見出し画像

自分なりの恩返しを。

「ぼくの仕事は、幸せに繋がっているんだろうか」


買ってもらった投資信託は、なかなかプラスにならない。
前任の担当者がムチャクチャだったことを聞きながら、
ていねいに、ていねいに、結局おなじように保険をすすめる。
定期預金を出す!と言われたら、「そこを何とか…」と泣き寝入りする。


新卒で、銀行の営業になって3年間。そんなことを、年がら年中、考えていた。
何とか得をしてもらおうと、粗品をごっそり持っていく。地元のお菓子を持参する。いろいろやるけど、「自分と付き合うメリットねぇよなぁ」と落ち込む日々。



3年という短い期間だったけど、お客さんに恵まれた銀行員生活だった。

「腹へってるやろ!」と昼飯をごちそうになり、コーヒーをガブガブ飲んで、お土産にお菓子をもらって帰る。お客さんの人生を聞く。こっちの話を聞いてもらう。その瞬間の会話を、ぞんぶんに楽しむようにしていた。


だから、退職してずいぶん経つけど、今でもお客さんに会いに行く。ヨネスケの如くアポ無しでインターホンを押す。お店だったら顔を出す。町をフラフラ歩いていると、「おぉ〜〜!何してんの?元気してた?」と昔のお客さんから声をかけられることもある。


あの頃は、スーツの銀行員だった。今はTシャツにトートバッグ。職業は、いまいちよく分からないコピーライター。それなのに、ずけずけと家にあがり、2時間ほど他愛も無い話をして「またおいで!」と送り出される。良い人たちに助けられてたんだなと、帰り道、いつもしみじみしてしまう。


そんな中、先日、やっとひとつお返しできたことがあった。

お世話になっていた立ち呑み屋さんのポスターやPOPを企画制作させてもらったのだ。

-----


「この町の、水族館から徒歩ちょっと!」

考えたのは、立地に目をつけて、水族館と呑み屋を無理やり結びつけちゃう企画。

関西の人気スポットである海遊館。そこからちょっと行ったところにあるお店なので、観光客の人や、デート帰りのカップルが立ち寄ってくれたら嬉しいなという狙い。水族館×立ち呑み屋という組み合わせで、あんまり見たことのない物を作ろうと決めたものだった。

-----

きっかけは3月の頭のこと。

ひさしぶりにお店を訪れると、「蔓延防止策が解けるまで、営業を中止しております」と書かれた紙が貼られていた。


裏口にまわってみると、店主のお母さんがいた。どうやらコロナの影響が直撃していて、ようやくお店が再開できそうな状態とのこと。

お世話になったお客さんだったので、何とか力になりたかった。そこで提案したのが、ポスターであったり、キャッチコピーを使って、お店の復活を盛り上げようという企画。


「ええやん〜、あなたの好きなように作ってみてよ!」


お客さんの二つ返事に意気込む。会社のデザイナーに声をかけて、打ち合わせする。無理やり巻き込まれた彼も、乗り気になってくれて、イラストやデザインに力を注いでくれる。嬉しくて、嬉しくて、できあがっていくものが愛おしくなる。


ただお店に貼るだけじゃ効果が弱いのかなと思って、最寄りの駅の事務所に飛びこみ、貼らせてもらえないか交渉する。当然NGだったけど、でも、やれることはやっておきたかった。


そんなこんなの制作過程を経て、先週末に出来上がりのものを持っていった。


「いいやんこれ!うれしいわ〜。店先に貼ったり、いろんなところに貼らせてもらうわ!」


そういって喜んでくれるお母さん。瓶ビールを出されて、ほろ酔いを通り過ぎるぼく。お酒は得意じゃないので、とってもしんどかったけど、やっぱり、良いお客さんに恵まれたんだなと実感する。



この仕事をやってると、悔しいことが多い。

必死に考えた案は通らないし、雑に扱われるし、本当に良いと思ってるものを実現できる機会もそうそうない。大きいクライアントの仕事はまわってこない。人が嫌な仕事ばかりが、自分のところに流れてくる。


でも、自分には、作ったものを受け取ってくれる人がいること。喜んでくれる人がいること。今回、そんなことに気づかせてもらった。


「また、おもしろいこと考えたら持ってきてね〜」
その一言が、今もずーっと残っている。



直接、その人に何かを返せなくても。優しくされたこと、お叱りをうけたこと、話を聞いてもらったこと。ぜんぶを糧にして、これからも物を作り続けていきたい。それがぼくにできる恩返しなんだと思う。




「また助けてもらったんだなぁ」。

そんなことをしみじみ考えながら、電車の窓にうつる、顔を真っ赤にした酔っ払いの自分を眺めた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?