由美子の漫画でも買い込んでだな。

黴臭い四畳半に引きこもって白昼夢でも見てやがれ!

べらぼうめ!』

心の中で啖呵を切ったところで、三島さんが憐れみに満ちた目でサムズアップをしてよこす。


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