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書籍シリーズのフェアを、リニューアルした話

こんにちは、高橋ピクトと申します。
出版社で、実用書の編集をしています。

私が所属する池田書店には「マンガでわかるシリーズ」という書籍シリーズがあります。
シリーズが始まったのは、2010年。最初に刊行されたのは「マンガでわかる百人一首」で、今では文学から、「日本史」「世界史」などの歴史、「人体のしくみ」や「栄養学」などの科学まで様々なテーマが刊行され、全37点となりました。

14年の間には、書店さんで数多くのフェアをしていただきました。
書店さんによっては、何度もリピートしてくださっているお店もあります。

今回は、このシリーズのフェアをリニューアルしたという話です。
リニューアルの中心となっていたのは、営業部のK島さんと、営業部のみなさんです。私は、シリーズの立ち上げから今までシリーズの統括をしている関係で、今回のリニューアルのサポートをしていました。

まだ、シリーズが10点ほどだった頃に展開しはじめたフェアがこちらです。

手作り感があって好評でしたが、気が付いたらシリーズ立ち上げから10年以上。いくらよい展開で、実績があっても、ワンパターンでは停滞してしまいます。また、シリーズも30点以上になりましたので、書店を訪れるお客さんに楽しんでもらえるフェア展開をしようという話になりました。

デザイナーさんと一緒につくったフェア

今回お伝えしたいのは、社外のデザイナーさんと一緒に「フェアをつくった」ということです。出版社の営業と、書籍のデザイナーが会って、打ち合わせて、モノづくりを行った、珍しいケースなので、ぜひご紹介したくて記事を書きました。

お願いしたデザイナーさんは、「ざんねんないきもの事典」(高橋書店)など、数多くのヒット作にかかわっているタイプフェイスの渡邊さんと谷関さん。お二人には、マンガでわかるシリーズの装丁や本文のデザインもお願いしているので、ぜひ、フェアの展開も一緒に考えたいと思いました。

タイプフェイスさんにはパネルやPOPのデザインをお願いするだけではありませんでした。フェアのキャッチコピーからパネルのデザイン、書店展開イメージなどを含めて、一緒に企画を立てるところから、デザイン作成までを依頼しました。

今まで、池田書店でもいろいろなフェアをしていますが、デザイナーさんに書店フェアにかかわってもらった経験はありません。費用もかかりますし、社内で考えて作った方が、正直話が早そうな気もします。しかし、いざ今までやってきたことを一新しようとするとなかなか難しい…。そこで、外からの風を入れたいと考えたのです。

外から見るとわかる、自社本の良さ。

デザイナーさんと打ち合わせて、フェアが展開されるまで約1年。
渡邊さんと谷関さんとは、シリーズの成り立ちから、どんな人たちに読まれているか、幅広く話をしました。

お二人と話していて、改めてわかったのは、自社の本の良いところです。

・こんなことまでマンガで解説しているの!?という驚き
・マンガ“なのに”ちゃんと知識が得られるということの価値。
・マンガ以外の部分が意外に充実している

とくに、自社だと当たり前だと感じていた、
「マンガ“なのに”ちゃんと知識が得られるということの価値」
この部分をデザイナーさんが推してくれたことがよかったです。

なぜなら、「マンガでわかる」という本は、ほかの出版社でもたくさん出しているので、出版している会社の人間としては、そんなの当たり前なんじゃないか…と思い込んでしまっていたからです。

しかし、書店で、本を選ぶお客さんは違います。
難しいと思っていた歴史や科学の情報が、マンガで簡潔に解説されていることに驚きと、面白さを感じてくれます。書店さんもそれを知っているから、何回もこのフェアをリピートしてくれているわけです。
「自分たちのシリーズに自信をもって!」
そう言ってくれたことがありがたかったです。

今回キモになったのは、
タイプフェイスさんの提案でした。


先述のやり取りを踏まえて決まったメインキャッチが、
「マンガでみにつく、ちょうどいい教養」

谷関さんはデザイナーの立場から、「インスタントな教養ではなく、本当に身になる教養であることをアピールするために、教養を深堀する」提案をしてくれました。

「みにつく」の「み」を

・実(み)につく
・深(み)につく
・未(み)につく
・美(み)につく
・診(み)につく

と五種類に分けて、パネルを作り、ジャンルを分けるというのです。
そのジャンルの分け方が実に痛快。今までは、文学、歴史、科学と決まりきったテーマで分けていましたが、それをせず、一期一会の本との出合いを楽しめるようなテーマ分けをしました。

パネルのイラストは、イケマリコさんに描いていただきました!


1.実につく

→「実」用性に富んだテーマの本

タイトルは、「やさしい統計学」「栄養学」「人間関係の心理学」「天気のしくみ」「相続」など。

2.深につく

→歴史から学び、「深」い知識に結びつけるための本
タイトルは「聖書」「日本史」「世界史」「日本文学」「三国志」「世界の英雄伝説」など。

3.未につく

→現在進行しているテーマを取り扱い、「未」知に挑戦する本
タイトルは、 「災害の日本史」「日本の近現代史」「行動経済学」「社会学」「心理学入門」「地政学改訂版」「資本論」など。

4.美につく

→古典など日本の「美」しい価値観を取り扱った本
タイトルは、「百人一首」「源氏物語」「古事記」「万葉集」「日本の神様」「徒然草」など。

5.診につく

→専門家が、人間の体を「診」る知識をやさしく解説する本
タイトルは、「人体のしくみ」「東洋医学」「脳と心の科学」「認知行動療法」「解剖生理学」「認知症」など。

以上のように、分けていきました。

昨年末から受注活動をはじめたところ、書店さんの反応は良好。
今では多くのお店でフェアを開催していただいています。

2023年12月から2024年3月現在フェアにご協力いただいた書店さんは、600店舗以上。ご注文の総冊数は、20,000冊以上。数百、数万という数を想像できていなかった私としては、ただただ驚きましたし、頭が下がるばかりです。おかげさまで前年よりも実績が上がっているのこと。ご協力に心から感謝いたします。

今年はこんな展開になりました!

下の写真は、栃木県のハートブックス黒磯店さんのフェアの写真です。
フェアは2年連続で、以前も何度も展開していただいています。

下の2点の写真は、TSUTAYA フレスポ小田原シティーモール店さんの写真です。フェアは3年目。今回のリニューアルについてのご意見をいただいたりもしました。

以上がマンガでわかるフェアをリニューアルした話でした。

営業部と、デザイナーさんとのやり取りは、一筋縄ではいかず、間に入る編集者としてはもどかしい思いもしました。しかし、それぞれの意見をぶつけ合うのは、とても貴重な場だったと思います。

営業部のK島さんは、「新しいものを作るのは前向きだし面白かった」と、普段と異なる仕事を楽しんでくれていたようです。ただ、「(デザインの話は)感覚の話でもあり、自分がよいと思っても、社内で共有するのは難しい」と、苦労も話してくれました。

デザイナーの谷関さんは、現場の状況を知らず「こんなこと提案していいのかな?」とおそるおそる池田書店にいらっしゃったそうです。ただ、話してみると「みなさんすごく柔軟に考えてくださって、“一緒にものづくりをしている感じ“が味わえたのが良かった!(←デザイナーとしては仕事をしていてベスト3に入る楽しい瞬間とのこと!)」と。

「営業さんも普段直接コミュニケーションをとることがないので、色々なお話ができて読者さんに届くまでのイメージがより具体的につかめたのも良かったなと!」
「「マンガでわかるシリーズ」の読者像がよりリアルになったので、
もっともっとパワーアップしたデザインに繋げていければなと思っております!」
と、うれしいコメントもいただきました。

編集者である私は、本にかかわる人たちの立場の違いと、そこで生まれるこだわりの違いを知ることができました。また、そのこだわりを支える方の存在を知ることもできました。

たとえば、営業部は注文を取るのも大事な仕事ですが、数百枚のパネルを、一枚一枚カッターで切って、ボードに貼る営業アシスタントの方がいます。また、タイプフェイスさんのデザインの裏側には、現場のイメージをつかむため、書店さんに何度も通い、下調べをしてくださった新人デザイナーさんがいたそうです。

これだけの本を売る苦労を見て、自分には何ができるだろう。
最近弱音ばかりでしたが、力が湧いてきました。
必ず、この経験は次に活かします。

マンガでわかるシリーズは続刊中です。
今後も、こだわりをもって、良書を作ります。

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文 高橋ピクト
生活実用書の編集者。『新しい腸の教科書』『コリと痛みの地図帳』などの健康書、スポーツや囲碁、麻雀、競馬、アウトドア、料理など、趣味実用書を担当することが多いです。「生活は冒険」がモットーで、楽しく生活することが趣味。ペンネームは街中のピクトグラムが好きなので。

マンガでわかるシリーズは、著者さん、監修者さん、漫画家さん、編集者さんから、「本当に、手間がかかる企画」だといわれます。いつも大変な思いをさせてすみません。しかし、そのおかげで、こんなに立派なシリーズに成長しました。企画から、制作、印刷、流通、販売まで、かかわった皆様に心から感謝いたします。

Twitter @rytk84

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