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居心地の良いビアバーとはなんなのか

バーの買収手続きも済み、仲間集めが完了したところで、次に内装や看板をどうするのか、このまま再オープンさせるのか、部分的に変えるのか、変えるとしたらどうするのか、という問題がある。 

具体的な点で言えば、カウンター椅子が背もたれもない簡素なもので長時間いると疲れるので背もたれをつける、ビジネス客を呼ぶ時の為に少し豪華なソファー席が欲しい、TVをつける、看板がベルギービール屋どころか何の店なのか良く分からない牛の絵(これはこれでかわいいのだが)なのでもっと分かりやすいロゴに変える必要がある、、等、色々思い付いた。

だが、小手先で色々変えてしまった結果、俺が気に入っている、このバーが醸し出している独特の雰囲気が消えてしまっては本末転倒だと考えていた。では、その雰囲気とは、何なのか?という点についてまず言語化する必要があった。

今でも100%言語化することには成功していないのだが、いくつかのキーワードについては語ることができる。
まず、最も大事なのが、良い意味でのいい加減さだ。

このバーでは、店長もビールを飲みながら接客するし、時にはカウンターでお客さんと一緒に酒を飲む(別にその代金をお客さんに付ける訳ではない)。流石にサービスができなくなる程酔っ払うことはないが。

日本だと個人でおっさんがやっている安居酒屋なんかは同じ感じだが、ベルギービール、ブルゴーニュのワインと、単価もそれなりに高いものを売りにしている店ではあまり見かけない。というか、そんなことをすれば不愉快に思うお客さんも多いかもしれない。

だが、この店ではそれが当たり前で、お客さんもそれを楽しんでいる。テーブル席の注文を、カウンターにいるお客さんが店長から受け取って席まで持っていく、なんてことも普通の光景だ。
そもそも店長がベルギー人だから許されるというのもあるかもしれない(海外だと無愛想な店員に何とも感じないが日本に帰国してコンビニの店員が同じだったら違和感を感じてしまうものだ)。
日系航空会社のCAのバカ丁寧な接客が好きではない俺からすれば、これくらいのノリが居心地が良いと思っていた。

次に、最初の点とも近いのだが、
金儲けよりも遊び心が優先されているところだ。
カウンターは11席あるが、端の1席は常に骨人間に占有されている。名前はオスカルと言い、店長曰く、「my oldest customer」らしい。要するに、貴重な1席に、全く金を生み出さない人形を置いてあるのだ。

俺はこの骨人間が好きだ。

限られたスペースからの収益を最大化する為の効率の良い店舗設計という発想からは生まれ得ないインテリアであり、常にどうやって儲けるか考える必要がある本業の疲れを癒してくれる。

話は逸れるが、10年くらい前に青森の星野リゾートに行った時に、素晴らしいサービスを提供している事は間違いないものの、俺はもう2度と来ないだろうと思った事があった。それはなぜか?

まず、受付に元気なお兄さんとお姉さんがいて、宿のサービスを分かりやすく説明してくれ、清潔な部屋に案内される。夕食前に入った露天風呂も広いし景色も良くて大満足だった。

そこまでは良かったのだが、、

夕食時は青森各地の祭りのショーがあるとのことだったが、そこでねぶた祭り、ねぷた祭りなどの出し物をしていたのがなんと受付のお兄さんお姉さん達であった。それだけならまだしも、内容はといえば、各地のお祭りのクライマックスだけを切り貼りしたような、確かにこれを見とけば何となく青森の祭りを一通り体験したかのように錯覚できるような構成だった。

これを見て、星野リゾートのビジネスモデルが透けて見えた気がした。 受付と祭りの踊りに頑張っているお兄さんお姉さん達には何の恨みもないのだが、俺のような偏屈な客にとっては伝統への侮辱だと感じたし、安物を立派に装飾して売り付けられている気がしてならなかった。

結局俺は、えげつない金儲けの仕組みが見えてしまうと冷めてしまうのだと思った。
それは資本主義社会において何ら悪いことではないのにも関わらず。

…話が長くなってしまったが、要はカウンターの一席を占有しているオスカルは、俺にとっては、人々が日々生き抜かなければならない、えげつない資本主義社会へのささやかな抵抗の象徴なので、なんとしても残す必要があるという事だ。

最後に、客層が多様である事。
最初にこの店に来た時は、オーストラリア人の初老のおじさんと、ベルギー人の店長と、近所な住んでいる70代くらいの日本人のおばあちゃんだった。その後も、このバーでは東大推薦入学で色々と引き出しが多すぎる女の子のバイト(その子が、俺にバー買収を持ちかけた)、シェアオフィス系のスタートアップで働いている韓国人、近所のネパール料理屋の若旦那、等の、国籍年齢性別バラバラの人達に出会うことができたし、自然と客同士が話す雰囲気が作られている。久々に海外に来た感じも味わえる。彼等がこの店に来るのは、直接聞いた訳ではないが、多分、日本ではあまり味わうことのできない、上に書いたような良い意味でのいい加減さを感じたいからなのではないかと思う。

長くなったので今日はここまで。次回は、意思決定の方法について書こうかな。










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