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楽天モバイルの300万人1年間無料でも損失はほとんどないと言える理由

楽天モバイルが本格的に携帯キャリア事業(MNO事業)に参入すると同時に、なんと300万人に1年間無料で提供するとぶち上げました(通常料金は月額2,980円)!

楽天の携帯「先着300万人、1年間無料提供」

驚くべき数字ですね。300万人という人数もさることながら、1年間の売上高1000億円以上(300万人×2,980円×12か月)の売上高をゼロにするという意思決定!そんなことをして楽天モバイルは大丈夫か?と思われるでしょう。

ですが、このやり方、実は楽天モバイルには普通に事業を開始したと時と比較して「損失」というものは、ほとんどないと言えます。

1000億円も収入が入ってこないのに!?と思われるかもしれません。その理由を見ていきましょう。

1.費用には2種類ある!

楽天モバイルに損失はほとんどない、という話をする前に知っておいて欲しいことがあります。実は一口に費用といっても2種類に分けられるということです。

・変動費:販売数量に応じて変動する費用(代表例:材料費)
・固定費:販売数量に関係なく発生する費用(代表例:家賃、人件費)


変動費というのは販売する数量に応じて変動する費用です。ラーメンの麺をイメージしてください。ラーメン1杯売れるごとに1玉必要になりますよね(俺は大盛りだ!とかはナシで)。ラーメンが1杯売れるごとに麺の材料代が1玉分追加で必要になります。販売数量に応じて変動する、だから変動費と言います。

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一方固定費は販売数量に関係なく発生する費用です。ラーメン屋さんが払っている家賃やアルバイト料を考えてみてください。お客様がたとえ一人もこなくても、毎月の家賃は固定で掛かります。アルバイトの人もお客様が一人も来なくても、時給が発生します。家賃が月10万円、アルバイト代も月10万円分の時間来てもらったとしたら、ラーメンが1杯も売れなくても店主は20万円支払わなければいけません。販売数量に関係なく固定で発生する、だから固定費と言います。

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2.楽天モバイルの費用特性

300万人1年間無料にしても、楽天モバイルに損失はほとんど出ない。そう言える大きな理由は携帯キャリア事業(MNO事業)の費用の特性にあります。

ドコモやソフトバンクなどの携帯キャリア事業は毎年設備投資に多額の投資を行っています。楽天モバイルはこのあたりを安く抑える技術を開発しているそうですが、10年間で5,000億円以上の設備投資をするとしています。これらの設備の経費(減価償却費や維持費)が経費の大きい部分を占めると思われますが、これは、契約者数が何人だろうと発生します。つまり、固定費なのです。

携帯キャリア事業(MNO事業)においては、事業者が負担する経費のほとんどは固定費だと考えられます。つまり、(乱暴に言ってしまえば)楽天モバイルにとってみれば契約者数が300万人だろうと0人だろうと、掛かる費用はさほど変わらないということです。さすがに、厳密には違うでしょうが、大きい費用は固定費でしょう。契約者数が0人だろうと300万人だろうと経費はほとんど変わらない。「追加の費用がない」という意味で300万人1年間無料にしても追加の損失がないと言えるのです。

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3.機会損失も大きくない!

追加でかかる費用がないからと言って、1,000億円の売上高は入ってこないだろう!?前に別の記事(あのユニクロも悩んでいる!?過大在庫なのに売り逃し!)で「機会損失」があるという話をしていたじゃないか!と思われた方、私の記事を読んで頂いていてありがとうございます。その通りです。追加で発生する費用はないので、会計的に出てくる目に見える「追加損失」はなくても、売上を逃したという「機会損失」はあります。ですが、私はこれもほとんどないのではないか、と考えています。

なぜそう考えるかと言うと、楽天モバイルが通常通りサービスを開始したとしたときに見込まれる契約者数からです。楽天モバイルは月2,980円という低料金で大容量でも使えるプランを提供することとしています。これは大手キャリアと比較すると半分以下という料金で非常に安く映ります。しかしながら、現在は格安SIMサービス等(MVNO事業者)のサービスがすでにあり、例えばY!モバイルなら月3GBまでなら2,680円で利用できます。楽天モバイルの競争相手は大手キャリアと言うよりはこのような格安SIMサービスでしょう。

そして、この格安SIMサービス等(MVNO事業者)の年当たり契約者数の伸び率は年間300万件程度(こちらの記事より)とのことです。つまり、「安いから携帯会社を変える」というのは多くて年間300万件程度と考えられます。楽天モバイルは楽天基地局内で金額一定という強みはありますが、一般の人のデータ利用量は月3GB程度という話もあり、そういう人にとってみれば、明確に競争優位性があるとは言えません。

つまり、楽天モバイルが普通に経営を開始しても獲得できる契約者数は1年間でこの300万件の内の一定の割合程度。最もシェアの大きいMVNO事業者(皮肉にも楽天モバイルがトップ)のシェア率が20%程度ですので、300万件×20%の60万件くらいの獲得しかできなくてもおかしくないと考えられます。それに比べたら無料にして300万件契約を獲得できれば大きいですよね。

普通に営業していて獲得できるのが60万件だとすると、失われた売上高は60万件×2,980円×12か月で210億円ほど。1,000億円から比較すると大分下がります。さらにもう一つ忘れてはいけない点があります。それは広告宣伝費の存在です。ちなみにドコモでは広告宣伝費に毎年600億円ほど支出しています(ドコモの有報より)。新規参入のキャリアなら、このドコモくらい掛けなければいけない、と考えてもおかしくないでしょう。ですが、300万人1年間無料!とぶち上げることで、この広告宣伝費も相当圧縮できるはずです。宣伝は今回のように新聞やネットニュースがしてくれますしね。

上記の仮定が正しいとして、もしかしたら楽天モバイルは最大で400億円ほどの損失(210億円の収入から600億円の追加広告宣伝費を控除)を縮小できるのかもしれません。ちなみに、「無料にすること」の効果が高いことは行動経済学でも言われていますので、この意味でも300万人1年間無料は面白い策だと思います。

いかがでしょうか?仮定の計算ではありますが、これが楽天が普通に新規参入するよりも300万人1年間無料としたことによって、機会損失も大きくないと考える理由です。むしろ広告宣伝費を縮小できる分、こちらの策の方が得かもしれません。

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まとめ

楽天モバイルの300万人1年間無料について書いてきたが、楽天モバイルは費用の特性が固定費型であるがゆえに、契約件数がどうなろうと経費は大きく変わらないと考えられます。

また、機会損失という観点からも、普通に新規参入をすることと比較すると大きくないか、むしろ広告宣伝費を圧縮できる分得しているかもしれません。

すなわち、携帯キャリアの会社として新規参入する時のこの300万人1年間無料の策は実施したからと言って、楽天モバイルにほとんど損失はないのではないかと考えられるのです。

私はこの楽天モバイルの300万人1年間無料の策は「上手いな」と感じます。これで相当数の契約件数を獲得できて囲い込めれば、下手に広告宣伝費をかけて契約者数を増やそうとするよりも効果が大きいと感じるからです。

今後の課題としては、この策で獲得した300万人の契約者数を解約させないことになってくるでしょう。そのためには安定した通信環境が必要不可欠です。いくら安くても通信が不安定では顧客は逃げてしまいます。楽天モバイルの今後の動きに注目ですね。


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