20230715_りゅうちぇるさん、うーとーとー。

 僕は2年前から、妻と一緒に犬を育てています。
 シーズーの男の子で、名前は「ふじ」といいます。
 この子を育て始めた年の秋に、我が家の間で、愛犬「ふじ」をかわいいと思う感情が爆発的に高まると、ついついふじを「ふうちぇる」と呼んでしまうのが流行ってたんですね。

 そのことをツイートしたら何と! りゅうちぇるさん本人から「いいね」が来たんです。ちょっと凄くないですか? あの時は、りゅうちぇるさんの優しさに、本当に本当に感動したんです。あの日のいいねは、今も我が家の宝物です。

 そんなりゅうちぇるさんが、この上なく不幸な形でこの世を去ってしまいました。
 人の痛みを知る立場から、その痛みを共有しながら自身の言葉で発信していくりゅうちぇるさんは、「チカラこそすべて」という弱肉強食の摂理が幅を利かす芸能界において、まったくの“異物”であると同時に、稀有で気高い存在でした。

 僕がりゅうちぇるさんの発信を気にかけ始めたのは、やはり『バリバラ』への度重なるゲスト出演で、彼の発言に繰り返し触れるようになった頃からでしょうか。
 それまで「ド派手なオネェの男の子」程度のイメージしか持っていなかった彼が(ごめんなさい)、しっかりと言葉を選んで、マイノリティの痛みを共感しながら伝えている姿に、新鮮な驚きを覚えたものです。
 ちょうど『バリバラ』を毎週定期視聴するようになった頃とほぼ同時期に、僕は沖縄戦に関する情報に積極的に触れるようになっていたので、りゅうちぇるさんが沖縄戦についていろいろなメディアで発言している姿を目にして、さらに驚きでした。
 僕の中で、彼に対する好感度は天井知らずになり、彼を勝手に“同志”とすら思うようになっていきました。

 2010年代後半のTVって、全知全能なポジションのMCが“デキない子”を強めにイジるのが、まだまだ大正義のままだった記憶があります。
 そんな中でりゅうちぇるさんは、まだアップデートの進んでいない当時のバラエティで、自己責任論が大好きそうな共演者に囲まれながら、たった一人で「イジりといじめは紙一重」という自説を貫き通していました。
 誰も味方になってくれる人がいないような逆境まみれの環境の中で、彼はいかにしんどくて困難なことをしていたか。りゅうちぇるさんが、「本当の強さ」を教えてくれました。

 ぺこさんと結婚して以降も、新しい夫像・父親像を発信してくれるりゅうちぇるさんはやっぱり断然にカッコよく、またまた勝手ながら「誇らしい」とも思っていました。
 なので、昨夏の離婚は、やはり個人的にはショックでした。
「妻の幸せ」「母の幸せ」を欲していたように見えたぺこさんがかわいそうに思ったので、ずっと大好きだったりゅうちぇるさんに対して、例の離婚以来、彼を推していきたい気持ちにちょっとブレーキがかかったのは否めません。
「ジェンダー的な男の役割を卒業したくなったのかもしれないけど、家庭より自分のやりたいこと優先するって、それ自体が男丸出しの行動原理じゃん」っていう指摘も、御説ごもっともとは思います。

 だけど。
 弱い人たちに寄り添う気持ちと、ふるさとの沖縄が背負う痛みを追究する気持ちに対しては、りゅうちぇるさんは一切ブレていなかったと思います。
 りゅうちぇるさんは毎年、6.23の沖縄慰霊の日が来るたびに、欠かさず手を合わせて祈りの言葉「うーとーとー」を捧げていました。
 沖縄戦を直に体験した世代の高齢化は進む一方で、たった今も、多くの方々が次々と天に召されています。りゅうちぇるさんのような知名度と影響力のある若者が沖縄戦を語り継いでくれることは、とてもとても意義深いことでした。

「弱さ」と「痛み」に真っ正面から向き合い続ける「強さ」。
 これこそが、りゅうちぇるさんが遺してくれたレガシーだと僕は思っています。
 この「強さ」を胸に抱き続ける限り、その人の中で、りゅうちぇるさんは永遠に生き続けるのだと思います。

 でもやっぱり、悔しいです。
 人の痛みに寄り添うりゅうちぇるさんが、もっと見たかった。
 来年も、その先もずっと、慰霊の日にうーとーとーして、いつまでも沖縄戦を語り継いでほしかった。

 でも、ずっと強いと思ってたりゅうちぇるさん、最後の最期でこんなにも疲れちゃったんだね。
 めちゃめちゃ疲れたんだもんね。もう休んでいいよ。
 りゅうちぇるさんがずっと大事にしてきた「人の弱さに寄り添う気持ち」、そして「沖縄の痛みを探し続ける心」は……俺、りゅうちぇるさんよりずーっと上の世代のおっさんだしヤマト生まれだし、そんな立場で「受け継ぐ」なんてことは言えないけど、これからもずっとずっと忘れないと誓うよ。

 りゅうちぇるさん、今はとにかくお疲れ様でした。
 そしてやっぱり最後は、彼が大事に守り、継いできたこの言葉で締めさせてください。
 りゅうちぇるさん、うーとーとー。

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