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書籍編集者の、1つのテーマを掘り下げる力

「編集者が身につけておきたい15のスキル」の記事にて、実用書の編集者に求められるスキルとして、企画力、コミュニケーション力、憑依力、構成力、深掘り力などを、それぞれ大まかにご紹介しました。

その中で、今回は「深掘り力」についてご紹介します。前回の記事「構成力」とも関連が深いスキルです。

では、詳しく見ていきましょう。

雑誌編集者と書籍編集者の違い

私は基本的にずーっと書籍の編集者ですが、私がこの業界に入った編プロ時代に、雑誌やパンフレットの仕事もしたことがあります。

私が編集者として参加した雑誌はパソコン誌でした。

雑誌の場合、雑誌全体の方向性は決まっていますが、そこに含まれる多数の小さなテーマを取り上げています。
1つひとつの記事は、ページを多く割く特集記事であっても20ページ程度、その他くの記事は2〜8ページくらいのものが多くなっています。場合によっては2分の1ページの記事もあるでしょう。

雑誌は、このような小さな記事の集合です。
そして、それらの関連性はありません。
別のページに掲載されている記事の内容を受けて書かれるような記事はない、ということです。

そのため、雑誌編集者には、さまざまなことに関心を持つ「好奇心力」が必要になります。同時に、フットワークの軽さが求められます。

一方、書籍は1つのテーマだけで1冊になります。

テーマが1つというのは、価格が数千円する専門書だけでなく、千数百円程度の入門書でも同じです。

たとえば、「お金の基本」のような入門書の場合は、税金、年金、金利、為替、投資などを広く解説しますが、「お金」というテーマは1つです。そして、それぞれの項目をどのような順番で関連させていくかということも大切になります。
ここが雑誌と大きく異なる部分です。

また、上記のような入門書の中にあるテーマを1つだけ取り上げた本もあります。
たとえば投資です。もっと絞って株投資、さらに絞って株チャートだけで1冊になっている本もあります。
そして、株チャート本には、数千円する専門書もありますし、千数百円の株チャートの入門書もあります。

書籍に共通することは、1つのテーマで1冊にするということ。そして、それぞれの小さなテーマを関連させること。これが、書籍と雑誌の違いなのです。

そのため、書籍編集者には、1つのことを掘り下げていく力が求められます。
「深掘り力」が必要になるのです。

ちなみに、私の場合は、性格的に雑誌よりも書籍が向いていると考えています。

新しいことをどんどん追求していく雑誌よりも、1つのことを掘り下げていく書籍のほうが好きだと思ったからです。

そのため、何十年も書籍編集者をしています。


「深掘り力」とは、どのようなものか?

本は1つのテーマだけで200ページ程度になります。

それを実現するには掘り下げていくことが必要です。

そのためには、その分野について、多くの知識が必要になります。

たとえば、200ページの本を作るならば、少なくとも400ページ分の知識が必要になるでしょう。

その中から取捨選択し、どれをどの順番で並べるのかを考える力が、前回紹介した「構成力」です。
深掘り力は、構成を考える前に必要な力であり、同時にどこを厚くするかを決めるときに必要な力です。

ですから、私が実用書を編集するときは、まず400ページ分の知識を入手することから始まります。

まず、関連書籍を読む

そのためには、まずは類書を読み込みます。

たとえば、私が経済学の入門書を作ったとき、最終的に10冊程度の関連書籍を読みました。

価格が千数百円程度の入門書はもちろんのこと、2000円を超えるような本も読んでいます。それも1冊や2冊ではありません。確か3、4冊は2000円を超える本であったと記憶しています。

たとえば、監修者の先生が学生向けに執筆された大学の教科書的な本を、深く読み込みました。経済学の本をつくったとき、私はこの本に一番時間をかけました。見出しや重要な事柄を書き出すことをだけでなく、重要な図版もノートに描き移しました。

その他にも、見出しと重要な事柄を書き出した本は、3、4冊はあったと思います。

なぜ、私がこのように類書を読み込むかといいますと、理解していないものは伝えられないからです。

私自身が、きちんと理解していないものは、読者に伝えることができません。ましてや、わかりやすく伝えるのは無理です。
わかりやすく伝わる実用書にするためには、私の場合は、これくらいの情報を頭の中に入れないとできません。

たとえ初心者向けの入門書でも、関連書を2、3冊を読んだだけでは、読者に自信を持って提供できる内容にすることができないからです。

ネットの無料記事でしたら、長い記事でも、2、3冊の本を読むことで入手した情報を元に編集したもので問題ないと思います。といいますか、十分だと思います。

著者という、その分野に強い人が文章を執筆しているからです。もしくは、ライターという、その分野をしっかりと勉強した人が書いているからです。

しかし、読者がその1つのテーマに、お金と時間を使ってまで読む価値があるような本にするには、著者やライターの知識だけでは足りません。

本の全体像をディレクションする編集者も、ある程度深い知識が必要。私はそう考えています。

ですから、関連書を数冊ほど読むだけでは足りないと考えているのです。

読者の満足を得るためには、最低限、その本の2倍の知識を持ち、その中から取捨選択しなければダメだと思うのです。

ネットの記事を読み込む

私の場合は、関連書を読み込む以外にも、いろいろな情報を入れていきます。

ネット記事はその代表です。

経済学の本を編集したときは、受給曲線や完全競争市場、ケインズ理論、パレート最適などについて書かれている記事を何本も読みました。

関連書を読むことで、これらのことが、しっかりと頭の中に入っていれば問題ありません。
しかし、「なんとなく理解できた」という程度では不十分だと思っています。
いくら、その分野の知識を多数持っている著者やライターがいたとしてもです。

実際、上記の需給曲線や完全協商市場などは、「なんとなく理解できた」というレベルでした。
そのため、ネット検索を繰り返し、何本もの記事を読みました。腹落ちするまで、検索して読み続けたのです。


そして、ようやく「きちんと理解できた」。だから「正しい内容を提供できている」という自信が出るのです。
こうしなければ、私は不安です。「お金を出していただく読者に、きちんとしたものが提供できていないのでは?」と。

きちんと理解ができれば、同時に「こういうことならば、完全競争市場は、ここで解説しないで、10ページ後の〇〇の直後に解説しよう」と、わかりやすい順番が浮かんでくるのです。

この構成を考える力は「構成力」ですが、その前に、事前知識を入れる「深掘り力」が必要なのです。

深堀り力は、読者から支持される良い本を作るためには、必要なスキルなのです。


今回は、「編集者が身につけておきたい15スキル」の中から「深掘り力」についてご紹介しました。

次回は「文章力」について、お伝えする予定です。



文/ネバギブ編集ゴファン
実用書の編集者。ビジネス実用書を中心に、健康書、スポーツ実用書、語学書、料理本なども担当。編集方針は「初心者に徹底的にわかりやすく」。ペンネームは、本の質を上げるため、最後まであきらめないでベストを尽くす「ネバーギブアップ編集」と、大好きなテニス選手である「ゴファン選手」を合わせたもの。

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