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暗黙の了解「猟場」の存在

狩猟免許を取得する際、狩猟ができる場所、できない場所。特定猟具による狩猟が禁止されている場所などを講習会で説明を受けたかと思う。

また、年に1回、都道府県に狩猟者登録をしなければその都道府県内で狩猟ができない仕組みだ。
鳥獣保護法等では、狩猟者登録をすれば県内の狩猟可能な場所であれば誰でも、どこでも狩猟が可能だ。

しかし現実はちょっと違う…。
基本的に市町村ごとにある猟友会や任意のハンターによる集まり、ハンティンググループなど、狩猟団体が特定の猟場を縄張りとしてきた歴史・慣習があり、暗黙の了解で
「協定で、この川から右側はウチの猟場、左側は○○会の猟場だからね」
と言うような感じで猟場が隣接するグループ同士で縄張りを決めていることが多いのだ。

最近多いのは、都会や県外から地方に狩猟をしに来る鳥撃ちや単独猟のハンターさんが、こうした地元のオキテめいたものを知らずに山に入り、もめごとやトラブルになるケースを耳にする。
法的には何ら問題ないのだ。しかし、こうしたローカルルールは徐々に和らいできてはいるものの、依然として猟場のもめごとはなくならない。

山なら何処でもシカやイノシシがいるのかと言えば必ずしもそうではない。特定の獣種しかいないような山もある。
地元の大先輩から聞いた話では、30年以上前は、大物猟をやるグループ同士で猟場を巡り抗争もあったらしい。
国有林のゲート前で他のグループが入って来ないように門番をつけたり、顔のきく者が話をつけに行ったり、追い出したりなど、それはそれはシノギを削ったやり取りが多かったようだ。

猟場を守ってきたという歴史は今もなお語り草となって引き継がれているので、自然と慣習として残ってしまうのだろう。

古巣のハンティングクラブを離れて思い知ったこと

東信でもおそらく1、2を争うほど大きかった古巣のハンティングクラブは、猟場もかなり大きく、しかも複数の山に及んでいた。
クラブを離れ2人で独立した時に痛感したのは「猟ができる場所がない…」と言うことだ。
とりわけ地元民とすれば、しがらみもあるため同じ地域で狩猟者同士のもめごとは極力避けたいものだ。田中と櫻井が真っ先に悩んだのが、猟場だった。

一時期の狩猟ブームで20代〜40代の若手ハンターも増えたものの、しがらみや窮屈さ、わけのわからない慣習を嫌い、グループに入らず、単独猟をする方も多いのだとか。
狩猟人口の低い地域なら猟場の縄張りを気にする必要はないかもしれないが…。結局、グループに入りましたと言う後日談も耳にする。

良い猟場を持たないグループは衰退していく。生き残れない…。

古巣の親方からの一言

猟場の問題を抱えつつ、シーズンの始めは古巣のハンティングクラブの猟場のうち、メインの猟場から離れたサブの猟場の近くで遊んでいた。
もし、古巣のメンバーから指摘されたら出ていこう…そんな軽い気持ちでいた。

初猟からしばらくしたある日、猟場に向かう途中、古巣にいた時に「親方」と呼ばれていた中心的存在だった方と偶然すれ違ってしまったのだ。

会長に引き止められつつ、夏に2人がクラブを退会したことはすぐさま会員に伝えられ、ちょっとした騒動だった。
反対車線の親方の軽トラの窓が開き、先頭の田中と窓越しにあいさつを交わしている様子が後続の櫻井からも見えた。

互いの車が動き出しクラクションで別れを告げる。

「アニさん、親方は何と?」
「話は聞いてるよ。いいわこの辺で自由に遊んでれば…だってさ。親方がいいって言えばさすがにね…堂々と使わせてもらおうか。」

少し気が楽になった感じがした。
親方の心意気に頭が下がる。
更に、アドバイザーとしていつもお世話になっている方も、周辺で狩猟をしているグループの方に彼らとお互いに行きあったら気持ち良く猟をしましょうということで話を通してくれた。

何はともあれ、独立した2人が行ける猟場があるというのは本当に恵まれていたのだ。

これから先もおそらく猟場の問題は地域の問題として消えることはないと思う。
狩猟者がお互い気持ち良く猟ができる環境は、グループ同士のパワーバランスにより成り立っている。

この先、狩顚童子がそのパワーバランス、勢力図に入っていけるのか、長い目で長期展望が求められる。

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