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原作をリメイクする場合に「改変」はどこまで許されるのか?

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。

年明け最初の記事になりますが、年始からいろいろと暗いニュースが多くて、(多くの皆さんがそうだと思いますが)心が少し「しんどい」です。

年度末に向けた忙しさもあるのでしょうが、社会全体のネガティブな雰囲気に晒されつづけると、マインドがそっち方向に引きずられてしまって、なかなかよろしくないような気がします。

スポーツくらいですよ、明るいニュースは(前田穂南選手、本当にありがとう!)。

さて、漫画原作のドラマ化問題で、最悪の結果となってしまった例の件。私もコンテンツ制作者の一人として、ただただ残念というか、生命エネルギーが削られるような思いでして、ご冥福をお祈りするばかりです。

今回の問題は、多くの方々が指摘しているように「原作へのリスペクト」が欠如していたことが大きな原因のひとつだったと思います。

「原作に忠実に」という条件でドラマ化が許諾されたのであれば、それを守るべきですし、その条件を外さないと成立しない企画であれば、ドラマ化そのものを見送るべきであったと思います。

ただ、「原作を改変する」こと自体は「原作へのリスペクトを欠く」こととイコールではないと思っています。

私も今、「親本=原作」のあるリメイク本の制作を行っていますが、出力するメディアが異なる場合は、少なくとも必要に応じた改変が生じてくるからです。

原作をリメイク(二次利用)する目的の多くは、原作が持つ既存の実績を前提に、対象の裾野を広げることにあります。そこに新たなビジネスチャンスが存在し、かつ原作側にもファン層や認知度を広げるというメリットが考えられます。そのため、多くの場合、原作とリメイク作品のターゲット設定は異なっており、それぞれのターゲット設定に合わせた表現方法を選択することになります。

今回のケースにおいては、漫画と実写では表現法そのものがそもそも違いますし、また、原作の読者とドラマの視聴者では当然ターゲット層が異なるわけで、それに合わせた物語づくり(改変)を行う必要性があったと思います。この辺が、テレビ業界内部のことはよく知らないのでなんとも言えませんが、議論を尽くして同意を得ながら進めていたのか、疑問が残るところです。

書籍の場合、親本の著者の許諾は絶対。これを無視して進行する案件は、少なくとも私のまわりでは見たことがありません。本当に構成の段階から「ここはこういう表現にして問題ないか?」などと細かくすり合わせながら進めていきます(普通のことですが)。

ところで書籍の場合、どんなリメイク作品があるのでしょうか? コミカライズノベライズ作品などが一般的にイメージしやすいですが、実はノンフィクション・ジャンルでもリメイク本はたくさんあります。

わかりやすいところでいえば、ビジネス書や啓蒙書の「マンガでわかる版」などがそうです。あとは専門書を一般向けにやさしい表現に変えた本や、新書等の読み物をビジュアル化した図解版なども存在します。

このような本では、ほとんどの場合、親本とターゲット設定を変えないと企画する意味がないので、それに合わせた内容の改変は頻繁に起こります。

では、「内容を改変したから原作へのリスペクトはないのか?」といえば、私としてはNOだと。

表現こそ改変しますが、その前提に「著者の意向」を尊重して制作するという編集方針があるからです。これを絶対に外さずに守ることが、結果的によい作品(関わる皆がハッピーになれる)を生み出すことにつながるのだと思います。

そして、それを実現するために欠かせないのが「対話」です。原作側にも二次利用者側にも、プロの制作者としてそれぞれ主張があるはずです。それを互いに尊重しながらも誠実にぶつけ合い、「よりよい作品に仕上げましょう」という共通の目的を持って、同じ方向を向いていくことが重要なのではないでしょうか。

今回のような結果となってしまったのは、この「コミュニケーションの欠如」の影響がとても大きいと思っています。

どこからどこまでの改変なら許されるのかということではなく、原作者も同じ制作チームの一員として協力関係を築くことが必要だったのではないでしょうか。原作側と二次利用者側という分断が起こっている段階で、よりよいリメイク作品が生まれるはずがありません。

オリジナル作品だろうとリメイク作品だろうと基本は同じです。すべての関係者とコミュニケーションを密にすることが作品のクオリティ向上につながるのではないかと。

対面の機会のセッティングが難しいなら、今どきオンラインで打ち合わせるくらい、いつでもできると思います。

もしテレビ業界の慣習的に原作者と制作現場の主張のすり合わせの場がないのだとすれば、そこは改善すべき課題だと(やろうと思えばすぐできるやつ)。

それにしても、ちゃんと向き合ってさえいれば、誰もこんなつらい思いをしなくてよかったのに……と悔やまれるばかりです。

故人のご冥福を心よりお祈りいたします。

文/編プロのケーハク

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