妻の悪阻(つわり)が大変そうで。

8月上旬、行きつけのスーパーの入り口で夏祭りと称した催し物が行われていた。

1,000円以上買い物したら引換券が貰えて、その引換券を使って夏祭りに参加できるのだ。

僕は2枚の引き換え券を使って、「コイン落とし」という見た事もないゲームに挑戦した。

水の張られた水槽の底にお皿が置いてあり、上からコインを落としてそのお皿に入れば良いらしい。

水の中をコインが通っていくので、コインが右往左往して難しいのかと思いきや、しっかりと真下に落ちていき僕の落としたコインはお皿へ乗った。

「チリンチリン~」

赤いハッピを着た店員さんに鈴を鳴らされて、「おめでとうございますー!」と言われて、うまい棒コーンポタージュ味50本入りの袋を渡された。

20年前なら飛んで喜んだかもしれないが、気付けば35歳。

とはいえ、ゲームにクリアして貰う、うまい棒はそれなりに嬉しかった。

袋を引っ提げて、家へと帰宅し、早速うまい棒の袋を開けて、むさぼりついた。

すると、

 「オエッ!!」

うまい棒コーンポタージュ味の匂いを嗅いで、妻が吐きそうになった。

そう、これが「悪阻(つわり)」の序章だった。

つわりとは、簡単に言うと、妊娠初期にみられる妊婦に襲い掛かる不快な症状である。

正直、僕も「悪阻(つわり)」という言葉は過去に聞いたことがあるが、妻が妊娠するまでは具体的にいつ、どのくらいの期間、どんな症状が起きるかは分からなかった。

悪阻(つわり)の症状


よくドラマなどで女性が気持ち悪くなり、トイレで吐くシーンがあるが、あれは「悪阻(つわり)」の影響で、ドラマでは妊娠に気付くシーンとして採用されることが多くある。

僕はこういったドラマのシーンから、少し吐き気がするのをきっかけで女性は妊娠に気付き、それからは割と快調な日々が続くのかと思っていた。

しかし、妻はつわりの期間中、つまり約2ヶ月間、1日中何度も何度も怖いくらいに吐いた。これを「吐きづわり」と言う。

「悪阻(つわり)」の基本的な症状は、船酔いや二日酔いの更に上をいく気持ち悪さが、妊娠初期から安定期と呼ばれる3ヶ月頃まで、約2ヶ月以上続くらしい。

妻が語るには、お腹が空いても、お腹が満腹でも気持ち悪くなるらしく、胃に常に程よく食べ物を入れておかなければならないらしい。

これを「食べづわり」と言う。

つまり、「吐きづわり」と「食べづわり」は密接な関係にあるのだと思う。

しかも、なんでも食べれるという訳ではなくて、よく聞くのがマックのポテトを無性に食べたくなったり、うどんしか食べれないとか妊婦によって食べれるものや好みが異なるのことである。

妻の場合は、ヨーグルト、グレープフルーツジュース、トマトジュース、蒟蒻ゼリーを常に冷蔵庫に常備して、空腹にならないように小まめに口にしていた。

そんな妻の姿をみたことがないので、いかに「悪阻(つわり)」が特殊な状態なのだと感じさせる。

ちなみに、つわり中に梅干しを欲してたお母さんの子供は梅干しが大好きだったりと、つわりの状態の時のお母さんの好みがお腹の中の子供の食の好みという噂もあったりする。

そんな状態なので、1日の中でも妻とまともに喋れるのは僅かだし、あまりにも調子が悪そうなので、僕から話し掛けることは極力控えていた。

そんな時、妻は「今 赤ちゃんになってるのかも」と言い出した。

つまり、赤ちゃんは食べて、寝て、泣いてを1日の中で何度も繰り返す。

妻もお腹が少しでも空いたら気分が悪くなって、吐く。唯一、寝てる時だけは安定し、起きたらまたその苦しみに耐える。

その苦しい時=赤ちゃんが泣いてる状態を現し、

悪阻(つわり)のサイクル=赤ちゃんの状態と同じで、これは母親として赤ちゃんの気持ちを理解する儀式なのかもしれない。

と言うのである。

結論、絶対にそんなことはないと思う。

だが、そういう風に、この苦しみはきっと何か意味があることなんだ。と考えないと、やってられない程に辛いのが悪阻(つわり)なのだろう。

また、別の症状として、嗅覚が異常にに鋭くなることが挙げられる。

このことを「匂いつわり」と呼ぶ。

なぜ、嗅覚が鋭くなるのかを調べたところ、周囲の敵から本能的に赤ちゃんを守らなければならない為、嗅覚が鋭くなる。とのことだ。

こういう事を聞くと、人間も動物なんだと思い知らされる。

先ほど、妻がうまい棒コーンポタージュ味の匂いで吐きそうになったように、妊婦にとっても苦手な香りと言うのは千差万別である。

妊婦に定番でよく聞く嫌われてる匂いは、意外にも「炊飯器でご飯が炊ける匂い」だ。

ただ、妻に至ってはそれは全く平気らしく、排気ガスのシンプルに嫌な臭いが余計に無理になったり、毎日欲してたコーヒーも一切飲まなくなった。

中には、旦那の体臭も嫌になる人もいるらしいが、幸いそれはセーフだったと信じたい。

ただ、妻は当然家で寝た切りなので、帰宅したら自分のご飯は自分で用意するのだが、私が1度自分のハンバーグを捏ねて、フライパンで焼いてると、妻がその匂いで吐いた。

肉の油の匂いがどうも無理だったみたい。

ハンバーグが人を不幸にさせることがあるなんて、誰が想像しただろうか。

妻はこのように嗅覚が鋭くなることに対して「犬になった気分」とも語っていた。

赤ちゃんになったり、犬になったり、つわりの症状はとにかく特殊なのである。

「妊婦健診へ行く」

悪阻(つわり)の症状が出てから数日後、私達は病院の待合室にいた。

初めて訪れる「婦人科」である。

持っていた番号札の番号が呼ばれ、妻と一緒に部屋へと入っていった。

女性ベテラン医師が担当し、妻の状態を確認する。

医師「悪阻(つわり)はどうか?」

妻が「かなりキツいです。」と答えると、

医師「今はとにかく何でも食べれるもの、食べたいものを食べれば大丈夫。赤ちゃんは勝手に育つから。」

と伝えられた。

とはいえ、食べれるものが少ないのだ。

それ以降も悪阻(つわり)の辛さは留まることなく、家に帰れば妻はソファに横たわり、唾液ダラダラ出てくるのを防ぐ為、ティッシュを口の中に入れて、無の感情でアニメを観る日々が続く。

この唾液がダラダラ出てくる状態を「よだれづわり」と呼ぶ。

そして、あまりにも状態がよくならず、婦人科へ電話をし、再び病院へと行き、漢方薬を貰うことができた。

ここまで聞くと、「悪阻(つわり)に対する薬はないのか。」と思うかもしれないが、よくわからないけど無いらしい。

基本的に妊婦に薬はあまり良いものとされていない事と同時に、妊婦に対しての治験が進みづらいというのも要因といわれている。

ただ、今回渡された漢方が良かったのか、時間がそうさせたのか、次第に妻は回復し、仕事にも少しずつ復活するようになった。

そして、一般的に安定期と呼ばれる妊娠3ヶ月頃。

体調と食欲が回復し、私の好物でもあるキムチとカレー以外は食べれるようになり、ほぼほぼ悪阻(つわり)前の生活に戻ることができた。

あの状態を見てると、本当に治るのか不安だったが無事に治まってくれて良かった。

「悪阻(つわり)の期間に意識したこと。」


子供が生まれてからの方が大変。というのは重々承知の上で、今回の妻の悪阻(つわり)は私たちにとって最初の試練だったように思う。

よく、「妊娠中の恨みは一生。」と言われるように、妻が苦しんでる中で夫の振る舞いというのも非常に重要になるということは、何度か目にしたことがあった。

この期間中、私の振る舞いが完璧だったかと言われたら全くそうではない。

悪阻(つわり)が始まった初期頃、あまりにも何度も吐くものだから、その環境に対する慣れと、時間が経つしか解決策はないという諦めから、妻が吐いても割とスルーしてたら、妻から怒り泣きくらいのテンションで「背中をさするなどしろ。」と訴えられた。

背中をさする。。。。思い返せば、学生時代、酒に酔い潰れた人を看病するときに現場では背中をさすってる女子が必ずいたように思う。

一方で、私は、水を持ってきたりだとか、薬を用意したりだとかはするけど、背中をさするといった誰かに触れるような行為はしたことがないように思う。

調べると、この「触れる」という行為は「タッチング」と言って、医療現場ではとても重要な看護技術の一つらしい。

身体を優しく触れられることによって脳の神経伝達物質「オキシトニン」が分泌されます。
このオキシトニンには、不安やストレスを緩和する、痛みを和らげる、脈拍や血圧を安定させるという作用があります。
体調が悪く辛い、不安な時にそばにいてくれるということを実感できると、安心感を得ることもできますよね。

看護におけるタッチング。効果的な方法は?|京都大原記念病院求人サイト (kyotoohara.or.jp)

私は失敗したが、これから悪阻を迎える旦那さんは、妻を労り、ここぞという時は是非「タッチング」をしてみてほしい。

「最後に。」


今回、初めて悪阻(つわり)を経験してみて、私も妻も感じたことは、妊婦は妊娠後期のお腹が大きくなってからが大変だと思っていたが、初期に迎えるつわりがこんなにもキツイもんだと思わなかったということ。

また、つわりの辛さがあまり世間に広まってないということである。

安定期に入るまでは、どうしても他人に妊娠してることを言いづらい為、辛い時期に周りに相談できない。というのは広がりづらい一つの理由としてあるかもしれない。

私たちは自営業の為、その期間、妻は家で休み、自分ひとりで店舗に立って仕事を続けることができたが、女性が当たり前に働きに出てる中で、妊娠初期に発生する悪阻(つわり)に対して、会社や上司は理解を示し、快く休ませてくれる社会になってるのだろうか。

妻の状態を見てると、とてもじゃないが、まともに働けるとは思わない。

勿論、悪阻(つわり)のしんどさというのは個人差があるものだと思う。もっと辛い人もいれば、何ともなかった人もいるかもしれない。

ただ、実体験として今回の妻のつわりを目の当たりにした以上、ここに書き記し、一人でもつわりについて理解を示してくれる人が増えれば良いと思う。

ちなみに今は安定期と呼ばれる期間に入り、何より食べることが楽しいと言っている。

たぶん、これから予定日に近付いていくと、まだまだ新しい大変なことが起きてくるんだろう。

余った、コーンポタージュ味のうまい棒は隣のお店の子供にプレゼントした。

妻のお腹は三月下旬にオープン予定だ。

END








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