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開けば、そこが図書室。

小学校の図書室では、よく裏取引が行われていた。

取引の対象は『かいけつゾロリ』

全校生徒から大人気だったゾロリは、図書室で見かけることが、ほとんどないレア物。

見つけた子はクラスメイトに勝ち誇る。
その結果、「次は俺に貸してくれ!」と複数から頼まれ、契約を結んだ子に翌週渡す。どこか不正をしているような、裏取引感が、そこにはあった。

ゾロリの中でもさらにレア度は分かれる。

「かいけつゾロリのドラゴンたいじ」は、あまりの定番っぷりに生徒たちも一通り読んでおり、少しトリッキーな「かいけつゾロリのにんじゃ大さくせん」「かいけつゾロリのきょうふのゆうえんち」などは重宝されていた。

「見つけた!」と叫ぶ小学生の姿は、さながら武将の首をとった足軽兵のようだった。


そんな中、ゾロリとは違う路線で、コアなファンを獲得していたシリーズがある。



『ズッコケ三人組』だ。

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ズッコケ三人組は、ゾロリとおなじポプラ社から出版されているシリーズだけど、文章がメインの児童文学だった。タイトルは「ズッコケ三人組の〇〇」「〇〇ズッコケ三人組」といったように、ゾロリと同じような物だった。でも、読んでみると中身はぜんぜん違った。



はじめて読んだズッコケシリーズは、「花のズッコケ児童会長」という話。

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主人公の少年ハチベエが、ひょんなことから児童会長に立候補して、他のクラスの秀才と戦うという話だ。
ほとんど生徒が秀才を応援するなか、ラストシーンでハチベエの応援演説をするクラスメイト・皆本章のシーンを読んで、ぼくは図書室で泣いてしまった。

顔が良いとか、頭がいいとか、運動神経がいいとか、そういう話じゃなく、「自分がイジメられた時に助けてくれた」という話。

児童会長になる人はいろんなひとの気持ちがわかるひと。
なかでもぼくみたいな気の弱い子、
からだの弱い子の味方になってくれるひとがいいんじゃないでしょうか。
勉強のできるひとより勉強のできないひとの悲しみをわかってくれるひと。


声を震わせながら、野次を飛ばされながらも、ハチベエを応援する皆本章の姿を思い出すと、今でも目頭が熱くなる。
本当にやさしい人とはどんなものか、学んだ瞬間だった。

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そこからぼくは、ゾロリの裏取引をやめて、ズッコケだけを追うことにした。
ダレン・シャンやデルトラクエストには目もくれず、あけてもくれてもズッコケ。


ズッコケ三人組は児童文学だけど、大人の世界を見せてくれる作品だった。

親の離婚にふれる回があったり、クラスメイトが夜逃げする回があった。
かと思えば、株式会社の仕組みを教えてくれたり、山奥の村制度について触れるものもあった。

そのちょっとした危うさに触れて、登場人物たちと一緒に子どものぼくも大人の世界を知っていった。



今から3年ぐらい前。
東京は渋谷で行われたズッコケ三人組の40周年イベントに参加した。

その頃ぼくは、転職で東京に来た直後で、
そんなことあるかね?って感じだけど、
はじめて渋谷に行く理由が「ズッコケ三人組のイベント」だった。



スペシャルゲストは、作者の那須正幹先生。

「ズッコケ三人組は児童文学。だけど、親の離婚みたいな、これから突き当たるだろう大人の世界が、少しでものぞける話があっても良いんじゃないと思った」

トークショーで、那須先生はそんなことを言った。
あぁ、そうだよなぁと、ぼくはホールの席でウンウンと頷いた。

世代を超えて愛される作品にはいくつも理由があると思う。
ズッコケ三人組には「子どもたちにすこし大人の世界を見せてあげる、子ども扱いせずに真正面からぶつかる」というところにあるのじゃないかと思った。


イベントの最後はサイン会。
ぼくは、会場で買った『花のズッコケ児童会長』にサインをもらった。


「先生の作品が大好きで…。転職で東京出てきたんですが、ズッコケ三人組は、ぜんぶ連れてきたんです!」

「へぇ〜そうかい。ありがとうねぇ。地元はどこなの?」

「兵庫です!」

「そうかぁ、遠いところから出てきたんだねぇ」

ちょっとしたやり取りしかできなかったけど、憧れていた先生とお話できた瞬間だった。


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先日、那須正幹先生が亡くなった。
ニュースを見た時、悲しくて仕方なかった。


「大人向けにズッコケ中年三人組というのを出版したけど、いつか、ズッコケ年金三人組まで書きたいんですよ」と言っていたのを思い出す。

「ハチベエたちがハワイに行く話を書いてください」とファンレターで言われて、本当に『ズッコケ三人組ハワイに行く』を書いたことも思い出す。

家出したい少年少女たちの話を聞いて、家出する前に読んでほしいと『ズッコケ家出大旅行』を書いたことも思い出す。


きっと、先生のやさしさに包まれて、
これからも多くの子どもたちが大人になっていくんだろう。

ハチベエも、ハカセも、モーちゃんも。
これからもずっと、子どもたち、子どもだった人たちの味方でいてくれる。



開けば、そこが図書室。
ズッコケ三人組は、タイムマシンのような作品。
那須先生のやさしさの入り口。


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ちなみに…ゾロリも家に並んでます。
ぜんぜん語れるぐらい大好きです。

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