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垂直少年と水平少女の変奏曲〜加納円の大いなるお節介と後宮の魔女達~

第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 32

 僕はただのアンプリファイアなので自分の言葉を多く持たない。

だからとりま三猿に徹しているってこった。


 夏目事件を乗り切ってからと言うもの“あきれたがーるず”は何事につけ過激で容赦がない。

橘さんと僕が殺され先輩が陵辱の憂き身にさらされる所だったってのが大きい。

夏目は僕ら同様にドナム保持者だった。

そこが森要の時とは決定的に異なる要素だろう。

ドナムの使い方に習熟し新しいメンバーも増えた現在なら。

森要程度の脅威を退けるのは易いだろう。

だが敵がドナム保持者となれば話は別だ。

敵の手の内が分からないまま攻撃を受ければ、僕らになす術は無いだろう。

 “あきれたがーるず”は自分たち以外の能力者の脅威を身に染みて感じてしまったからね。

“あきれたがーるず”の防衛方針は即座に、見敵必戦と積極的攻勢防御に切り替わったらしい。

もちろん彼女たちは僕に何も教えちゃくれないけどさ。

 そんなアマゾネスみたいな“あきれたがーるず”だけどね。

秋吉だけは打算抜きで、シスター藤原と姉妹みたいな間合いにいる。

その様に思えた。

ふたりが腹蔵なくきゃぴきゃぴしている風に見えるので。

蚊帳の外に居る僕だって、少しは長閑な気持ちになれるんだよね。


 継続的にシスター藤原を観察していると、ドナムの限界についてつくづく考えさせられることがある。

知識と経験が積み重なって思考のレベルがいくら高まって賢くなろうとも、変わらないことはある。

人によっては性格や意識のありようが、千年程度じゃ全く成長しないようだからね。

そんなだから、ギリシャ・ローマ神話や北欧神話、八百万の神々の愚かしいばかりの人間臭さがすんなり腑に落ちる。

神話やファンタジーはドナム保持者についての伝承を基にしている。

シスターを観察していてそのことを改めて確信する今日この頃だ。


 「本当に。

もうそのくらいで許しちゃくれまいか。

俺たちも『止めておけ』と何度も止めたんだが。

藤原さんはあれだから・・・なっ?

この通りだ」

『お前らももう分ってるだろ?』

ヒッピー梶原が困り果てたと言う表情で、深々と腰を折ったまま顔だけ上向きにしてこっちを見た。

僕は先輩と三島さんと手を繋いだまま黙ってシスター藤原を見下ろしている。

三島さんはシスターに触れたままだ。

三島さんと先輩に心を読まれたシスターは、水溜まりに跪いたままお祈りの姿勢で何やらブツブツ呟いている。

あらら。

目が逝っちゃってるよ。

 「佐那子さんお手数を掛けました」

先輩がいつもの柔らかな口調で橘さんを労う。

三島さんがスッと手を引く。

一呼吸おいた後。

橘さんは銃口を床に向けたまま撃鉄を戻し次いで弾倉を抜いた。

そのまま楽器でも演奏するような滑らかな手つきで遊底をスライドさせ、装填済みだった第一弾を弾き出す。

弾き出た9㎜弾を掌で受けると弾倉に押し込む。

再装填した弾倉をグリップに装着して安全装置を掛ける。

そうして待機状態となったベレッタ・ナノは、ラップスカートで隠された真っ白な大腿のホルスターに戻された。

橘さんのほれぼれするほどに優美な一連の運動と、おまけの眼福である。

手を繋いでいる先輩が握力の限りを尽くして僕の指を握り潰す。

身悶えする程の激痛が僕を襲ったけどね。

折檻を甘んじて受けるだけの価値がある・・・橘さんの白い太腿だったよ?

 橘さんは元自衛官とは言え現在は民間人な訳だ。

スカートの中のベレッタ・ナノは、明らかに 銃砲刀剣類所持等取締法違反なブツだった。

ベレッタは違法なブツだったが、それを咎める者はこの場に居ない。

夏目を連れてテレポートした現役官僚の萩原さんだって何も言わないだろう。

 話しは変わるが。

僕が思うに。

あと何年かして、橘さんが今の調子で更に若返ったなら。

シスター藤原ともう少し打ち解けることができるようになるかもしれない。

なんとなく、橘さんの隔意や敵意の根幹は、シスターを仮想敵と見なしたことにある様な気がする。

 橘さんにとってシスターの制圧など赤子の手を捻るより簡単なことだ。

OFUに武装要員がいるかどうかは分からないけれど、橘さん相手の戦闘は一方的なものになるだろう。

なんとなれば橘さんを殺したり傷つけたりしたら僕が何をしでかすか。

今は僕自身にも分からないけれど、最悪この世界線が消失する可能性だってある。

少なくともシスター藤原を筆頭にOFUはそう認識してるだろう。

そのことは橘さん自身だって自覚している。

橘さんは反撃不能なバーサーカーに成り得るんだよね。

 だから橘さんのシスター藤原に対する隔意や敵意はさ。

『みんなで並んで写真を撮ると自分が一番年上に見えるかも』

なんて程度の詰まらない見栄や嫉妬にありそうな気がするんだよな。

先輩も三島さんもそこの所はちゃんと分かっていて、橘さんがシスターに辛く当たる理由をあえて確かめていないのだろう。

ルッキズムなんて詰まらないいさかいの元なんてさ。

僕らを待っているらしい有り余る時が解決してくれるだろうからね。




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