矢野れぶる (息子の蔵書を借りて読む)

私(60代)も息子(20代)も本好きという点は共通だけれど、息子の部屋に並んでいる本の…

矢野れぶる (息子の蔵書を借りて読む)

私(60代)も息子(20代)も本好きという点は共通だけれど、息子の部屋に並んでいる本の95%は、私が自分じゃ選ばないし買わないという本。自分だけでは触れることがなかった世界に息子の蔵書を借りることで触れる。

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息子の蔵書を借りて読む

まえがき息子、20代、独立して一人暮らし中。日産キューブとホンダレブルS 250ccに乗っている。 私、60代、配偶者と二人暮らし。誰かを轢き殺しそうな気がするので今は運転をやめている。事故歴はない。 息子と私は、当然のこととして、一世代違っている。私も息子も本好きという点は共通だが、息子の部屋に並んでいる本の95%は、私が自分じゃ選ばないし買わないという本だ。そういう本をあえて読む。つまり、自分だけではその存在を知ることもなく触れることもなかった世界に息子の蔵書を借り

    • 第8回:母子手帳編:2022年5月22

      出てこない。一向に出てこない。どうしたんだろう。 出てこないのは今日の晩御飯である。配偶者の方をちらちら見ると、人から聞いてきた「ハンドフルート」という手笛を鳴らしてみるべく両手を組んでしきりに息をふーふー吹き込んでいる。ご飯を用意する気配まったくなし。こりゃ、今夜はご飯はないんだな、と思い、買い置きしてあるガーナ板チョコでも食べようかと考えていると、玄関で息子の声がした。 息子夫婦とご飯を食べに行くことにしていたのは明日とばっかり思い込んでいたが、今日だったのだ。食べに

      • 第7回:大多喜編:2022年5月8日

        台湾の男性バンド、滅火器(Fire EX.)が歌う「おやすみ台湾」 (晚安台灣 日本語 Ver.)を車中で聴きながら千葉県大多喜の筍料理店、「竹仙郷」に向かう。 竹仙郷は山の中にある。途中、本当にこの道でいいのか、異界に入ってゆくような細い一本道を進んでゆく。やがて小さくて黒い、まるで手作りのようなトンネルをくぐる。そのちょっと先が「竹仙郷」である。「千と千尋の神隠しのようだ」と息子。 炉端焼きで食べた筍はやわらかくて甘くてとてもおいしかった。筍のほかに鮎も出た。 私は

        • 第6回:結婚指輪編:2022年4月24

          きらきら光る結婚指輪をそれぞれの指にはめた息子とQちゃんがやってきた。ショパール(Chopard)というスイスの時計・宝飾品会社製である。 Qちゃんは客家(はっか)人だ。実家は台湾の客家人の中心地の一つ、桃園市にある。 客家とは「ヨソ者」という意味である。つまり、台湾の土着人ではなくて中国本土からやって来た人たちだ。ただし、歴史はきわめて古く、周とか春秋戦国とかの古代まで遡ることができると言われており、単なる「ヨソ者」ではない。現に、今の蔡英文台湾総統も客家である。Qちゃん

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        • Qちゃんマニア:息子の妻は台湾人
          8本

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          第5回:お嬢様疑惑編:2022年4月19

          Qちゃんがお手製の大根餅を持ってきてくれた。大根と米の粉が混ざったもの。台湾名物の一つらしい。特に旧正月にはQちゃんの実家に50人ほどが集まってみんなで食べるのだと。 50人!? 旧正月に限らず、節目節目にはQちゃんの実家に50人ほどが集まるという。Qちゃんはおじいちゃんが亡くなっており、今はおばあちゃんが後を継いでいるとのことであるが、話を聞いてみると、すなわちおばあちゃんが一族の長なので、一族郎党が集まってくるのだった。もう、名前も分からずどういう関係なのかも分からな

          第5回:お嬢様疑惑編:2022年4月19

          第4回:入籍編:2022年4月8日

          2022年4月8日に入籍することとなった。結婚式は台湾でも日本でも予定なし。当人たちは前から付き合っているから違うだろうけど、私たち側からすれば3月20日に初顔合わせして4月8日にはもう入籍。目まぐるしい限りである。 入籍前日の7日の午後、息子から電話がかかってきた。「明日の入籍に戸籍謄本が2通必要だから、役所に行ってもらってきといて。今夜そっちに取りにいくから」。 夜、二人で取りに来た。家に着いた息子はすぐにトイレに入った。Qちゃんは自分が気づかないうちに息子の姿がふっ

          第3回:成田山編:2022年4月3日

          新車CX-30のお祓いをしてもらいに成田山新勝寺に向かう。 台湾人の精神生活事情はまったく分からないので、お祓いをしてもらうことでQちゃんに宗教上の差しさわりが出ないか確認したところ何もないとのことだった。 当然のこととして、QちゃんはCX-30の助手席に、私たち夫婦は後席に乗る。 CX-30の運転席と助手席の間にはツマミやらスイッチやらレバーやらがいろいろと配置されている。息子は運転中にこれらを左手で操作するのだが、そのたびに助手席からするするとQちゃんの右腕が伸びてき

          第3回:成田山編:2022年4月3日

          第2回:初顔合わせ編:2022年3月20日

          Mazda CX-30に乗ってQちゃんがやってきた。 「こんにちは」。うむ、中国人らしいトーンが高めの可愛い声ではないか。外観も小さめで可愛いらしいし。玄関先での挨拶もそこそこに車に乗り込む。 QちゃんはCX-30の左側の前ドアを少し開け、そのまま後ろのドアも少し開けた。「両方あけてどうするつもりなんだろう」とちょっと訝しんだ。ところが、後ろドアは私のために開けてくれたのだった。私が乗り込もうとするとドアを大きく開け、乗り込んだのを確認してドアを閉めてくれた。その後も私が

          第2回:初顔合わせ編:2022年3月20日

          第1回:はじまり編:2022年3月

          息子の妻は台湾人である。本名は日本では使わない難しい字だし、名前の読み方も、聞いても頭に入らない。日本語の近い音によって彼女のことはQちゃん(きゅうちゃん)と呼んでいる。 私たち夫婦は二人暮らし。一人息子は隣の区に一人暮らししていた。月に1,2回ほどこちらに帰ってくる。夜帰って来て、翌日は夕方まで寝ており、ご飯食べて風呂に入って自分の家に帰るというのがだいたいのパターンである。 2022年3月のある日、我が家に来た息子に言われた。「彼女と20日、食事をしよう。」 「あれ

          第1回:はじまり編:2022年3月

          悩ましい国語辞典 神永暁  角川ソフィア文庫

          まえがき 息子、20代、独立して一人暮らし中。私、60代、配偶者と二人暮らし。 息子と私は、当然のこととして、一世代違っている。私も息子も本好きという点は共通だが、息子の部屋に並んでいる本の95%は、私が自分じゃ選ばないし買わないという本だ。そういう本をあえて読む。つまり、自分だけではその存在を知ることもなく触れることもなかった世界に息子の蔵書を借りることで触れる。 「息子の蔵書を借りて読む」と題してnoteで書いている一連の文章は、読書感想文ではないし、あらすじや内容

          悩ましい国語辞典 神永暁  角川ソフィア文庫

          日本文化の核心 「ジャパン・スタイル」を読み解く 松岡正剛  講談社現代新書

          「あ、そうだ、これ」と家からの出がけに息子がいったん前抱きにしたバッグを降ろして貸してくれたのがこの「日本文化の核心」。  松岡正剛かあ。松岡正剛の本っていうとどれも細かい字がびっしり詰まった本というイメージを抱いていた。老眼で大丈夫かな。でもこの本は新書なので字のサイズは普通だった。  「これは、読むのに時間かかると思うから、ゆっくりとね。」と息子。では、読み始めよう。 ★はじめに  (引用)  日本は一途で多様な文化をつくってきました。しかし、何が一途なのか、どこ

          日本文化の核心 「ジャパン・スタイル」を読み解く 松岡正剛  講談社現代新書

          たのしい写真 よい子のための写真教室  ホンマタカシ 平凡社

           私が子供のとき、家に一人のセールスマンがやってきた。新しく発売になる小学館の「原色 日本の美術」という順次刊行全集の売り込みである。  とにかく巨大な本だった。新聞1ページを2回り小さくしたくらいの大きさ。セールスマンが抱えていたのは仏像の巻。大きな本なので当然写真も大きく、これまで見たこともない鮮明さで阿弥陀如来や月光菩薩や不空羂索観音たちがページをめくるたびにこれでもかと迫ってきた。我が家では仏像に気圧されてこの全集を購入したのだった。  セールスマンはこういう説明

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          こちらあみ子  今村夏子  ちくま文庫

           息子に次の本を貸せと言うと、「これはどうだろうか」と書棚から取り出してきたのが「こちらあみ子」。  ここ3冊、学者先生の本が続いたから、「一般人」の本であることにほっとする。「この人、別の本で芥川賞を取ってるし、この本は映画化作業中らしい」と息子。でも、私、この人のことはまったく知らなかった。で、ウィキペディア。  『広島県内の高校を経て大阪市内の大学を卒業。その後は清掃のアルバイトなどを転転とした。29歳の時、職場で「あした休んでください」といわれ、帰宅途中に突然、小

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          断片的なものの社会学  岸政彦  朝日出版社

          息子「次はこの本、どう? ちょっと内向きの本が続いたから、今度は外向きの本がいいかなと」 私「どんな本?」 息子「エッセーの皮を被った社会学、または社会学の皮を被ったエッセー」 私「ふむ」 息子「自分が見聞きしたことが、そのまま書いてある。自分の想いとか入れずに」 私「客観的記述っていうこと?」 息子「客観的っていうか社会学的」 私「ふむむ」 「断片的なものの社会学」の本を手に取った。コシマキに書いてある短文レビューが目に入る。「この本は何もおしえてはくれない」。はあ、さよ

          断片的なものの社会学  岸政彦  朝日出版社

          気流の鳴る音  真木悠介  ちくま学芸文庫

           「この本読んでみてよ。難しい、とにかく、難しい本」と息子に言われた。なんでそんな難しい本を私に読ませようと思ったのかと聞くと、「読んでおくべき本だから」と。そうかあ、チャレンジだ。 ★序 – 「共同体」のかなたへ アフリカ人は視力にすぐれ数キロ先の動物なども肉眼で見える、というのはよく聞く話だ。活字を知った人間の眼はだめになっているとも。しかし、この本を読んで、うかつだったと思ったのは、私はなぜか「眼」に限定してこの話を聞いてしまい、ほかの感覚のことは考えていなかったと

          気流の鳴る音  真木悠介  ちくま学芸文庫

          アースダイバー  中沢新一  講談社

           私は、「自分は神である」という説を唱えているのだ。  その1。私は神だ。いつが朝でいつが夜かは私が決める。よって、人からは私が朝寝て昼寝て夜も寝ているように見えたとしても、それは見る人が間違っている。  その2。私は神だ。どっちが東でどっちが西かは私が決める。よって、地図を見ながら目的地に向かったのに意図した場所にたどり着かなかったら、それは地図が間違っている。 「こんな本あるよ」と息子が「アースダイバー」を貸してくれた。パラパラめくる。東京の古代地図と現代の写真がち

          アースダイバー  中沢新一  講談社