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時給46円…環境に優しいEV車のために“奴隷労働”させられるコンゴの人々【クーリエ・ジャポンからの抜粋-Vol.202】

ピエールにとって、テスラやルノー、ボルボといった有名企業の名前は何の意味も持たない。彼はEV(電気自動車)の存在すら知らない。

それでもピエールは毎朝、砂ぼこりが舞い、喧騒に満ちたフングルーメの街で働く。彼は世界で争奪戦が繰り広げられているコバルトの採掘者だ。ほとんどのEVの動力源であるリチウムイオン電池には、このコバルトが必要不可欠である。

ピエールの賃金は日給2.60ポンド(約400円)だが、昼食時間も休まずに働き、何時間も残業すれば、3.70ポンドくらいにはなるという。

仕事を1日でも休めば、給料からその分が差し引かれる。「文句なんて言えません。そんなことをしたらたちまちクビです」と、賃貸しているレンガ造りの小屋の土間にしゃがみこみながらピエールは言う。

「鉱山企業と私たちの関係は、“主人と奴隷”みたいなものです」

時給46円…人種差別や人権侵害も

コンゴでは、非正規の零細鉱山労働者が過酷な労働を強いられている。児童労働や、手掘り坑道の陥没による生き埋め事故がたびたび報告され、近年、彼らの危険な労働環境に国際的な非難が集まっている。

こうした状況を受けて、コンゴのコバルト鉱山から原料を調達する欧米のIT企業や自動車メーカーは、人権侵害のない「クリーンなコバルト」を手に入れる方法を模索しはじめている。

コバルトのサプライチェーンのバイヤーのなかには、非公認の零細鉱山との取引をやめ、代わりに大規模な工業用鉱山からの調達を決めたところもある。工業用鉱山は鉱山労働者とバイヤーの双方にとって、「無難な選択肢」だと考えられているからだ。

だが、ピエールは下請け業者を通じて、中国企業「チャイナ・モリブデン(CMOC)」が所有するコンゴ最大級の工業用鉱山テンケ・フングルーメ鉱山(TFM)で働いている。CMOCはこのコバルト鉱山の資産の80%を所有する。

本紙「ガーディアン」は、苛烈な搾取の犠牲になっていると主張する労働者たちを取材した。その結果、彼らの多くが下請け業者を介して雇用され、時給30ペンス(約46円)という超低賃金、契約書のない不安定雇用、ほんのわずかな食料の支給といった非人道的な労働条件のもとで働かされていることがわかった。

また、中国企業が所有する鉱山の多くで、植民地時代を彷彿とさせるような人種差別や人権を無視した待遇が横行しているという。

そこで本紙はTFMを含む工業用鉱山をはじめ、複数の精錬企業やバッテリー製造元、テスラ、フォルクスワーゲン(VW)、ルノー、メルセデス・ベンツといった世界有数のEVメーカーのコバルト調達網を調査した。

コバルトの調達網は非常に複雑に入り組んでいるものの、本紙が特定したEVメーカーは、ひと握りの重要な精錬施設やバッテリー製造元を介して、1ヵ所あるいはそれ以上の工業用鉱山と取引があることが判明した。

EVブランドの多くは鉱物の責任ある調達を公約し、一部メーカー(とくにテスラ)は、これを実現するための革新的な方法を確立しようとしている。しかしながら本紙調査で明らかになったのは、EV業界が鉱山労働者の権利を侵害しないクリーンエネルギーを利用するには、依然として多くの課題があるという現実だった。

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