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『DCスーパーヒーローズ(原題:THE WORLD'S GREATEST SUPER-HEROES)』から受け取ったモノ その②

まえがきその②『物語から受ける影響』

物語、創作物とは現実にはない存在である。が、同時に現実とは決して切り離せない存在であるのも確かだ。それはこの偉大なるヒーロー達の物語も例外ではなく、彼らが起こす超人的な現象、あるいは行動を自らに置き換えたり、彼らの姿を夢想することは決して否定されるようなことではない。

それはフィクションの世界と現実を同一視するといった思考ではなく、憧れや理想といった姿を瞼に描くことで人生を豊かにするという方法である。

日々公開される映画をきっかけに、アメリカンコミックスを読んでみようとする方もいるだろう。その際には、是非今回紹介させていただいている作品を候補に入れていただけると幸いである。

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※以下ネタバレ注意※
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③『シャザム!:パワー・オブ・ホープ』

噴火する火山。マグマの中を突き進み、今にも吹き出さんとする溶岩流に抜け穴を作り出したのは────キャプテンマーベル!

彼こそは選ばれし少年。SHAZAM!の呪文を唱えれば、彼にはその六文字に込められた六つのパワーが授けられる。すなわち────。
・SOLOMONの知恵!
・HERCULESの腕力!
・ATLASの耐久力!
・ZEUSの力!
・ACHILLESの勇気!
・MERCURYの速さ!

スーパーマンに匹敵する超人的なパワーを持つヒーロー。それがキャプテンマーベルである。

そんな彼は今日も災厄に襲われる人々を救って見せた。煮えたぎる溶岩で溢れる山へと大岩で蓋をし、人々が住む町へとそれが襲い掛かるのを防いだのである。
彼の活躍は多岐に渡る。銀行強盗に立ちふさがり、脱走した動物を捕獲し、さらにはメルトダウン寸前の原子炉へ突入し、燃料棒を素手でつかみ取って見せる。
笑顔を忘れないヒーロー。それがシャザムの呪文でも知られるキャプテンマーベルの魅力でもあるのだ。

しかし、その正体もまた忘れてはならない。彼は過酷な人生を送った孤児でもある。15歳の少年、ビリー・バットソン。それがキャプテンマーベルの正体でもあるのだ。

ビリーは自分に誓いを立てている。パワーを個人的な問題に使わないこと。それを破ったのは、今のところ孤児である彼が住む場所を見つける際に変装したキャプテンマーベルの姿を利用した時だけである。

そんな彼の下に、キャプテンマーベルの活躍を伝えるラジオのパーソナリティーでもあるビリーの下に大量の手紙が届いているのを上司から告げられた。袋いっぱいになったそれを彼は抱え、家へと持って帰る。
内容の大半はスパムメールじみた代物だらけだった。だがその中にキャプテンの姿を描いた無数の手紙があるのを目にする。それは小児病院からの手紙だった。
例え無敵のキャプテンマーベルであっても、その心は疲弊する。しかし、そうも言っていられないことを理解した次の瞬間、ビリーは呪文を唱え空へと飛び出した。

「シャザム!」

彼がまず向かったのは、ロック・オブ・エターニティと呼ばれる、彼に無敵の力を授けた老師の霊体が鎮座する庵だった。

師は予言めいた言葉を彼に告げる。
”子供らが英雄に寄せる夢は、明るく輝く炎のようなもの。だがその炎は小さく、慈しまねばすぐに掻き消えてしまう…”と。
それは一つの試練がキャプテンマーベルに訪れることを意味していた。

病や怪我は、その心を蝕む。如何なる理由であれ、自らの体がこれまでと異なり満足に動かなくなることは子供達の心身に大きな負担をかけるのだ。

そんな彼ら彼女らに、空から舞い降りた笑顔の男は語り掛ける。

「一緒にいいかな?」

空へと投げるだけだったベースボールをキャッチしたキャプテンマーベルの周囲は、あっという間に無数の子供たちに囲まれた。
しかし喜びに包まれる子供だけではない。先ほどボールをキャッチした子供の顔は凍り付いたまま、ボールを落とし無言でその場から立ち去っていく。

キャプテンはその子供こそが今にも消えそうな炎なのだと、直感的に理解した。

手紙を送ったミラー先生に紹介され、病院内にあった暗い雰囲気が吹き飛ぶ!

彼らはキャプテンマーベルの冒険に同行することを願った。危険を伝え避けようとする彼だったが、子供達の願いは強く断り切れそうにない。だからひとつだけ約束を守らせることにした。

「じゃあひとつだけ方法がある、私の言葉をよく聞くんだよ」

こうして彼らはキャプテンマーベルの冒険譚を耳にする機会を得た。ワニの頭をしたギャング共が打ち倒され。線路に足を挟まれ今にも轢かれそうな子供を助ける為に列車は止められ、チャリティーショーでは数頭の熊でジャグリングをしてみせ、暴走する巨大ロボットはキャプテンのパワーを前に沈黙を余儀なくされる。風変わりな友人として喋る虎を紹介し、宿敵が放つ怪光線を平然と受け止め、マーベルファミリーと共に落下する隕石を受け止めて見せる。

彼らはまるでその場にいるかのように、キャプテンマーベルが繰り広げてきた数々の冒険をその耳にし、体験したのだった。

その後もキャプテンは大忙しだった。難しい目の治療が必要な少女の為に日本へ行き、医師を車に乗せアメリカまで運んで見せ、その後も子供たちの願いを叶えて見せる。動物園に住む猛獣の目の前へと彼らを連れていき、深海へと魔法のボールに入れた彼らを運ぶことでその姿を見せ、さらには彼らを抱えて空を飛ぶことでキャプテンの視界を味わわせる。

その後、キャプテンは子供達を思わぬ危機に陥れるところだった!
国立公園で絶景を楽しませる予定が、ダム近くで違法な盗掘を行う連中によってダムに罅が入り決壊しようとしていたのだ。

悪党共はキャプテンマーベルの怒りに触れたことで肝を冷やしたが、思いがけず連れてきた子供達もあわや濁流に飲み込まれる寸前となってしまった。キャプテンは自省したが、助かった子供たちはど派手なローラーコースターに乗ったつもりでいたらしく、悲鳴は瞬く間に歓声へと変わっていった。

キャプテンが持つ子供らしさ。それが子供らにも伝わっているようだった。

しかし試練の時は近い。彼は出会ってから顔を見ることが無かったベースボールを持った少年────ボビーの元を尋ねることにした。
しかし彼は恐怖していた。彼にとって、大人の姿であるキャプテンマーベルは恐怖の象徴に繋がる姿だったのかもしれない。そして、彼が怯える理由は、キャプテンマーベルが持つソロモンの知恵など無くてもすぐにわかることとなった。

ビリーの行動は早かった。一度目はボビーの友人として訪れ、それでも話を受け入れないボビーの叔父には、キャプテンマーベルの姿を持ってして恫喝した。”一度だけチャンスをやる”と。バットマン流のやり方がボビーに平穏をもたらすかはわからないが、もしチャンスをものにしなければ彼は後悔することになるだろうことは何よりもわかりやすかった。

そしてキャプテンは最後に、重病の子供たちを訪ねた。間もなく旅立っていく子供達の元を。幼い少女はキャプテンに笑顔を向け……そのまま旅立っていった。マーベルが持つ無敵の力をもってしても、死に行く子供を救うことは出来ない。それでも、笑顔になれた彼女の姿は彼の胸に何かを残していった。

病院を去ったキャプテンは再び老師の元を尋ねた。シャザム老人の元を。

────キャプテン・マーベルであろうと、勝利を望めぬ戦いもある

────そうかもしれませんが、だからといって戦うことを諦めたくはないのです。今しも悲しみに沈まんとする人の為に、戦い続けたいのです。

師の言葉に、キャプテンマーベルは答える。そして師は頷きながら再び口を開いた。

────お前はあの子供らに希望を授けた。希望とは、善良にして大いなる力だ。そして、わしに近しい若者が失いつつある力でもある……もう、誰のことかわかっておるな?

────なんてことだホリー・モリー

責務と重責。無私の行いは、個人の行動を著しく狭める。それが例え如何なる行いであっても。

それはキャプテンマーベルでなくとも起こりえる話だろう。仕事だけの為に生きる人生は詰まらなく、ひどく乾いたものとなる。人が生きる為には、希望が必要なのだ。そしてキャプテンマーベルは希望を与えてきた。

だが同時に、キャプテンマーベルはその希望を与えてきた相手からも希望を貰うことが出来たのだ。

子供であり大人でもある。孤独を知るヒーロー、キャプテンマーベルの行く先には数多の苦難が待ち構えているだろう。だが彼は立ち向かう為の希望を得た。それは素晴らしいことなのだ。希望をもたらすことが希望を生む。

無限に続くことを願ってならないこのサイクルは、やがてより偉大な存在を生むだろう。────それは、次のキャプテンマーベルかもしれない。

────不安や恐怖を消し去る解決策は、何も海底旅行や遊覧飛行だけではない。
────孤独に沈む友の元を訪れる。たったそれだけのことでも、大きな力になりうるのだ。
────友と共に笑い、その球を受ける……たったそれだけで。
『シャザム!:パワー・オブ・ホープ』ラストページより

『ワンダーウーマン:スピリット・オブ・トゥルース』

ビッグ3の一人に数えられる、偉大なるヒーロー、ワンダーウーマン
慈愛に満ち、しかしひとたび戦いともなれば彼女の力はあらゆる悪党を平伏させる。

神々によって隔離された土地。パラダイスアイランドに住まうアマゾン族の女王にして英雄たるヒッポリタの娘にして、ゼウスの寵愛を受けた子。

人々へ平和と慈悲を届ける為に遣わされた存在、それが彼女────ダイアナだ。

テロリストによる首相の執務室での立て籠もり。ワンダーウーマンはそこへ介入し、テロリストを鎮圧して見せる。
テロリストが見せる表情は、困惑、屈辱、そして憎悪と恐怖。ワンダーウーマンによってあっと言う間に鎮圧された彼らは、その国の司法によって裁かれる。その結果の善悪に、彼女は関わらない。それが彼女の立場であり、ポリシーだからだ。

────しかし、そのポリシーだけでは解決しない問題が現れた。

彼女はアマゾン族の親善大使として、世間一般にとってはヒーローとして、日夜世界中を駆け巡る。ある時は銃を手にした強盗犯を止める為に。ある時は燃え盛る工場に取り残された人々を救う為に。あるいは密猟者を相手に囚われた動物を救うために。

彼女は王女であり、気高く、その役割に誇りを持っている。……しかし、同時に彼女もまた悩み苦しむ時がある。他の多くのヒーローがそうであるように。そんな時に彼女へ助言をもたらすのは、彼女の母親であり、師であるヒッポリタ女王だ。彼女は娘へ言葉を授ける。

────論理に従えば、あなたの慈愛の心を分かってくれるはずです。あなたこそは、真実と理解への道標だという事が。

だがその言葉だけでは足りない。人々が真に論理的にコミュニケーションを交わし、それに従うのであれば、世の中から争いという概念は消え去るだろう。それはすなわち、世の理は”そうではない”ということを証明しているということでもある。希望こそあれど。

そして彼女の行動は、必ずしも歓迎されるとは限らない。────圧政に声をあげる大衆、彼らによって蹂躙されんとする人々を見て、ワンダーウーマンは即座に行動する。今にも戦車に轢かれんとする少女を、戦車を持ち上げ彼女は助ける────が、彼女に向けられたのは恐怖のまなざし。

力を持たない人間にとって自分もまた無機質な戦車と変わらないことを、ダイアナは知ることとなる。

ワンダーウーマンの衣装は、アマゾン族に伝わる戦士の装束である。いささか扇情的なきらいがあるそれは、彼女のことを知らなければ文字通りの姿で見られることになるのが多い。それは彼女が政治的側面に立った際、より強く彼女自身へ向けられることともなるのだ。

外交特使として、とある村の人間が”人間の盾”として利用されることを耳にした彼女は政治的手段をもってその問題の解決に挑んだ。が、結果はワンダーウーマンの力をもってしても────否、ワンダーウーマンだからこそ民衆から拒絶されることとなる。
……以前『ピース・オン・アース』で紹介したスーパーマンのように、彼女が守るべき人々から石を投げられることによって。

悩み苦しんだ彼は、友人に相談することにした。


────使命の重さと、達成までの道程の険しさに思わず挫けそうになったわ。クラーク、それがあなたに連絡した理由よ……。
────光栄と言うべきかな、ダイアナ。先に言っておくけれど、私も君と同じ経験をしたよ、何度もね。しかも、芳しい結果は残せてない。それでもよければ、喜んで話し相手になるよ。

力だけを見るなら、地上において並び立つものを探す方が難しい超人の代表とも呼べる二人。しかしだからこそ彼らは、自らに課したその重さに時として挫けそうになる。

ダイアナがクラークを頼るのは、そういう意味でもお互いに異邦人であるという共通項があるからこそのものではあるだろう。ダイアナとクラークはお互いのことを省みつつ、なぜ正体を隠すかを話し合う。

────ダイアナ、君も私も、空から見下ろす景色の雄大さを知っているけれど、ほとんどの人達は、地に足をつけ、日常だけを目にして暮らしているんだ。

そんな会話の中で、クラークはダイアナを完璧だと賞賛する。その美貌と力はあまりにも畏敬に値すると。人と超人の間にある距離。それは一朝一夕には縮まるものではない。ましてやそれが、超人を代表するような存在から差し伸べられた手であるならば、それを知らない人間からしてみれば畏怖を抱いてもおかしくはない────クラークはそう彼女にゆっくりと諭すように語りながら、自分自身がなぜ普通の人間として溶け込み暮らしているかを語った。

────それより数日後、ダイアナはデモ隊の中に紛れていた。地に足をつけて歩く人々がもたらす感情の渦。彼女は大使として、常に彼らより先んじて問題を解決しようとしてきた。だからこそ、デモという行動にまで至る人々の怒りをもっとも近くで目の当たりにする彼女は、そこに潜む暴力の気配を戦士として感じ取った。

それは一瞬のことだった。ショットガンを取り出した男を殴り倒し、銃をへし折り彼女はその場を去る。あわや流血によって生まれる狂乱を未然に防いだ彼女は、正体を隠したまま姿を消した。

────旅は続く。助成金を不正に受け取り、なおかつ森林を伐採する連中。彼女は再び反対派の群衆に紛れていた。だが役人は彼らの相手をするどころか、退去を強制してきた。紳士的な振る舞いにある欲を剥き出しにしたその態度。ならば、その報いは受けるべきだろう。ワンダーウーマンの力によって破壊されたエンジンや、ねじ切られたワイヤーは、彼らがあると思っていた制限時間を大幅に狭めることだろう。

────ダイアナは世界を放浪していく。幾つもの偽名を使って。
内戦を終えたとはいえ、戦禍は人々を蝕む。地雷によって傷ついた子供達へ声をかけ、彼女はそのまま地雷除去プロジェクトへ参加する。
対人地雷。普段であればブレスレットで叩き潰すそれを、彼女は自らの力を一切用いず、人のやり方で対処していく。それがどういう結果を導くかを彼女はその目にしてきたのだ。そして、それがどれだけの手間を経て除去されていくかも、その手で理解していく。

────そして話は戻ってくる。かつて彼女が石を投げられた土地。攫われ、〝人間の盾〟とされるべく連れ去られてきた女性らがいる場所へ。

ダイアナは告げる。────私達はどこにも行かない。

頬を打とうとする手首を握って砕かれた司令官は、部下へ向かって彼女を射殺するよう命ずる。彼女はその身に纏ったヒジャブを取る。

────今こそ人間の盾が必要な時だ……喜んで盾になろう。

再び、アマゾン族の戦装束が彼らの前へと晒される。今度は石が投げられることはなかった。

彼女の怒りはその場にいる兵士の男だけに向けられるものではなかった。投げられた燃料が爆発し、炎を背後に彼女は独白する。

────良心の声は決してかき消せはしないのだ……嘘などでは、それが真の理。

逃げ惑う兵士たち。ワンダーウーマンはフェンスをこじ開け、女性達を逃がす。ダイアナは、彼女達からの賞賛など期待していなかった。それは彼女の目的ではないからだ。

こうして助けることが出来た命こそが彼女にとっての勝利の証。

平和の旗手、戦士、スーパーヒロイン、半神デミゴッド……彼女は複数の名を併せ持つ。多くのヒーローが、複数の名で呼ばれるように。彼女自身は一部相反するそれらの要素を抱えつつ、しかしそれから逃げず日々を歩いていくだろう。

彼女はクラーク…スーパーマンを賞賛する。彼の存在が人々のみならず、彼に倣う超人らにとっても希望であることを。そして彼女は戦うことを誓う。1人の女性として、そしてワンダーウーマンとして。

────自分の居場所を見つけるのだ。男達の……いや……人間の世界で……
『ワンダーウーマン:スピリット・オブ・トゥルース』ラストページより

あとがき『神々が齎したモノ』

今回紹介させてもらったエピソード。そのどちらにも共通する内容がある。それは、キャプテンマーベルとワンダーウーマンという二人のヒーローは、どちらもがゼウスの祝福を受けているということだ。

シャザムの呪文でも知られるキャプテンマーベル、そしてワンダーウーマン。映画化の時期が比較的近い彼らの名は、このコミックスが出版されたより後に映画化が為されている。それも近年に、だ。

彼らはある意味でどちらもが半神だと言える。しかし同時に、その半分は人間としての部分を抱えているのも、彼と彼女の魅力なのだ。

ビリー・バットソンは孤独を乗り越え活躍する少年であるし、ダイアナは女性としての自分を誇りに思い戦う女傑そのものである。

そして彼らは共に、人々に希望を与える存在なのだ。全てのヒーローがそうであるが、必ずしもそうでないこともあるだろう。或いはifの歴史においては残虐な侵略者として描かれるかもしれない。だがそれでもなお、ここにおいて描かれる彼と彼女らの物語は、人々に、そして何より二人がそれぞれの希望を胸に抱く冒険を描いたものであるのだ。

スーパーヒーロー、そしてスーパーヒロイン。超人とは、かくも孤独かもしれない。だが彼らが目指す先は孤独ではないのだ。

それは、彼らが成し遂げてきたことが証明してくれている。

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