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【Behind The Scenes】岩船ひろき「不死鳥」のMVを監督した話。

○はじめに
今回は2021年3月11日公開の岩船ひろき「不死鳥」のMVについて、制作の背景などを書いていきます。
「長期間の撮影だから出来ること」
「アスペクト比が与える印象」
「写真に写るものとは」
このあたりを掘り下げて書いていきます。
音楽が好きな人、映像が好きな人が、ミュージックビデオというものにもう一歩踏み込んでもらえるように、なるべくわかりやすい言葉で書いていきます。
それでは、一つよしなに。

○長期間の撮影だから出来ること
どんな撮影でも、通常はしっかりと事前準備をして、おおよその完成形を見越して撮影を始めるのがほとんどです。
しかしこのMVの場合、「福島県いわき市にむけて作った楽曲であること」「いわき市にはお世話になっている皆さんがいること」、この2点だけでスタートしています。岩船さんからいわき市の皆さんを紹介していただき、僕も一緒に話したりご飯を食べたりと交流しつつ、そこでカメラを回していくという、ドキュメンタリースタイルでした。
このMVの撮影開始は2020年1月。そして3月。ここでは被災地ツアーに参加させていただき、MVの前半の重要なシーンになっています。
この時点で「もう少し撮影したいね」となっていましたが、コロナ禍に。追加撮影は11月へずれ込み、公開は翌年3月となりまして、最終的には1年以上の期間をかけた作品となりました。

被災地ツアーでの景色。まだ人が入れないエリアが多く残されていました。

長い期間を費やす=良い作品、というわけではないですが、今回のMVには大切なポイントだったと思います。岩船さんといわき市の皆さんが過ごした期間、撮影で僕がお邪魔した1年間、さらには僕と岩船さんが過ごしてきた期間(高校時代からの仲なのです!)、それらが上手く混ざり合って出来上がっています。
また撮影当初には存在しなかった"コロナ"というものが、MVの内容に別の意味をを加えてくれたようにも思います。

○アスペクト比が与える印象
まずアスペクト比とは何かという話。これは画面の縦横の長さの比率のことです。
昔のテレビは4:3、最近のテレビは16:9(1.78:1)、多くの映画は2.35:1(シネスコサイズとも呼びます)、のようになっています。
アスペクト比は、作品の印象に繋がります。最近の映画でこの技が巧みに使われていたのが、藤井道人監督の「ヤクザと家族」。三幕構成で、それぞれ別のアスペクト比を使っています。痺れる。
このMVはシネスコサイズにしています。ちょっと横長ですね。
ドキュメンタリー(極端に言えば記録映像)な内容になるため、そこに作品感を足すための工夫です。映画っぽくしたいときだけでなく、なんか足りないな…というときに誰もが試すでしょう。画面の上下を少し切る(画面が狭くなる)ので、このシーンで何を見せたいのか?がより分かりやすくなったりもします。

岩船さんの表情を見せたいシーンですが、上部に入ったレンズフレア(丸いやつ)、
明暗のバランスも含めて、良いショット!

○写真に写るものとは
このMVの大事な要素となっているのが「写真」です。なぜ出会った人たちと写真を撮ろうと思ったのか。これはMVにリズムとメリハリをつけて、これまた作品感を足すためです。ただ出会った人や場所の様子を映した映像を並べていくよりも、場面転換ごとに写真を入れることで"見やすさ"につながっていると思います。
撮影テクニック的な部分では、ただ「皆さんここに並んでカメラの方を向いてください」と言って映像を撮るよりも、「じゃあ皆さん一緒に写真撮りましょう」と言って並んでもらってる間に映像を撮りつつ、写真も撮る、というやり方をすると、より自然な表情が写せるのではないかと思いました。いかがでしょうか。

橋本酒店の皆さん(ご家族)カフェ営業もされてます。


変な言い方ですが、(この当時)僕は写真を撮ることには特別自信はありませんでした。でもとても良い写真が撮れたと自負しています。それは何故か。
前半の話にもつながりますが、ここに写る皆さんと僕が過ごした時間や、岩船さんが積み重ねた時間があるからこその写真だと思います。
高いカメラを使うとか、写真の腕があるとか、必ずしもそういうことではないということですね。特にこういった状況では、そうだと思います。

ころぽっくるのばあば。お蕎麦、うどん、なんでも美味しい。
ごはんの湯気が映せたことが嬉しかった…是非映像でご覧ください。

○おまけ
このMVには、実際の撮影現場の音声が使われている部分があります。それがこちら。久之浜の波をバックに、岩船さんがアカペラで歌っているものをそのまま使っています。
これは岩船さんと打ち合わせして「こういう演出したいね!」と盛り上がったので、気合を入れて作りました。楽曲が切れる部分や、再び戻ってくる部分も、MV用に編集された音源を使っています。レコーディングを担当した石原剛志くん
にわざわざ用意していただきました。大感謝。

○おわりに
これまでのBTSでは「準備こそ命…!」という話をしてきましたが、今回は必ずしもそうではないパターンというものをご紹介しました。
と書いている途中で気づきましたが…
そこにいる人たち、場所、繋がり、気持ちなどをひたすらに追いかけると良い映像が撮れるかもしれないけれど、それは奇跡みたいなものです。それらをどうやって撮るかには、やはり技術が必要。そして人や場所に寄り添うための、知識が必要。
撮影できたものを作品に昇華させるためには、さらに色々な工夫が必要。
なんだ…やっぱり準備が大切だったのか…!

それでは改めて通しでご覧ください!

最後まで読んでいただきありがとうございました。
公開している他の作品もぜひぜひご覧ください。

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